表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/125

第054話 夜襲

 翌朝ティテック領を出発する。

 朝早くに出発するというと、ティテック伯家の人がサンドイッチを作って持たせてくれた。

 「休憩の時にでも食べてください。」

 と言われたが、浮遊魔法で振動がほとんどない馬車の中だと景色を見ながら優雅に朝食を取りながらの移動が可能だ。

 御者役のミアとヒビキは次の休憩の時に食べてもらう。



 アド姉は当然のように僕たちの馬車に乗ったが、僕の隣ではなく僕と向かい合わせの席に、トリィと一緒に座っている。

 これまでだったら間違いなく僕の隣に座って体を擦り付けてきていたのに・・・

 いや、誤解しないでほしいが擦りつけてもらいたいわけではない。

 「本当に揺れないのねぇ。こんなに早いのに。」 

 とサンドイッチをつまみながらアド姉は言う。

 「これなら予想通り着けちゃうかしら?」

 「宿泊予定地に?そのはずだよ。途中の村で休憩するから、少し遅くなるかもしれなけど。」


 途中の村には寄らずに、最短経路を通ろう。

 昨日の打ち合わせの時にそう言った僕にトッドとヒビキは首を横に振った。

 ティテック領を出てから国境までの間にいくつか村はあるが、そこはレイスリン王国の直轄地となっている。直轄地と言えば聞こえは良いが、開拓用地であり、王国と帝国を結ぶ経路を通る旅人が落とすお金も大事な収入源なのだそうだ。

 なので、貴族は移動の際はなるべくお金を落とす。宿泊施設がないところでも飲食や、その地で売っているものをある程度購入することで、地域の活性化に貢献することが必要とのことだった。


 なのでこれまで他家の街道を進んでいた時は適当に開けたところで馬車を止めて休憩していたが、直轄領では村々の場所にあわせて休憩することになる。

 馬車2台とは言え、貴族は貴族と言うことで、村々に止まった際には各村の村長が挨拶に来てくれた。

 宿泊施設もあると申し出てくれたところもあったが、先を急ぐので丁寧に断りをいれる。

 代わりに保存のきく食糧(干した肉や果物やナッツ類)とか、野宿用の道具(着火剤となる油脂と乾燥した木材)を多めに購入する。

 特に前世でレーズンやドライマンゴーのようなものがあったので多めに買ってみたら、売り手のおばさんの自家製だったらしくたいそう喜んでくれた。

 考え事や作業をしながらつまむのに最適なのだ。食べすぎには注意しないといけないけど。


 3つの村を経由して、あとはできるだけ進んで野宿のポイントを探すことになる。

 場所は野営になれているというトッドとヒビキにまかせることにした。

 先頭の馬車の御者をトッドがして、横にヒビキが座って野営によさそうな場所を探すのだそうだ。

 リッキーが2台目の御者で、ミアは夜番のために1台目の馬車の中で先に寝ている。

 浮遊魔法のおかげで寝心地も悪くないそうだ。


 他の馬車とすれ違うこともないので、遠慮もなく馬車を加速しているようだ。

 みな最初は恐る恐る馬に指示を出していた、だんだんこのスピードにも慣れていた。

 リッキーだけは時々馬が言うことを聞いてくれず冷や汗をかいているようだが、仕事なので頑張ってほしい。


 最後に立ち寄った村では村長からたちのあいさつ攻勢と買い物で軽食が取れなかった僕は、外を眺めながら先ほど手に入れたレーズンをつまんでいた。

 つまみながら思いついたアイディアを片っ端からメモに書いていく。

 そんな僕を見ながら、トリィとアド姉は呆れたような顔をしながらしゃべっている。

 「魔道具バカ」だとかは僕のことだと思うが、「意気地なし」とは誰のことをしゃべっているのだろう。

 ちなみに2人にもレーズンを進めてみたが甘すぎる、太ると散々な評価だった。

 そりゃ売ってたおばさんもふくよかな体型をしていたが、体質かもしれないから決めつけるのは良くないと思う。

 そもそもレーズンいらないといいながらナッツを食べているんだからそんなに変わらないと思う。

 カロリーはそんなに変わらないんじゃなかったか?

