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第056話 襲撃者たち

 身体を揺すられる感覚で目を覚ます。

 お腹あたりに固いものが当たったままだ。

 何のことはない。両手両足を金属の錠で結ばれて黒鎧の肩にかつがれていた。

 両手をかけられた手錠の端を黒鎧がつかんでいて、みじろぎして落ちることもできなさそうだ。

 落ちると痛そうだからしないけど。


 「思ったより早く気づかれましたね。」

 言葉ほど驚いた風でもなく、黒鎧がこちらを向くこともなく話しかけてくる。

 「そりゃこれだけ揺れればね。」

 と僕も周囲の風景の変化に目をやりながら答える。

 木々を次々と後方に追いやるそのスピードは自走車と同じくらいだ。

 これなら自走車に追いつけるのも納得だ。

 足を素早く動かすというよりかは一足が長い。

 2、3メートルぐらいの距離をぴょんぴょんと跳ねるように進んでいく。

 上下に揺れらされ続けたので僕が目覚めるのも早かったのだろう。 


 「僕と一緒にいた2人は?」

 「用はないので置いてきました。女性の方は追いかけてきましたが振り切りました。」

 よかった。とりあえずトリィは無事のようだ。

 「今どこに向かってるの?」

 「先ほどお話した私たちの屋敷に。その前にアドリアーナを迎えに行った仲間と合流します。」

 ミアが検知した4人組か。

 部下ではなく仲間と言った。

 ということは強さで言うとおなじくらいか?

 トリィの攻撃をしのいで、僕をあっという間に倒せるぐらいの強さとなると・・・

 アド姉以外の3人が倒せるとは思えないな。死んでないと良いけど。

 僕の護衛を仰せつかってた3人だから、僕を逃がすことを優先しているはずだ。

 時間稼ぎに徹してくれたら良いが、抜けられるのを止めようと無理しないとも限らない。


 残したメンバーの心配をしていたら黒鎧が飛び跳ねるのを止め、立ち止まった。

 「ここが待ち合わせの場所です。」

 首を黒鎧の頭部分に向け、何故止まったのか聞こうとしたら、向こうが先に答えてくれた。

 察しが良い。

 鎧の隙間から薄茶色の瞳が見えた。

 甲冑の中が空っぽのリビングアーマーというわけではなさそうだ。

 テムステイ山の近くに屋敷があるなんて聞いたことはない。

 そんなもの作ってもあっというまに魔獣につぶされてしまうだろう。

 僕はどこに連れていかれるのか。


 しばらくその場にいると3つの人影が現れた。

 1人は180cmほどの黒鎧よりもさらに頭一つ大きい。

 黒子のように布で顔を覆っているが首から下は青い生地に黒い縁取りを入れたドレス姿だ。

 腰から下が傘を開いたように広がっている。

 もう1人は黒鎧より背が少し低い。

 巫女の様な服をしているが服の色は黒く、朱い模様が入っている。

 顔には仮面をかぶっているが何と言っても特徴的なのが、頭の左右にある三角形の耳だ。

 獣人?

