第048話 リッキーと言う男
「ドリル子爵・・・?」
パーティ出席者を覚えた時の名簿にはいなかったはず。
となると王都に気軽に帰れないくらいの距離に領地がある貴族かパーティに不参加を表明してた貴族だなぁ・・・
必死で思い出そうとする僕にトッドが助け船を出してくれる。
「オーグパイムからの帰国時に国内で最初に寄らせてもらうところがドリル子爵だよ。」
「なんだ、君たちはオーグパイム司教領に行くのかい?それにしては方角がずいぶん北では?」
と自称ドリル子爵の次男坊は不思議がる。
「まあ、事情があってね。それより一応こっちがおたくの身元引受人やってるんで、まずはそちらの事情を話してくれないか?それこそなんでドリル子爵家の人間がイニレ伯爵家の領地をうろちょろしてたんだい?」
とトッドが話を進めてくれるのでまかせることにする。
「それはちょっとイニレ家の方もおられるところで話すよ。」
と事情を言いたがらない自称次男坊。
「一応こちらの方はイニレ伯爵家の寄子の男爵様だけど。」
とトッドが僕の方を向きながら、自称子爵の次男坊に説明する。
「なんと、君が・・・」
と自称次男坊は僕の顔をマジマジと見るやいなや、僕を指さし、
「どこかで見たことあると思えば、君はローラ嬢の新しい恋人ではないか!」
と叫ぶ。トリィがピクリと肩を震わせたが気にせず話を続ける。
「どこかでお会いしましたっけ?」
「私が婚約解消されたローラ嬢を心配して駆けつけた時に、私より先にローラ嬢の横に居座っていたではないか!!!」
ん?ローラさんの婚約解消直後?僕が貴族になって寄親としてローラさんを紹介してもらった時か?
「あー、あの時メイドさんの静止を押し切って部屋に入ってきた・・・」
思い出した。人の話を全く聞かずに、胸が痛むとかなんとか病状を訴えてきた人だ。
よく見るとあの時より少し頬がこけ、痩せている。やはりどこか悪いのかもしれない。
「そういえば、お身体の方は大丈夫ですか。」
「身体のことなどどうでもよい!君はローラ嬢と身体を寄せ合い仲睦まじげに邪魔だとばかりに僕を追い出して!そのあとあることないこと母に告げ口されたせいで、僕は勘当されてしまった!おまけにローラ嬢の誤解を解こうと出向いたイニレ領では盗賊に捕まってしまうし!」
あんた勘当されとったんかい。
「待て、勘当されてんだったらあんた、貴族じゃないじゃないか。」
とトッドが冷静に突っ込む。
「い、いや、ローラ嬢の誤解が解ければ勘当は解いてもらえるはずだ。」
「現時点は貴族じゃないよな。身分詐称にイニレ領兵への恣意行為か。重罪だなぁ。」
とトッドが腰の剣の柄をポンポンと叩きながら椅子から立ち上がる。こいつ尋問得意だなぁ。
「ま、待ちたまえ。それは早計と言うものだ。ローラ嬢と話をさせてもらえれば君の誤解も解ける。」
「犯罪者が領主様に会えるわけないだろ。」
「いや、王立学校で同級生だったリッキー・ドリルが会いたがっている。と言ってもらえれば会ってもらえるはずだ。」
城では取り次いでもらえないからあんた突っ込んできたんじゃないのか?
「ふーん、そうか。とはいえ、あんたは今は一般人だからな。質問には正直に答えてもらうぞ。取り次ぐ取り次がないの話はそれからだ。」
と剣の柄に手をやったまま元子爵家次男坊の尋問を始めるトッド。
いつの間にかビッキーは紙とペンを取り出して調書らしきものを書き始めている。
しどろもどろになりながら質問に答えている元子爵家次男坊を見ながら、
「後はまかせていいか。」
とトッドに聞く。
僕は魔道具を作る時間が惜しいのだ。トッドは僕の方をちらりと見てうなづく。
割り当てられた部屋に移動しようときびすを返すと目の前にトリィが立っていた。
なんだろう?背景が揺らいで見える。
「どうしたの?トリィ。僕はこれから魔道具を・・・」
「ローラさんと身体を寄せ合ってたってどういうことかしら?」
にこやかに微笑みながら肘をがっちりと掴む。
「い、いや、あの人の主観が入ってると思うよ。」
「メイドを部屋に入らせないようにして2人で何をしてたのかしら?」
トリィ、両肘をがっちりとつかまなくても僕は逃げないよ。
「ぼ、僕がローラさんの寄子になった経緯を聞いてたんだ。別に誰かを交えて話すことでもない。」
「仲睦まじげにして、あの人を追い出したあとローラさんと何したの?」
ちょっと痛いかな。
「話の続きだよ。話の途中であの人が入ってきたんだから。」
「嘘をつくな!私の目の前でローラ嬢が君に抱き着いていたではないか!君もまんざらでもない顔をしていただろう!」
と後ろから元子爵家次男坊が叫ぶ。
思わず首だけまげて後ろを振り返ると僕とトリィを除く全員がこちらを見ていた。
「だ、そうですけど。」
と耳元でトリィの声がする。
思わず振り返ろうとしたが、右手であごを抑えられる。
痛くはないが、ピクリとも動かせない。
両腕で僕の肘をつかんでいたはずと思ったが、いつの間にか残る左手一本で僕の両腕の裾をつかんでいて。こちらも動かせなかった。
トリィの声はいつもと変わらない。だが、僕の膝は震え始めた。
「そ、それは・・・」
「それは?」
「・・・」
そこだけは本当のことなので否定のことばが出てこない。膝の震えが激しくなってきた。
沈黙してしまった僕を少し待っていたトリィだったが、
「トッド、ビッキー。」
とトッドとヒビキに声をかける。
「何?」
と恐る恐ると言った感じでヒビキは聞き返す。
「その人の尋問お願いできるかしら。ローラさんとタックのやり取りをより正確に、より詳細に。私ちょっと用事ができて。」
「あ、ああ。わかった。後はまかせてくれ。」
とあっさり首肯するヒビキとトッド。
君たちは僕の護衛じゃないのか?!
あと尋問じゃなくて事情聴取じゃないの?と思ったが僕以外は誰も不思議に思わないようだ。
「ミア」
「なんでしょう、お嬢様。」
「ちょっと部屋でタックと大事なお話してるから、部屋に誰も入れないようにしてちょうだい。」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ。」
とうやうやしく頭を下げる僕のメイド
僕の護衛と僕のメイドがあっさりと僕の婚約者に恭順するのを後に、僕はトリィに関節を極められたまま奥の部屋に連行されていった。