 ただ前世ではそこらへんにあまり興味がない人生を送っていたらしく知識はあいまいだ。


 しばらくすると進行方向右手にあった山を近く感じるようになってきた。

 テムステイ山。

 王国、帝国、司教領の3国のほぼ中心にありながら、魔獣の生息域としてどこにも属していない土地だ。

 100年ほど前にこの山を制圧して、他国への影響力を増そうと画策し、軍隊を率いて乗り込んだ貴族がいたそうだが、結果は惨敗。敗走する貴族軍を追った魔獣により、その貴族領の町は壊滅したと本に書いてあった。

 今テムステイ山の周辺地域が王家の直轄地となっているのは貴族が勝手なことをしないようにしているのかもしれない。

 ちなみにここに来るまでにあった3つの村の人たちは壊滅した時の生き残りの子孫だそうだ。

 

 テムステイ山を右に見ながら、帝国領への道を進んでいたが、雲行きが怪しくなったので、予定より少し早いが、宿泊地を設営することにする。


 日中休んでいたミアが、検知魔法を広めにかけるが、周囲に怪しいものはいないようだ。

 火を起こし、火の番と周辺の監視を交代で行うことにする。

 僕も当番しようかと申し出たが、自覚を持てと再び怒られた。

 火の番をする貴族はいないし、そもそも周辺に何かあっても感知できないだろ?

 とのこと。何気に後半の理由が傷つくが、言い返せもしないので、おとなしく早めに寝ることにした。


 ◇◇◇◇◇


 馬車のドアをたたかれる音で目が覚める。

 扉を開けると、まだ外はまだ夜だった。雲はすでに去っており月明りである程度見えるが、たいまつを持ったトッドがいた。

「どうした?」

「ミアが何か検知したらしいので、見に行ってる。やばそうだったら笛鳴らすから逃げてくれとさ。」

「そんなこと言っても馬走らせられないだろ。」

「自動で走らせる機能あるだろ。」

「月明りだけだと危ないよ。」

「そんなこと言ってる場合でもない。ミアの検知だと反応が4つこっちにせまってるそうだ。」

 魔獣4匹って事かな。

「やばいね、それ。」

「ああ、俺もヒビキと時間かせぐから、お前はトリィ、リッキー、アドリアーナさんと先に行ってくれ。振り切れたら俺達も後から追うから。」

「わかった。」

 と答えるとトッドは、山の方に向かっていった。

 僕は奥で寝ていたリッキーを起こし、出発の準備をすることにする。

 リッキーには馬4頭を放してもらうように指示する。

 自走するなら連れてはいけないし、このままつないでおくと魔獣の餌にされてしまうからだ。

 2台を自走できるように魔力を装填しておき、1台の御者席に操作方法を書いた紙を残しておく。


 もう1台の馬車からトリィとアド姉が移動してきた。

 アド姉見たら魔獣が逃げるってことはないかな。

 と思ったがそんなこともなさそうだ。


 どこか遠くで笛の音が響く。

 かなり離れたところまでミアは見に行っていたようだ。

 心配ではあるが、戦闘訓練を受けてない僕が残ったところで足手まといになる可能性の方が高い。

 ここはトッド達を信じて離れよう。

 「ヤバそうだから、馬車を出すよ。」

 と御者台から馬車の中に声をかけると緊張した面持ちのトリィとリッキーがうなづいた。

 アド姉は馬車の窓から山の方を睨んでいる。


 とその時、周囲に響いていた笛の音がプツンと途絶えた。

 「ミア?」とトリィが思わず声を出す。

 「戦闘に入って吹く余裕がないだけかもしれないわ。判断するのは早いわよ。」

 と言いながらもアド姉は馬車から飛び降りた。


 「アド姉?」

 「ターちゃんは先に行ってなさい。私は後から行くわ。」

 「アド姉、私も。」

 とトリィも降りようとしたが、

 「トリィちゃんはターちゃんと一緒にいないとだめよ。」

 とアド姉に押しとどめられる、


 「行きなさい。」

 とアド姉の声に押されるように馬車を動かす。

 馬車を動かしてしばらくして、後方で爆発音のような音がいくつか聞こえたがやがて静かになった。


 20分ほど馬車を動かしただろうか。

 前方に続く道が林の中に続く道になったので一旦馬車を止める。

 このまま進めるにしても暗すぎて危ないので馬車の先頭、御者台の足元あたりに明かりの魔法陣を刻むことにする。 


 その間にみなが追いついてきてくれたらいいが、楽観的にもいられないので、やれることをやる。

 トリィとリッキーも無言で馬車の後方を見ている。

 2人とも剣を持っているが、リッキーはあまり強そうではない。

 人数多かったとはいえ盗賊に捕まってたぐらいだから、剣で圧倒できるほど強いわけでもないのだろう。


 ミアたちが追いついてくれることを願いながら魔法陣が書き終わるという時。

 「ようやく追いつきましたよ。アドリアーナ。」

 と夜よりも黒い色の甲冑姿が1人、馬車に後方に姿を現した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