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第058話 回想 -ある日の自称姉との会話-

「ターちゃん、校内対抗戦優勝したんだって? おめでとう!!!」

 久しぶりに会ったアド姉はそう言って、僕に抱き着いて来た。

 胸に角が突き刺さるが、お腹にあたる2つの弾力のせいか痛くはない。

「タック、顔がにやけてるわよ。」

 と隣に立っていたトリィが無表情で僕に言う。

「いや、アド姉に久しぶりに会えたからうれしくて。」

 と本音をおくびにも出さずにトリィに答える。


「アド姉、私も優勝したんだけど。それも総合部門で。」

 と今度はアド姉に文句を言うトリィ。

「うん、それも聞いてるわ。ベアちゃんも優勝おめでとう。」

 言葉はトリィにかけているが、僕に抱き着いたまま告げたので、トリィの機嫌は良くない。


 ローデス商会にある商談用の部屋の一室で僕たちは久しぶりに会っていた。

「魔法が使えない子が魔術部門で優勝したことに文句はなかったの?」

「言われたよ。でもその場で魔道具を作っちゃダメってルールはないから。」


 対抗戦魔法部門のルールは

 ・武具防具の使用禁止

 ・自らが生成したもの以外での物理攻撃は禁止

 (魔法で作り出した石や水を相手にぶつけるのはOK)


 なので、試合開始から攻撃を避けながら攻撃魔法の魔法陣を書いて攻撃する僕は違反にならない。

 ちなみになんで避けられるのかと言うと、初見でない限り魔法陣を見た時に何が来るかわかるからだ。

 決勝戦の相手だけは初見の魔法を使ってきたから少し焦ったけど、難易度高かったせいか唱え終わるまでに時間がかかって、僕が防御魔法陣を書く方が早かった。


 僕のやり方は相当イレギュラーだったらしく、先生方も頭を抱えていた。

 が、結局おっさんが、”ルール違反じゃないのじゃろ?余も確認したが不正はしとらんぞ”のひとことで終息したらしい。


「で、ターちゃんに聞きたいことがあるんだけど。」

 と上目遣いでアド姉が聞いてきた。僕に抱き着いたままなのは相変わらずだ。

「何、アド姉。」

「ターちゃんは一度見た魔法陣は覚えられるって本当?」

「本当だよ。あんまり言いふらすと貴重な魔法見せてもらえなくなるから言ってないけど。」

「私がいくつか魔法見せるから、その魔道具作ってくれないかな。」

「いいよ、別に。」

 対抗戦を見た貴族の人から”作ってほしい魔道具があるので相談にのってくれないか”と声をかけてはもらったが、まだ日程も決まってない状態だ。いくつか作るぐらいなら問題ないだろう。


「じゃあ、ちょっとターちゃんのお部屋行きましょう。」

 と僕の腕をつかみ、部屋へと移動しようとするアド姉。

「ちょっと待って、ここじゃダメなの?」

 と慌てて言うトリィ。

「えー、ここで見せるの恥ずかしい」

 とモジモジするアド姉。

 見せてもらうのは魔法陣のはずだが・・・言い方よ。


 結局何を勘違いしたのか顔を真っ赤にしたトリィも僕の部屋についてくることになった。

 一人部屋で、テーブルなど特にないので、机の椅子に僕が座り、ベッドにアド姉とトリィが座る。


 「じゃあ、これから見せていくわね。」

 とにこにこしながらアド姉が言う。

 「その前に身体強化の魔法陣はもう覚えているのかしら。」

 「書けるよ。トリィが使えるから見せてもらった。」

 「精神耐性は?」

 「それは知らない。」

 使える人がいない魔法は知らないのだ。

 「じゃあ、それからやりましょう。」

 と言うと、右手を前にかざし、さっそく何事か早口で唱える。

 するとかざされた右手のひらに魔法陣が浮かび上がった。

 目にしたものを机の上で紙に書き写す。

 「これだね。」

 とアド姉に見せると、

 「ふーん、私もはっきり見るのは初めてだけどこんな形なのね。」

 と言う。

 「ちょっと待って。初めて見るってことは正解かどうかわからないってことでしょ?ちゃんと動くことをどうやって確認するの?」

 とトリィがアド姉に聞く。

 「魅了の魔法だったり、威圧をかけたりして確認するしかないわね。」

 とアド姉があっさり答える。

 「ということで、ターちゃん、その紙に魔力込めて。」

 「えっ、何する気?」

 「ターちゃんに魅了の魔法かけるの。だからちゃんとそれで抵抗(レジスト)してね。」

 「待った待った。それ失敗したらどうなるのさ?」

 「ターちゃんが私を好きになるわ。」

 「すでに好きだと確認できないよね。」

 と言うとアド姉は小さく”グフッ”とつぶやきよろめいた。

 今日ここに着いたばかりだから疲れてるのかな?

