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第053話 不穏なひとりごと

 にこやかに手を振るアド姉。

 商会の馬車でローラさんと先に出たはずだが、たった一人で館の前で立っていた。


「アド姉、1人なの?商会の馬車は?」

 と馬車と荷物を皆にまかせて、トリィと一緒にアド姉のところに向かう。

「途中の村に届けてもらう物があったから、先に行ってもらったわ。私はティテック領のお客様と商談があったから残ったの。」

「アド姉、この後どうやって移動する気?」

 とトリィが剣呑な表情を隠さずにアド姉に尋ねる。

「そりゃ、ターちゃんの馬車に乗せてもらうわ。」

 と事も無げに言う。

「2台あるからもう1台に乗って下さい。」

「いやよ、せっかく一緒に行くんだからターちゃんと同じ馬車が良い。」

「一緒の馬車に乗るのは私です。」

「でも、ベアちゃん今までずっと一緒だったんでしょ。」

「婚約者だから当たり前です!」

「ベアちゃん、勘違いしてるかもしれないから言っておくけど、お姉ちゃんは2人と一緒に乗りたいのよ。ベアちゃんにどっかに行けっていってるわけじゃないのよ。」

 あなたをないがしろにしたいわけじゃない。

 その言葉にトリィは詰まる。

 今でこそ、何故か僕を取り合っているが、僕たちが小さい頃は3人でよく遊びに行ってたし、トリィもアド姉によく懐いていた。

 僕とトリィが婚約してからは、アド姉はトリィを出し抜いて僕に抱き着いたりしたので、関係は悪くなっているが、僕にはアド姉がトリィをからかっていただけのようにも見えた。

 抱き着かれて固まる僕を楽しんで、嫉妬して小さい頃と違う面をみせるトリィをからかって楽しんでいるように見えたのだ。

 だが、今回は僕に抱き着いたりちょっかいかけるわけでもない。

 トリィをからかっているわけではもない。

 同じ馬車で一緒に行きましょう。

 そう言っているだけだ。

 そうなると、トリィは

「そ、それならいいけど。」

 とつまりながら答えるだけだった。 


「でしょ~。じゃあ入りましょう。」

 とまるで我が家に案内するかのようにティテック伯の館に僕とトリィの手を引いて招くアド姉。

「どういうこと?」

 と不思議そうな顔をしながら僕に言うトリィ。

「僕に言われてもわからんよ。」

 と答え、アド姉に引っ張られるまま館の中に連れていかれた。


 ◇◇◇◇◇


 ティテック伯家の方にアド姉をなんと紹介しようかと悩んだが、なんのことはない。

 アド姉の客とはティテック伯だったらしい。

 家令の人とやりとりしていて、事前に僕たちのことも話しておいてくれたそうだ。

 自分の商会の馬車を先に送り出して2日ほど、ここに泊まらせてもらっていたらしい。

 勝手知ったる我が家のように中を回り、伯爵家の方に僕たちを紹介していった。

 伯爵家の人も特に疑問を抱くでもなく僕たちを食事の場に連れていく。


 ミアも普段のメイド服ではなく、ベストにズボンのいでたちなので僕たち一行の1人と言うことで一緒にご飯をいただくことになった。

 僕がテーブルの一番奥中央。

 僕から見て右手がトリィ、ヒビキ、トッド。

 左手がアド姉、ミア、リッキーの順に並ぶ。

 アド姉にリッキーを紹介したが、「ふーん。」の一言で終わった。

 ちなみに話を聞き終わる前に襲い掛かる可能性があったので、盗賊の交渉役だった人とは言わず、盗賊に捕まってた人と説明している。


 僕たちの前には肉料理が並んでいた。

 この肉は近くで獲れたイノシシの肉だそうで、わざわざ僕たちのために出してくれたようだ。

 伯爵家の方が男爵ごときに気を使っていただき申し訳ないと家令の人に礼を伝えたが、ティテック伯から丁重に扱うよう厳命されておりますと言われた。

 顔は知ってるが、会話もしたことがない人によくされると裏があるように感じてしまうのは何故だろう。

 多分、ここひと月足らずの貴族生活で僕の心がすさんでしまったからだと思う。

 そう思ったが、肉に罪はないので、みなで美味しくいただくことにした。


 取り分けてもらった肉とパンとサラダの夕食をいただきながら、みなで食事をする。

 トッドはさっそく肉のお代わりを頼みながら、狩猟した人に血抜きの仕方を聞いていたり、ミアはシェフらしき人に肉の漬け込みに使った材料などを聞いていた。

 特に秘密でもないのか、それとも聞き方が上手なのか、知りたいことも聞けて満足そうな顔で2人はお代わりを平らげている。


 あのコミュニケーションスキルは転生しても身についてないな。

 そんなことを思いながら食べていると、

「私たちがここに着くのが遅くなったらどうする気だったの?」

 とトリィがアド姉に尋ねていた。するとアド姉は

「着くまで待ってたわよ。ここでも商談の話はいくらでもあるし。」

 と厚切りの肉を口に運びながらアド姉はあっけらかんと答えた。

 

 ティテック伯以外にもこの領内にいくつか顧客がいるそうな。

「でもイニレ領で、あなたのご両親(キーランとソフィー)に会ったから、そんなに待たずにすむかなぁって予測してたのよ。」

 レイスリン王国のルール(一族の人間は同時に国外に出るべからず)をアド姉も知っていたので、僕たちの出発もそう遅くならないと予測できたそうだ。

「イニレ領で待っててもよかったんだけど、2人の時間も欲しいかなぁって気を使ったのよ。」

 と再び厚切りの肉を口に運びながら言う。

「アド姉に気を使ってもらって申し訳ないけど、タックは馬車の中で魔道具作ってばっかりよ。」

 と肩をすくめながらトリィは言った。

「作ってばかりじゃないよ。トリィと会話もしたじゃないか。」

 とあわてて否定するが、

「作りながら会話でしょ。あとはどうしたら馬車が速くなるかの悩み相談ね。」

 と返される。僕は話ができて楽しかったのだが、トリィはそれほどでもなかったようだ。

「えー、せっかくの2人っきりなのに~。ところで馬車が速くなるって何?」

 アド姉も僕たちが2人でいられるように気は使ってくれたようだが、結果はさほど興味がないようで、トリィがつぶやいたことの方に興味は移ったようだ。


 そこでアド姉にこの3日間の改良の日々を簡単に話す。

「野宿の日数を短縮して、ローラに追いつくのね。」

 今の速度感:今日アニストン領を出てからティテック領に着くまでの時間を簡単に伝えると目的もわかってもらえたようだ。

 明日の朝一で出て、進めれば今の馬ありのスピードでも野宿一泊で済む。

 帝国領に入るか入らないかのところでローラさん達に追いつける算段だ。

 トッドから先日の地図を借りて野宿の予定地を指し示すと、アド姉が眉をひそめた。

 「テムステイ山に近いわねぇ・・・」

 とアド姉は嫌そうな顔をしながらそうつぶやいたが、独り言のようなボリュームだったし、それ以上言わなかったので、僕は気にしないことにした。

 テムステイ山の魔獣も最近はおとなしいと聞いていたし、万一魔獣が生息域から出てきたとしてもそれを追い払った白夜叉がいるんだから、退治は無理でも退却はできるはずだ。


 というか、フラグをたてるような独り言は言わないでほしい。

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