 最後の1人は巫女よりもさらに背が低い女の子だった。

 アッシュブロンドの長い髪にくりくりとした碧色の瞳。

 白く艶のある肌をそなえた顔の真ん中にはすらりとした鼻梁。

 その下に薄桃色の唇が小さく収まっていた。

 瞳の色と同じ碧色のワンピースを着ている。

 ここまでの説明だと普通に聞こえるかもしれないが、この子も頭から十手を連想させるような角が2本生えている。

 これで4人集まったようだが、そのうち3人は顔がわからない。


 「遅かったですね。アドリアーナと一緒ではないということは逃げられましたか?」

 と黒鎧が後から来た3人に話しかける。

 「うん、囲むまでは行けたんだけど逃げに徹されちゃった。」

 と巫女姿の仮面が答える。声からするとやはり女性のようだ。

 「それでその子は?」

 黒子が黒鎧のかかえているもの:つまり僕に気付いて黒鎧に向けて聞く。

 「アドリアーナの弟だそうですよ。あれを姉と呼んでましたから。」


 黒鎧がそう答えると、それを聞いた3人の顔がこちらに向く。

 仮面の()の目は赤色だった。

 前世の知識だと色素の欠落によるものらしいが、この世界だとほかにも理由があるかもしれない。とは言えこれまで会ったこともないので珍しいのだろう。


 「ふーん。」

 とワンピースの女の子が僕のほほに両手をあてて、真正面から僕の顔を見る。

 きれいな顔の子に真正面から見据えられるとすごく緊張する。

 「じゃあ、この子にアドリアーナの代わりをしてもらおう。」

 ん?何しなきゃいけないの?

 と思った次の瞬間、女の子の目に円形の見覚えのある模様が浮かび上がる。

 だが、その模様が完全に浮かび上がる前に黒鎧の手が僕の目をふさいだ。

 「エヴァ、()()は無しです。」

 このワンピースの子はエヴァと言うらしい。

 「どうしてさ?」

 とエヴァは不満そうに黒鎧に言う。

 「この子には急いでいるところを無理言って来てもらいました。アドリアーナが来るのならこの子は返してあげないと。」

 ん?問答無用で連れてこられた気がするが?いつのまに説得されたんだ、僕?

 「アナスタシアはそういうところ、甘いよね。」

 黒鎧の名前はアナスタシア。ということは全員女性か。

 「私たちと違って行くところがあるというのだから邪魔するわけには行きません。」

 なんか訳ありっぽい言葉を言うのだけど、状況が全く分からない。

 そうだ、状況把握も大事だけどこれを確認しとかないと。


 「あの、みなさんに教えてほしいことがあるんですが。」

 と黒鎧に視界をふさがれたまま、口を開く。

 「何?」

 とエヴァが代表して答えてくれた。

 「アド姉を捕まえようとした時に、他に3人ほどいたと思うんだけど、どうなったか知ってますか?」

 さすがに殺しちゃいました?とは聞けない。


 「空気の壁を作って進むの邪魔する女魔法使いは魔法で眠らせました。」

 と獣巫女。ヒビキは生きているっぽい。

 「剣持って向かってくる男がいたので、あごをたたいて眠らせました。」

 と黒子。トッドも生きてるらしい。脳を揺らされたのでちょっと心配だが、死んではいないだろう。

 「笛吹いてうるさい女は・・・うるさかった女は・・・」

 とエヴァが説明しかけて口ごもる。笛を持ってたってことはミアのことだ。まさか。

 「エヴァ、関係ない人に手を出さないって決めたでしょう。」

 と他の3人もエヴァに詰め寄る。

 「うーん、うるさかったので黙らせようとしたのだけど・・・そしたら・・・」

 勢いあまって殺してしまったとかだろうか。すまないミア。

 楽観的に考えてしまった自分を責める。

 「指が笛をかすめてしまって、笛が粉々になってしまったのだ。」

 はい?笛?

 「笛持ってた女の子はどうなりました?」

 と聞くと、笛が壊れたことに驚いていたので、そのすきにあごを叩いたのだそうだ。

 なんなの?あご叩いて脳揺らすの流行(はや)ってんの?


 「気を失ったままだと、獣に襲われて危ないのでは? 仲間が心配なので戻っても良いですか?」

 と言ってみたが、

 「魔法使いの()はすぐ目覚めるだろうから心配いらない。」

 と獣巫女の子に言われてしまった。

 「私が振り切った剣士も戻って来るでしょうから心配ないでしょう。安心して我らが屋敷にお越しください。」

 とあっさりと退路を断たれてしまった。

 まあ、命を取る気がなさそうなのと話が通じそうなのでダメもとで言ってみただけなので、気にしない。


 屋敷とやらについたら手の縄はほどいてもらおう。

 床でも何でもいいから、ちょっと書いてみることにする。

 エヴァの目に浮かんだ()()()にどんな効果があるのか、実験してみないと。

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