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第047話 盗賊

 「盗賊?」

 とトッドが腰の剣に手をやりながらミアに尋ねる。

「わかりません。ただ全員こちらに向かって来ています。」

 とミアも外套の裏からナイフを出す。


 待て待て、君ら。日中から襲うやつもおらんだろ。

「待ちたまえ、君たち。最初から荒事と決めるのは良くない。」

 と言い、2人の手を抑える。

「まずは向こうの出方を見ようじゃないか。」

 とはいえ、無防備のままというのもよろしくないので・・・

 右腕の腕輪に魔力を注入し、”空壁(エアウォール)”を発動させる。

 前のように自分だけ守るわけではなく、馬車の周りを囲む格好だ。


「そっちの馬車の守りは頼んでいい?」

 と後ろの馬車の近くにいたトリィとヒビキに声をかける。

 ヒビキが何か唱えると指先に”空壁(エアウォール)”の魔法陣が浮かぶ。

 空気だからわからないが、後ろの馬車の周りも壁で囲まれたようだ。


「向こうも動きを止めましたね。」

「出方として可能性はなにがある?」

 とトッドに確認する。

「馬車2台に20人だろ。金か食い物かその両方か以外ないような気がするんだが。」

「まっ昼間だよ。」

「だからこそだよ。前後に人気もない。視界が開けてて逃がしようもない。」

 トッドに何言ってんだ?って感じの顔をされる。

 前世の治安が良かっただけのことか・・・

 この感覚は今世に寄せていかないとまずい気もする。


「1人だけこっちに向かってきます。」

 とミアが言う。ミアが指さす方を向くと茶髪の軽薄そうな男が周りの草むらの中から姿を現した。

 よく見ると真っ青な顔をしている。

 病人だから最寄りの町まで連れて行ってくれと言う話かもしれない。

 ほら、最初から荒事と決めつけるのは良くない。とトッドに言おうとした時、

「い、命が惜しかったら、お金と食べ物を置いていくんだ。」

 と顔色の悪い男はそう言った。

 ほれ見ろ。とばかりにトッドがこちらを見る。ちくしょう。

「き、君たちを50人以上で囲んでいる。」

 と男は続ける。よく見ると顔色が悪いだけでなく、青あざもいたるところにできている。

「20人、正確には23人です。」

 とそばにいるミアが周囲を警戒しながら顔の向きを変えず僕たちに告げた。

「た、たのむ、私も連れて行ってくれないか。彼らの下僕とされているが、私はレイスリン王国の貴族なんだ。」

 と目の前の男が告げる。

 貴族?と聞き返そうとした瞬間、

「余計なこと言ってんじゃねぇ。」

 と後方から大声があがると同時にこぶしより少し小さい石が投げられ、自称貴族男の背中にあたる。

 それなりの速さだったので自称貴族男は悶絶しながらその場に倒れこんだ。

「いいから命が惜しかったら金と食いもんと女を置いていけ!」

 同じ声が草むらからする。

 あーん?トリィを置いていけってか?


