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第057話 テムスティ山の屋敷

「本当にあったよ・・・」

 と僕はテムステイ山にあるはずのない屋敷を目の前にして、思わず独り言を言った。

 黒鎧(アナスタシア)にかつがれたまま他の3人と一緒にテムステイ山に向かっていたが、小一時間立たないうちにふもとあたりに移動して、ある一角に入った途端目の前に大きな屋敷が姿を現したのだ。

「アドリアーナの認識阻害魔法です。」

 と聞いてもいないのに黒鎧(アナスタシア)が教えてくれる。

「アド姉の?」

「ええ、もともと定期的に認識阻害魔法をかけていたのですが、2年ほど前に”認識阻害”の魔道具を持って来てそこに魔力を注入すればよいと。」

 あー、その魔道具僕のだわ。

 魔法陣見せてあげる代わりにその魔道具を作ってほしいと頼まれたことがある。

 ”ある建物を気づかれないようにしたい。軍事利用じゃない。”とは聞いていたが、まさかの魔獣の生息域の建物に利用されているとわ。製作者もびっくりである。


「それ以来ここに姿を見せなくなったので、今回捕まえに行ったのよ。」

 とエヴァが不満そうに言う。

「あなたたちは何者なんですか?あとあなたたちとアド姉の関係はなんなんですか?」

 と今さらながらの質問をする。おとなしくついてきたら小出しではあるが情報を教えてくれはじめたので、普通に聞いてみることにした。

「私たちは司教領民でも帝国人でも王国人でもありません。どこの国にも属していません。」

 とアナスタシアが答える。

「どこの国にも属していない?」

 そんなことがあるのか?

「そうですね。国外追放されたり、脱出したりとか事情は違いますが。」

「あたしのように魔獣認定されて、ここしか住めなくなったというケースもあるわ。」

 とアナスタシアの回答にエヴァが補足する。頭の角が原因だろうか。みなわけありのようだ。

 あとエヴァが魔獣認定と言ったのが気になる。

 僕が授業とかで聞いた話だと魔獣は意思疎通なんかまったく通じない、大きさなり能力なりが異常に成長した生物と言う認識だったんだが。

 実際遠征に出向いたことのあるトリィから話でも農地を破壊する大型害獣というイメージしか沸いたことはなかった。

 だが、今エヴァとは意思疎通ができている・・・。魔獣の定義とはなんだ?


「アドリアーナはそんな私たちに外部の情報や食料を定期的に提供してくれたりしてるんです。」

 エヴァが魔獣認定されることについて疑問に思っている僕に対して、アナスタシアが2つ目の質問に答えてくれた。

「あれ?でも2年前から来てないって。」

「商会のアドリアーナの部下が届けに来てくれてます。」

「えっ、じゃあ何に困ってるの?」

「説明がないのです。」

「説明とは?」

「認識阻害の魔道具を置いて、ここに足を運ばなくなったのは何故か? 情報や食料を運んできて私たちに何をさせたいのか? そして情報や食料と一緒に連れてきた人間をどうすればよいのか?などなどです。」

「人間?人間も連れてきてるの?」

「奴隷というのですか? 同じ人間なのに立場が弱いものをこちらに送ってきているようなのですが、”保護しといて”とメモがあるだけで、何故か?とか、いつまで?とかの情報が全くないのです。」

 なるほど。アド姉の考えはわからないが、いろいろ押し付けられてるだけなので、ちゃんと説明しろというのはわからなくもない。

 むしろこちらの4人の応援したいぐらいだ。


 手足を結ばれた身でありながら心情的には、彼女たちの気持ちもわからんでもないなぁとのんきなことを考えていると、屋敷の前に1人の男が立っているのが見えた。

 黒鎧(アナスタシア)と同じくらいの背の高さの男性だった。

 浅黒い肌で筋骨隆々。かなり強そうな見た目をしている。

 この人もおでこから2本の角が真上に向けて伸びていた。

 亜人、それも鬼人か獣人のどちらかだと思う。角の形からすると鬼人かな。

 腕組みをして、超絶不満そうな顔をして立ちはだかっていた。


「アドリアーナは捕まえたのかよ。」

 帰ってきた4人と僕を見ながら男は話しかけた。

「逃げられたわ。」

 と黒鎧(アナスタシア)が代表して答えると、男は

「はっ、だから俺も連れて行けって言ったじゃねーか。」

 とバカにしたように吐き捨てた。

 だが、4人は気にした様子もない。獣巫女が

「だって、ブルーノ連れて行っても一発でのされて終わるでしょ。」

 と言うと、鬼人(ブルーノ)はこめかみに青筋を浮かべて

「昔のことを言ってんじゃねーよ。今ならあいつにだって勝てるっつーの。」

「私たちに5分持たないのにアドリアーナに勝てるって理論がよくわからない。」

 どうやらこの鬼人(ブルーノ)は結構強そうに見えるが、アド姉相手では足止めにならないと留守番を命じられたらしい。

 事実を言われて言い返せないのか、鬼人(ブルーノ)は黙ってしまったが視線を僕に向けてきた。

「そいつは?」

 といぶかしげに僕を指さしながら言う。

「アドリアーナの弟らしいわ。」

「あいつに弟なんかいねえだろ。」

「でもアドリアーナが姉呼びを許してる子よ。この子にアドリアーナの代わりをしてもらうわ。」

「はっ? あいつが戻ってこなかったら俺があのポジションに着くんじゃねーのか?」

「誰もそんなこと言ってないでしょ。()()は強さだけで決まらないって何度言ったらわかるの?」

「じゃあ、そいつにつとまるのかよ。」

 と鬼人(ブルーノ)が僕を見ながら言う。

「それはこれからわかるわ。」

 と黒鎧(アナスタシア)が答えると、

「じゃあ、そいつの実力とやらをみせてもらうぜ。」

 と典型的な捨て台詞を吐いて、屋敷の中へと入っていってしまった。

「あの~。」

 と黒鎧(アナスタシア)におずおずと問いかける。

「なんでしょう?」

 と甲冑の顔部分をこちらに向ける。隙間から両目が見えた。やっぱり薄茶色だ。

「さっきの人がやってくれるなら僕の用事はないのでは?」

「いえいえ、結構な魔力量をお持ちのようですからやってほしいことはいくらでも。それに・・・」

「それに?」

「あの子だと、アドリアーナは迎えに来てくれないので、」

「あー、やっぱり?」

 人質というポジションに変更はないらしい。

「部屋に案内しましょう。客室なんてないからアドリアーナの部屋を使ってください。」

 そう言うと、黒鎧(アナスタシア)は僕を肩担ぎしたまま、屋敷の奥へと連れて行った。

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