第055話 敗北
「アドリアーナはどこですか。」
と黒鎧が問いかけてくる。
鎧の中で発しているためか、くぐもった声になり聞き取りにくい。
男女どちらかもわからなかった。
腰に剣は携えているが、抜刀はしていない。
馬に乗っているわけでもないのに、自走車を追ってきたのか。どんなスピードと持久力だよ。
てっきり魔獣の襲撃かと思ったが、人語をしゃべるということは別口か?
王国領からは出たところで手を出してきたところから、帝国、司教領どちらも可能性はある。
考えたくないが、国内で手出しできなかった王国の誰かの可能性も捨てきれない。
あまりにも情報が少なすぎるので、会話を試みることにする。
「アドリアーナってアドリアーナ・サイフォンのことか?」
念のため、黒鎧に確認する。
「そんな家名だったかな・・・。まあそうですね。どこにいますか?」
家名に興味はない。ということはサイフォン商会狙いの線は消えた。
こいつの狙いはアド姉個人だ。
口調は丁寧だが、プレッシャーがすごい。
リッキーはなんとか耐えているが、じわじわと後ずさりしている。
トリィはさすがに下がりはしないが、柄に手をやり、腰を落としている。
「ここにはいない。」
「外れか。いち早く離脱していったのでこちらと思いましたが、あなたたちは囮ですか。」
僕たちに興味がなくなったのか急にこちらへのプレッシャーが少なくなった。
見逃してもらえるかも。
と思ったが、こいつが引き返すとあの場に残った4人が危ない。特に名指しで探されてるアド姉が。
ミアが感じた4つのうちの1つがこいつだとすると、残り3つもそれなりの強さだと推測できる。
勝てると踏めれば前に出るはずのトリィが距離を保っているのも、必勝の確信がないためだろう。
だが、こいつをこのまま引き返させるわけにはいかないので、僕はカードを切ることにした。
「アド姉に何か用ですか?」
目標がここにいないと気づいて引き返そうとする危険人物に再度こちらに注意を向けさせるカードを切る。
振り返りこちらに背を向けようとした黒鎧が再びこちらを向く。
トリィとリッキーがこちらを向く。
リッキーはこちらを非難するような目だが、トリィはこちらの意図を組んでくれたようだ。
こいつだけでも引き返させない。
「あれを姉と呼ぶと言うことは、あなたはアドリアーナの関係者と言うことですか?」
完全にこちらを向き直った黒鎧が僕を見据える。
「先にこっちの質問に答えてくれませんかね?」
「確かにそうですね。私たちはアドリアーナにしてほしいことがあります。そのために私たちの屋敷に来ていただきたいのです。」
質問に質問を返すんじゃない。思わず口から出たセリフだったが、相手が以外にも素直に非を認め、こちらの質問に答えてくれた。
「僕たちは急ぐんで。また今度ってわけにはいきませんかね?」
「これまで何度もご招待しているのですが、来ていただけないのです。今回近くまで来られたようなので是非に。それから・・・」
「それから?」
「わたしも質問に答えたので、こちらの質問にも答えていただけませんか。あなたはアドリアーナの弟なのですか?」
そこか。確かに。どさくさに紛れてこちらの知りたいことだけしゃべってもらおうと思ったがそうもいかないようだ。
「正確には血のつながりはないですが、赤ん坊の時から時々面倒見てもらってますよ。」
「ほう。」
僕が答えると、黒鎧はひとことだけつぶやくとプレッシャーが完全に消えた。
あれ?敵対しているわけじゃない?
と思った次の瞬間、
「では弟君を保護しておけば、アドリアーナも保護者として迎えに来るかもしれませんね。」
と物騒なセリフをはいて、黒鎧は僕に近づいて来た。
刀を抜く気配もなく、丸腰のままだ。
危害を加えるつもりはなさそうだが、ここで保護者が迎えに来るまで、足止めくらうのはお断りしたい。ただでさえ、ローラさんに追いつくように頑張っているのに。
刀に手をかけてなかった黒鎧だったがトリィとリッキーが左右から抜刀してせまるとさすがに腰から鞘ごと刀をはずした。
棒のように使うらしい。こちらは刃を抜いたが、あちらは刃を抜きはしないようだ。
と思った次の瞬間、リッキーとトリィがで左右に弾き飛ばされた。
リッキーは僕の右手の方に飛ばされ、木に背中からあたりそのまま崩れ落ち起き上がる様子もない、トリィは攻撃を剣で受け止めたようだが、勢いは止めきれたなかったようで、僕の左後方に飛んでいった、
あわてて”空壁”を発動する。
厚さ2mほどの空間でその中で動けば僕との間に見えない壁ができる。
だが、次の瞬間僕の目の前に黒鎧は立っていた。
2mどころか50cmもない距離だ。
いつのまに?
”空壁”が効いてない?
そう疑問に思った次の瞬間、みぞおちあたりに衝撃を受け、僕は意識を失った。




