表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/125

第061話 検証結果

 『マスター、マスター。』

 と腕を揺すられる感覚で目が覚める。


 目をあけると仰向けに寝ていた僕の左腕にくるまった金属の輪っかが、勝手に左右に転がって僕の腕を揺すっていた。

 「ウィン?」

 『おはようございます、マスター。アナスタシア様が来られてます。』


 扉をノックしている音がする。

 「どうぞ。」

 と声をかけると、扉を開け黒鎧(アナスタシア)が入ってくる。

 「体調はどうですか?夜遅くまで灯りがついていたと聞きましたが。」

 夜更かしして魔法陣の実験していたとは言えぬ。

 「ええ、大丈夫ですよ。」

 「もう少しで朝食ができるそうなので呼びに来たのですが・・・」

 と黒鎧(アナスタシア)は僕を見る。正確には僕の首から下の服を。

 「昨日から服装が変わっていないのは良くないですね。」

 「いや、そうは言っても昨日着のみ着のままでこちらに連れてこられたので。」

 黒鎧のままのあなたがそれを言いますか?と思いながら答える。

 「そうでしたね。では代わりの服を持ってくるように伝えておきましょう。」

 着替えを取りに帰っても良いですよ。とはならないらしい。


 「そういえば、聞きたいことが。」

 「昨日もたくさん答えましたが?」

 「あれから新しく発生した質問です。」

 「なんでしょう。」

 と服を見ていた黒鎧(アナスタシア)が、角度を少し上げ僕と向き合う。

 時間停止の魔法陣のことを聞いてもよいが、まず先に聞きたいことがある。

 「昨日僕の護衛についてくれた、ウィン、ですか?僕のことをマスターと呼ぶようになったのですがなんでですかね?」

 「呼ぶ?ウィンは発声できませんが。」

 「なんというんですかね。頭の中に直接聞こえるというか。」

 『()()です。マスター。』

 僕の左手に絡まったままのウィンが伝えてくれる。

 「ウィンが言うには()()というそうですよ。」

 とウィンから教えてもらった単語をそのまま黒鎧(アナスタシア)に伝える。


 すると黒鎧(アナスタシア)は甲冑のままおでこのあたりに手をやり、

 「朝からエヴァが騒いでいた原因はあなたでしたか。」

 とつぶやいた。

 「えっ?僕何かしたんですか?」

 「()()()()が解除されたと騒いでいたのです。」

 「()()()()とはなんですか?」

 と思わず聞き返す。なんだそれ?なんでそれの解除が僕のせいになる?

