第046話 帝国への出発
「じゃあ、行ってきます。」
ローデス商会の前でそう両親に告げるトリィと無言で手を振る僕。
キーランおじさん達から僕の父がミゼラ帝国で叙爵したという話を聞いた翌日、予定より2日ほど遅れて僕たちは出発した。
2頭立ての馬車2台に分かれて乗車する。
先頭の荷物が載ってる馬車の御者台にはミアが載っている。
このたび、ミアは正式に僕付きのメイド兼護衛になった。
感知系の魔法持ちのミアを先頭の馬車に乗せ、何かあったらすぐ教えてもらう体制にしている。
アニストン姉弟とミアで御者を交代することに決めたらしい。
トッドは今回先頭の馬車の中で待機。ヒビキは2台めの馬車の御者台に座っている。
2台目の馬車の中は僕とトリィの2人。
”御者つらくなったら代わるからね。”と3人に言うと”貴族としての自覚を持て。”とトッドに怒られた。
ひと月前まで一般人だった男に酷なことを言う男である。
街の門を抜けて一般道に出ると、徐々に馬車の速度も上がり始めた。
窓枠をスライドさせて、外の景色を見る。
晴天で遠くに見える山の上を除くと雲もほとんどない。
この世界は1年を通して温度変化がほとんどないので四季の概念がない。
もっと北や南に行くと変わってくるのかもしれないが、行ったこともないし、そこら辺の情報も入ってこないのでなんとも判断のしようがなかった。
「速度があがると揺れて手元が狂うな。」
と一旦作業机から手を離してぐちる。
「旅行中も魔道具作らないといけないの?」
と向かいの席に座っているトリィが不服そうに言う。
せっかくの旅行中なのに。という口ぶりだ。
「もともと納期決めてたものだからね。僕が帰国するまで待ってもらってるけど移動中にできるだけ作っとかないと。」
「夜じゃダメなの?」
「僕一人で寝るならそれでもいいけど、トッドが寝てるところで、明るくして作業できないよ。」
というとトリィは頬杖をついて外を眺め始めた。
振動をどうにかしないと効率悪いなぁ。と対処法を考えているうちに良いことを思いついた。
2時間ほどして、馬を休ませたり、水分補給をするために川の近くで休憩を取る。
川の近くに簡易シャワーの派生版として作成した簡易トイレを構築し、皆で用をすます。
トッドが川の中ほどまで行って身体を洗ったり、ヒビキは上流で水筒に水を汲んだりしている。
ミアは感知で警戒しながらも、少し離れたところに果実があったというので回収に行っていた。
トリィは馬をブラッシングしてあげている。
僕はというとせっせと馬車に魔法陣を書きこんでいた。
休憩が終わり再び走り始める。
しばらくするとトリィが不思議そうに、
「そういえば、ほとんど揺れを感じなくなったんだけど、タック何をしてたの?」
と聞いてきた。
「ん、馬車に浮遊の魔法陣を書きこんだ。だから地面の凹凸に影響受けないよ。」
「快適ね、これ。すごいわ。」
とトリィも満足そうだ。
「でしょ~。」と言いながら作業を進める。振動さえなければ作業はできるので、トリィと会話をしながら、作業を進めていった。
だが、さらにしばらくするとトッドが御者台と馬車の間の窓を開け、一旦止まると告げる。
「どうかしたの?」
と少し開けた場所に止まった馬車を降りながら聞くと。
「馬車のスピードが合わないんだ。」
と言う。
(僕たちの乗っている)後ろの馬車が早くて、すぐに前の馬車にせまってしまう。
スピード抑えているが、後ろの馬は何も引いてないかのようにすぐスピードをあげてしまう。
後ろの馬の調子が良いようなので、前後の馬を入れ替える。
と状況と対処を伝えるトッドに、僕とトリィは顔を見合わせ、先ほどの休憩でしたことを話す。
馬を止めて、僕たちの馬車の方に来たヒビキとミアに同じ話をすると、3人は頭を抱えた。
「でお前は全然疲れてないのか?」
とトッドが聞く。
「ん?馬車の中でのんびり魔道具作ってるだけなのになんで疲れるのさ?」
「馬車全体に浮遊かけるほどの魔力使って、魔力枯渇してないのか?って聞いてんだよ。」
「枯渇してないね。てか魔力枯渇した記憶ってあんまりないなぁ。」
「マジか・・・、ちなみに聞くけど前の馬車にも同じことしてくれって言ったらできるのか?」
「書くのにさっきと同じぐらい時間かかるけどできるよ。」
「俺は魔力量のことを気にしてい聞いてるんだけどなぁ・・・まあいいや、頼むわ。」
「了解。ちょっと待って。」
そう言って、前の馬車に向かい先ほどの魔法陣を同じように書き始める。
「ふつうはこんな短時間で書けねえし、魔力も持たねえんだぞ。」
といつの間にやら後ろについてたトッドから文句を言われる。
「短時間って言ってもやっぱり書くよりは唱える方が速いよ。」
「その代わり一遍書いてしまえば、後は魔力補充するだけだろ。」
「そりゃ、そうだけど。でも微調整とかできないからねぇ。」
「相変わらず自己評価低いな。まあ陛下や宰相さんがお前を重宝する理由はわかるわ。」
わかってる。トッドは元貴族子弟で、現騎士だから、さすがにおっさんの心情を口にすることはないが、国を担う責任を負ってる人は、物珍しいものを見て心を癒す時が欲しいのさ。
だからと言って僕に爵位つけてまで引き留めるのはよくわからんが。
と思いながら魔法陣を書き終える。
立ち上がった時、に近づいて来たミアが僕に
「タック様、20名以上の人間が周りを取り囲むように接近中です。」
と告げた。




