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第005話 魔道具実験

魔法が使えなかった時期の記述がわかりにくかったので修正しました。話の本筋に変更はありません。(2021年7月8日)

「これでいいかな。」

と板に魔法陣を掘り終えた僕はつぶやく。


「ミア、ちょっとこれの逆側持ってくれる?」


と板の一方を持ち上げ壁際に立っていたミアに声をかけた。

板は縦1メートル、横50センチの四角で厚さは3センチほどだ。

何の変哲もない木製の板だ。魔法陣がいくつか彫り込まれている以外は。


「はい、タック様。持ち上げればよろしいですか?」


 とメイド服のミアが、板の反対側をもった。


「そう、今から稼働確認するから。そこの空きスペースまで移動させるよ。」

 と開発室のだだっ(ぴろ)いスペースの一角を指さしながら僕は言う。


 アレックスとミアはあの後すぐに”護衛につきます。”と告げ、午後から開発室に居座り始めた。

 トリィ? 机の横のソファですやすやと熟睡中だ。物音がすればおきるはずだ。自分で言ってたからきっとそうだ。

 でなければ僕の感謝の気持ちを返してほしい。

 アレックスがトリィにかける毛布を取りに行っている間、僕は予定していた実験を進めるために、護衛(ミア)に手伝いを頼んでいた。


 人がいなければ、魔法陣を掘ってた机の上で稼働させてみるのだが、さすがに今回の実験は近くにトリィが寝ているのでできない。


「何の実験をなさるんですか。」

 と板を床に置くとミアが楽しそうに聞く。

「浮遊実験。魔力を注いでみるから少し離れて。」

 それを聞いたミアが少し後ろにさがる。


「じゃ、始めるね。」

 と、魔法陣を刻んだ場所に手をそえて魔力を補充していく。

 順番に手をそえながら、初めて魔法を発動させたときのことを思い出していた。


 ◇◇◇◇◇


 ”僕は魔法が使えない。”

 この世界の魔法とは、術を唱え手をかざすと一瞬手の先に浮かびあがる魔法陣とそこから発生する事象を指す。

 この世界のだれもが得手不得手はあれ、何かしら魔法が使える。

 得手不得手とはその魔法の効果によって判断される。

 魔法陣が浮かび、想定した通りの効果が発生したりする人もいれば、

 魔法陣は浮かぶものの、効果が弱かったり、ごく短時間で終わってしまう人だったりとか。

 だが僕だけは同じように唱えてもかざした時に効果どころか手の先に魔法陣が浮かぶことすらなかった。

 学生時代は魔法の得手不得手の話が出るとき、魔法が全くできない僕は毎回いじられる対象だった。

 他にも座学が苦手な子や運動が苦手な子がいたが、点数の多い少ない、上手い下手の比較ができる差とは違い、僕の場合はできる(オン)、できない(オフ)の差であったので特にいじられ、からかわれることが多かった。

 見かねたトリィがつきっきりで僕の魔法の練習に付き合ってくれたができなかった。


 だがひょんなことから、状況は変わる。

 きっかけはトリィが見せてくれた”火球”の魔法陣を紙に書き写してみたことだ。

 書き写した紙を手にもち、”本当だったらこんな感じに魔法陣が発生するはずなんだよなぁ”と思いながら魔法陣の真ん中に指をあてたところ魔法が発動したのだ。


 物音にかけつけたトリィは魔法が発動したことをよろこんでくれたが、同じくかけつけた会長(おじさん)副会長(おばさん)からはお叱りを受けた。たまたま前に飛んだが、もし裏から手をかざしてたら火球が自分に向けて飛ぶことになる、万一のことを考えて行動しなさいとのことだった。壁を焼いたことに関しては何も言われなかった・・・


 そのあといろいろ試してわかったのは、僕は魔力がないわけではなく、むしろ魔法陣さえあればそれなりに魔力が必要な魔法も発生させることができること。

 最悪のケースとして”僕には魔力が全く無い”という可能性もあったのでほっとした。

 魔法陣そのものを発生させることができない理由はいまだにわからない。

 魔法陣を何かに書いたり、刻んだりしてそれに魔力を注げば、僕でも魔法が使える。

 そのことが、僕のそれまでの劣等感を大いに払拭してくれた。

 事前に魔法陣を作っておけば良いのである。

 使う可能性のある魔法は全部あらかじめ魔道具を作ってしまえばよい。

 そんな理由で僕は魔道具士をなりわいにすることにしたのだった。



 ◇◇◇◇◇



「初めての時は発動するなんて全く思ってなかったから、ドキドキなんてしなかったんだよねぇ・・・」

 とつぶやきながら魔法陣に手をあてると、板がゆっくりと浮かび始めた。

 僕の腰ぐらいまであがると上昇が止まる。

 ”浮遊”はOKのようだ。


「ミア、そこにある本を適当に板の上に置いてみてくれる?」

 と頼むとミアはためらうそぶりも見せず、近くの棚に積んであった本を無造作に浮いている板の上に置いた。

 板は一瞬少し沈み込んだが、バネが入っているかのように元の高さまで戻った。

 ”水平維持”も問題なしと。



「これ、どれぐらいの重さまで載せられるんですか?」

とミアが質問する

「こぼれないように積めば、人一人分ぐらいは載るよ。」

「すごいですね。これがあったらお給仕が楽になります。」

とミアも興奮気味だ。

「まあ、明日の用事が終わったら、ミアの物も作ってあげるよ。」

「どこかに行かれるんですか?」

と真面目な顔になるミア。一瞬で護衛の顔に変わる。


「明日は朝から城の方に。僕が作った魔道具一式見せてほしいって言われてて。」

「城ですか。もしかして”余”さんですか?」

「えっ、なんでミアがその呼び方知ってるの?」

「えっ、タック様がさっきジョニーさんたちと話しているのを・・・」

と言ってミアが”しまった”と言う顔をする。

ジョニーと話していた時にミアはいなかったと思うんだけどな・・・。

と思い、一つの仮定に思い至る。

「ミア、”感知”魔法使ったね。」

と僕がミアの顔を見ながら言うと、ミアはバツが悪そうにコクリとうなずいた。

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