 「言葉の通り、相手を従属化する魔法です。昨日エヴァがあなたにかけようとした魔法です。」

 なんつー、恐ろしい魔法を僕にかけようとしたんだ、あの娘は。

 「従属化した者とは思念で会話できます。とはいえ近くにいる者か、術者が望まないと会話できませんが。」

 黒鎧(アナスタシア)はそこまで言うと僕に一歩近づいて来た。

 「いくつか聞きたいことがあります。私もさんざん答えたので答えられるものは答えてくださいね。」

 口調は優しかったが、雰囲気が拒否を許さない感じだったので黙ってうなづく。

 「アドリアーナがどうしてあなたを気にかけるのか気にはなっていましたが、先にそれを追求すべきでしたね。あなたは一体何をしたんです?」

 黒鎧(アナスタシア)にそう問われ、昨晩のことをどこまで話すか少し迷う。

 「実は僕は魔道具士でして、昨日目にした魔法陣を試してみようかと昨晩テストを。」

 甲冑の隙間から見えるヘーゼル色の目が見開いているのが見えた。 

 アナスタシアは机の椅子に僕と向き合う形に座るとこう言った。

 「あなたは昨晩エヴァの魔法を試したのですか?」

 「はい。」

 「あれは人には言語化できないはずです。魔法陣にしてテストしたということでね。」

 「あー、そもそも僕は魔力はありますが、魔法は一切使えません。最初から魔法陣一択です。」

 「・・・。魔法陣を作成するのには時間がかかると聞いたことがありますが。」

 「僕は1つの魔法陣を作るのに30分程度で作れます。」

 「・・・。そうですか。でも先ほど目にしたと言いましたがエヴァが見せたのはあの時だけですし、発動時は私が手で塞いでいたでしょう?」

 「僕は()()()()持ちでして。魔法陣が浮かび上がっていれば十分です。」

 「・・・。効果もわからないのに試したんですか?」

 「試さないとどんな魔法かわからないでしょう?それに僕に向けてきたものなので、火球とかの危険なものではないかと。」

 「・・・。あれは結構魔力も必要だと思いますが。」

 「はい。寝る間際に全魔力注入しました。」

 「・・・。アイテムを使って魔力を補填したわけでもないのですね。」

 「はい。そうですね。どれだけ魔力注入すればいいかもわかりませんし。アイテム持ってても使わなかったと思いますよ。」

 質問に答えるたびに少し間が空く。感心してるのか呆れているのかは甲冑越しなのでさっぱりわからない。

 「なるほど、にわかには信じがたいですが、エヴァの()()()()をアイテムの補助なしで上書きしたということですか・・・」


 30秒ほどあごに手をあてていた黒鎧(アナスタシア)だったが、ふとこちらを向くと。

 「私の魔法も試したのですか?」

 と聞いていた。隠してもしょうがないのでうなづく。

 「そうですか。どうでしたか?」

 と少し興味深そうに感想を聞いてくる。

 「真っ暗闇になってしまうので、ちょっと使いづらいですね。」

 と答えると、黒鎧(アナスタシア)は笑い出した。

 甲冑が両手を口元にあてて笑うのはかなりシュールな絵面(えづら)であるがそこは口にしない。 

 「()()()()も合わせて使えばいいではないですか。」

 「あっ。」

 と思い至る。確かに()()()()を使えば魔力を帯びたものが視覚化されるので、真っ暗闇にはならない。

 魔力を帯びたものとは生き物や魔道具のことだ。

 「今度試してみます。」

 と答えると黒鎧(アナスタシア)はようやく笑うのを止め、立ち上がると、

 「そろそろ朝食の時間です。着替えを持った者を寄こすので、着替えてください。」

 と言うと部屋を出て行った。


 『ウィン。』

 とウィンの方を見ながら口に出さずに話しかけてみる。

 『なんでしょう、マスター。』

 どうやら、()()で口に出さずに会話できるみたいだ。便利。

 『エヴァが()()()()使ってたのはテムステイ山のどれくらい?』

 『ほぼ全員ではないでしょうか。抵抗(レジスト)できていたのは10に満たないかと。』

 『というとそれを上書きしたということはほぼ全員が僕の味方ということ?』

 『そうなりますが、エヴァ様の魔法を抵抗(レジスト)できるということはそれだけで強者ですので、数はなんの保障にもなりません。』

 そうか。黒鎧(アナスタシア)も特に変わった様子はなかったので抵抗(レジスト)側だな。

 となると、昨日の4人は変わってないだろう。

 『抵抗(レジスト)したかどうかの見分け方は?』

 『念話で話しかければよろしいかと。従者であれば無視はできません。』

 なるほど。わかりやすい。

 『恐れ入ります。』

 『あれ?今()()しようと思ってないけど。』

 『感情は伝わりますので。』

 『そっか、じゃああんまり嘘もつけないね。』

 『いえ、マスターが口にされることがこの世の真実です。』

 あまりの重さに口を閉じる。と同時にドアがノックされた。


 『どうぞ。』

 と扉に念話で回答してみたが、しばらくすると再びノックされた。

 どうやら抵抗(レジスト)側の誰からしい。

 「どうぞ。」

 と口に出して言うと、身長180cmほどの長身のメイドが手に服を携えて入ってきた。

 「アナスタシア様からタック様の着替えを手伝うよう仰せつかりましたターシャと申します。」

 と左右に伸びた耳を持ったダークエルフの女性はニコリともせずにそう言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