第044話 帰省準備
「久しぶりに帰ってきた気がする。」
とローデス商会の店先で感慨深くつぶやく。
「2週間ぶりぐらいで大げさね。早く入りましょう。」
とトリィが僕の背中を押して2人で商会に入り、アニストン姉弟も続いた。
パーティの翌々日の午前中のことだ。
パーティの翌日は国王と王妃からパーティ会場から飛び出て大立ち回りしたことに関する事情聴取だった。
実態は王妃のナターシャさんがトリィと僕のなれそめ話を聞きたいからお茶に呼ばれただけだが、まさか一日中根ほり葉ほり聞かれるとか思わなかった。
ようやく王城を解放され、いざ両親のいるミゼラ帝国へ。
ということでジョニー達に丸投げしていた旅の準備の確認のため商会に戻ってきたところである。
中に入るとアレックスとミアが出迎えてくれて、さっそく奥へと進む。
中庭に進むと馬車が2台置いてあった。
「ご依頼の通り、2頭引きのものを2台だけ用意いたしましたが、これだけでよろしかったので?」
「うん、ローラさんところからも馬車は出るし、アド姉もミゼラ経由でオーグパイムに帰るって言ってるから行きは一緒だしね。それだけではたから見れば十分大所帯さ。」
一般人と違い貴族の場合は、移動する際は護衛も見栄も必要なので大所帯で移動というのが一般的らしい。ただ今回同行者が多いのでタッキナルディ男爵家は無理しない。と言うのが僕の判断だ。
ローラさんも新規採用者でお兄さんが痛い目を見ているので、そこは同意してくれた。
「ではタック様の同行者はベアトリクスお嬢様とアニストン家のお2人とミアの計5人?」
「そうだね。3人が護衛も御者も兼ねるし、2台あれば、男女分かれて馬車で寝れるでしょ。」
「なるほどテント設営の手間も省くわけですな。」
「そういうこと。」
とアレックスの理解がえられたので、引き続きすでに馬車に積んである寝具類などの荷物を確認する。
特に問題ないことを確認し、部屋に戻って今度はトッド達から移動ルートの説明を受ける。
トッドはテーブルの上にどこかから入手したらしい地図を広げた。
僕から見て地名が読めるように置いてくれている。
僕とトリィがテーブルの同じ辺にいて、トッドとヒビキがその左右の辺にいる形だ。
地図はレイスリンを中央にしたもので、左下から扇上に陸地が広がっている。
右上にいくつか島があるがそれ以外のところは海になっていた。
「レイスリンの主都はここ」
と地図の中央に碁石のような黒い丸石を置くトッド。
「ミゼラ帝国とオーグパイム司教領の主都はここ。」
と僕から見て地図の右側に白い丸石を2つ置く。
ちょうど三角形ができあがる寸法だ。
「それぞれ馬車で一週間程度の行程なんだが・・・」
とここでトッドは一旦間を置き、ズボンのポケットからメモを取り出す。
「少し遠回りにはなるが、イニレ領を通過する。ついでにお前の領地にも寄っとけって宰相様から言われてるから、これは変更できない。」
「なるほど。了解。」
どこかのタイミングで寄らねばと思っていたので、宰相さんの指示は渡りに船だ。
「なので、イニレ領で一泊、お前の領地のアニストン領で一泊。」
ヒビキが首都のそれよりは小さい石をそれぞれ並べていく。宿泊地を意味しているようだ。
「そういえば、本当にアニストン領のままでいいのか。名前は変更するもんだが。」
「良いよ。自分の住んでる土地の名前が変わると領民も困るだろ。」
「まあ、お前が良いならいいんだが・・・。」
とトッドは納得いってない顔をしながら、話を続ける。
「次がティテック伯領で一泊」
「パーティでローラさんが最初に話してた女性のところね。」
とトリィが補足してくれる。
「そしてここから野宿3回。」
ヒビキが無言で等間隔に小石を置いていく。
「野宿3回か。多いね」
「ああ、村は点々とあるが、大人数が泊まれるほどの施設はないんだ。」
帰省した時にそんなに野宿したっけな?と気になっていたが、大人数で泊まれないと聞き得心する。
「その後は帝国領。グリフィス辺境伯領で1泊、その次にオラゾーラ侯爵。ここでローラ様が、オーウェン王子の婿入りの話をされるが、ここでの宿泊日数は調整内容次第だな。」
「日数長引くようなら帝都に寄らずに、うちの親に来てもらう形にするよ。」
「まあ、それなら日数は短縮できるな。」
「んでそこから、オーグパイム司教領までだが、再びグリフィス辺境伯領で1泊の後は野宿2回。」
ヒビキが再びに小石を置いていく。
「オーグパイム司教領は帰りも含めて全部アドリアーナさんまかせ。と、ここまではいいんだが。」
とトッドが手元のメモを畳む。
「ん、もう王国戻ったら問題ないでしょ。」
と問いかける僕に、
「いや、帰国最初のドリル子爵領での1泊はいいんだけど、その後の2泊がムーンオーバー侯爵領なんだよ。お前らそこのボスに恥かかせただろ?」
とトッドが少し真面目な顔をして言った。
「恥はかかせてないよ。息子さんがローラさんにちょっかい出してきたと思ったら、侯爵さんじきじきに”息子が失礼しました”って。」
「でもそこにはアドリアーナさんがいたんだろ?オーグパイム司教領に近いんだからあの人に気を使って矛を下げただけだとしたら、アドリアーナさんがいない状態のお前とローラさんになんらかの意趣返ししそうな気がしないか?」
「気にしすぎじゃない?」
「そうかもしれない。でもお前よりは貴族ってもんを知ってる俺が心配してるってことだけは覚えておいてくれ。」
とトッドは心配そうに言うのが、僕としては”フラグ立ちそうなセリフを言うんじゃない。”と思わずにはいられなかった。