 僕は即座に御者台の上にのぼり、左手の人差し指にはめていた新しい指輪に魔力を通す。

 先日のパーティで目にした()()の魔法陣を指輪に刻んだものだ。

 輝き始めた指輪から盗賊たちに声をかける。

『交渉は決裂だ。命が惜しかったら武器を捨てて投降したまえ。』

「ふざけんな!やってしまえ。」

 と声と同時に矢が飛んできて、十数人ほどの盗賊がこちらに飛び出してきた。

『なるべく、殺すな。』

 とメンバーに告げる。拡声魔法で盗賊たちにも聞こえてしまった。不覚。

 矢が飛んできた方向と飛び出した盗賊に”風弾(ウィンドバレット)”を連射する。

 矢は”空壁(エアウォール)”にはじかれて馬車の周りに落ちる。

 ”風弾(ウィンドバレット)”は迎撃ではなく、射手狙いだ。

 こちらにむかってきた盗賊はそれで体勢を崩した瞬間にトッドとミアに切り伏せられていた。


 草むらからは引き続き矢が飛んで来たので、その方向に”風弾(ウィンドバレット)”を連射し続ける。

 すると同じ方向から苦鳴があがり、矢は飛んでこなくなった。


 トリィの方は?と見ると、そっちに向かった盗賊は全員足元を氷漬けにされ、戦闘不能になっている。


『草むらの中にいる人間は手をあげて出てこい。出てこなければ焼き払う。』


 と言うと、数人が手をあげて出てきた。


「ミア、これで全員?」

「いえ、草むらに1人残ってますね。」

「どこらへん?」

と聞くと、ミアはしぶとく矢が飛んできたあたりを指さす。


「トッド、見てきてくんない?」と頼むと、抜刀したまま、ゆっくりと近づいていく。

 ある程度近づくと、拍子抜けした表情をしてこっちを向き、

「気を失ってる。手足も変な方向向いてるし、出たくても出れないんじゃないか?」

 と僕に告げた。


 トッドに気を失ってるやつを引きずり出してもらう。

 どうやらそいつがボスだったらしく、その有様を見て他の盗賊はすっかりあきらめたようだ。


 「どうする?こいつら。」

 と全員の武器を没収し、一か所に座らせてからトッドが聞く。

 「放置するわけにもいかないし、拘束したままにしてイニレ領の兵士を呼びに行くことにしても、仲間が助けに来るかもしれないわね。」

 「殺しときますか?」

 とミアがナイフを回しながら言う。女を置いていけというボスのセリフ以降、ミアは容赦がない。

 切り伏せる時もトッドが手や肩を狙うのに対し、ミアは首や急所を狙っていた。

 おかげで治療はミアが倒したやつ優先だ。

 治療と言っても命に関わる止血程度だ。骨折やひびまで治す気はない。


 殺したり、放置するわけにもいかないということになり、イニレ領に連行することにした。

 当然馬車に乗せるわけにもいかないので、骨折してない奴らに木を切らせ、イカダの様なものをこしらえさせる。

 その四隅に浮遊の魔法陣を書きこみ、そのイカダの上に後ろ手に拘束した盗賊を全員載せ、馬車でけん引することにした。


 飛び降りて逃げる奴がいるかもしれないので、全員のヒモをそれぞれ繋いでおく。

 半端に逃げても引きずられるだけだし、イカダをけん引している馬車も止めないから。

 というと観念したようだ。

 本当に観念したのは馬が積み荷の重さを感じさせないぐらいの軽快な速度で走り始めた時かもしれないけど。


 結局、馬車の速度は上がったのに、イニレ領に着いたのは予定していたその日の夕方だった。

 出迎えてくれたイニレ家の家令の人からローラさんは2日前に出発されたと聞く。

 帝国にも日程を伝えている以上、あまり僕たちを待っているわけにはいかないようだ。


 家令の人から、領兵の詰め所の場所を聞き、そこに盗賊たちを連れていく。

 事情を話し、では後はよろしく。と立ち去ろうとしたがそうはいかなかった。

 例の自称貴族男が、領兵を脅迫したためだ。

 「被害者なのに盗賊扱いをされることは納得いかん。」

 「”金を寄こせ”と口にはしたが、盗賊たちに脅迫されてのことで罪には問われない。」

 「お前たち後で覚えておけよ。」

 と怒り、泣き、叫び、と忙しい男に困り果ててる兵長を見て、思わず”この男だけは私の方で預かります。”と言ってしまった。メンバー全員からの非難の目は甘んじて受けた。


 仕方なく引き取った男を連れてイニレ家の屋敷に移動する。

 男の背中と顔についていた青あざを治療してやった後、家人に心づけを渡し、男の新しい服と簡単な食事を頼む。

 メンバーと食事をいただいた後、一室を借りて自称貴族男の事情聴取を始めることにする。


 髪も整えて貴族らしい雰囲気を出した茶髪の軽薄そうな男は

「盗賊から助けてくれてありがとう、このリッキー・ドリル、ドリル子爵家の次男として君たちに感謝する。」

 僕たちにそう告げるのだった。

 ドリル家?どっかで聞いたことがあるなぁ・・・


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