 嫌いな人を姉ちゃんと呼ばないと思うけど。

 「アド姉、調子悪いの?別に明日にしても良いけど。」

 と声をかける。今世は男女平等ではあるが、女性に無理をさせないぐらいの気は使うのだ。

 ちゃんと気遣いはするので、トリィもジト目で僕をみないでほしい。

 「だ、大丈夫よ。じゃあ威圧の魔法で確認しましょう。」

 大丈夫と言うので、魔法陣を書いた紙に魔力を込める。

 「いいよ。」

 と言うと、アド姉が何かつぶやいた。

 それだけで何か起こったようには見えなかったが、トリィが眉をしかめている。

 「トリィ、どうしたの?」

 と聞くと、アド姉が

 「今周囲に威圧をかけてるからよ。ターちゃんが感じないってことは抵抗(レジスト)できてるってことね。」

 「何も感じてないから実感わかないけど。」

 「うまく作動してるって証拠だから自信持ちなさい。これと身体強化の魔道具は作成して身に着けておくことをお勧めするわ。トリィちゃんにも作ってあげてね。」

 「えっ、僕たち用なの?」

 「そうよ、学校卒業したら王族、貴族とも付き合わないといけないんだから。悪い人たちに目を付けられないようにしないと。」

 「そんなに縁はないと思うけどなぁ。」

 貴族の人に声はかけてもらったけど、この後も続くかどうかはわからない。

 「そんなことないと思うわよ。」

 アド姉は何か知っているのか、笑いながらそう言ったが理由は教えてくれなかった。


 その後、アド姉はいくつか魔法を見せてくれた。

 トリィも何故か、僕に新しいものをいくつか見せてくれた。

「全部攻撃魔法だね。」

「そうね。他はもう見せちゃってるし。タック攻撃魔法興味ないでしょ。」

 確かに。自衛以外で使うことはないね。

「さすがトリィ、僕と言う人間をよくわかっている。でもなんで今見せてくれたの?」

 と聞くと、顔を赤らめながら

「だって、タックがアド姉の魔法陣を興味津々で見てたから・・・」

「ん?」

 どういうこと?と思って聞き返すと、

「私の魔法陣も見てほしかったのよ!!!」

 とトリィはさらに顔を真っ赤にしてうつむきながら言う。

「何、そのかわいい理由。ベアちゃんはちっちゃい頃から全然変わらないわねぇ。」

 とアド姉がほほ笑みながら見ていた。

「何よもう、いっつもからかうんだから。」

 とトリィは言うが、うつむいてるからアド姉が慈愛の表情で見てたのに気づかないだけだと思う。

 そもそもトリィが見てるときは、アド姉はそんな表情うかべないからしょうがないんだけど。


「じゃあ、最後に認識阻害ね。」

「「認識阻害?」」

 聞きなれない言葉にトリィと僕の声がかぶる。

「そう、認識阻害。これが使えるといろいろ便利よ。」

 とアド姉は言うと、論より証拠とばかりにいきなり魔法を唱えた。

 唱え終わると同時にアド姉の姿が消える。

「「えっ?」」

 と再びトリィと僕の声がかぶる。

 僕の背中に柔らかいものが2つあたる。

 振り返るとアド姉が僕の真後ろに移動して抱き着いていた。


 抱きつかれた僕を見て、トリィは能面のような無表情で僕たちを見る。

「その名の通り認識を阻害するの。効果は見てのとおりよ。」

 といたずらが成功した時と同じ顔をしてアド姉が教えてくれる。


「アド姉、こんな犯罪に使えそうなものは作らないよ。」

 とトリィを気づかうように断ると、アド姉はしまったという顔をして、

「ごめんごめん。用途は建物をかくして悪い人たちの目にとまらないようにしたいだけなの。」

 といたずらしたことを詫びながら頼んできたので、かわいそうに思い作ることにしたのだった。


「この魔道具を作ったら、こっそりベアちゃんの着替えのぞけるかもよ。」

 などと余計なことを言うので、人の頭ほどの大きさの大理石に書き込んでやった。

「建物に使うんだから、持っていかれたりしない方がいいよね。」

 というとアド姉はあてが外れたようでしょんぼりしながらそれを持って帰っていくのだった。

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