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第041話 他人の評価

 「マークロック陛下の入場です。」

 とよく通る声の人が響き渡る。

 声を出している人をよく見ると口の前に一瞬手を出し、魔法陣を浮かべていた。

 拡声の魔法かな。今度試しに作ってみよう。


 国王(おっさん)が王妃を横にして現れる。

 さすがに僕たちを興味ありげに見ていた人も国王(おっさん)の方を向き直る。


 殺意あふれる目で僕を見ていた男性の1人は身体を国王(おっさん)に向けながら、首を少しだけこちらに向け僕をにらみつけていた。

 が、それに気づいた親族にたしなめられ渋々の表情で前を向く。


 国王(おっさん)()()を見ていたのに気づいたのか。

 国王(おっさん)の一挙手一投足を見ていた他の貴族にどう思われたか。

 どうなろうと知ったことではないが、逆恨みだけはしないでほしいと思う。


 国王(おっさん)は再び視線を動かし、こちらの方を見ながら口を開く。

「みなのもの、今宵は良く集まってくれた。国を思う者同士、交流を深めてくれると余もうれしい。」

 と言うと、おっさんは続けて、

「今回はオーグパイム司教領からサイフォン商会会長のアドリアーナ殿も来られておる。遠征で交流のある者もおろう故、親交を深めてほしい。」

「また我が娘ラナを暴漢より救ってくれたタック・タッキナルディも参加しておる。以前より他にも功績のあった者故、今回新たに男爵として叙爵することとなった。みなもよくしてほしい。」

 などなど他国からの客人、今回叙爵、陞爵した人を次々とよどみなく伝えていった。

「では、最後に。楽しんでくれ。以上だ。」

 と告げ、階段をおりると、一斉におっさんの周りに人が群がり始めた。

 挨拶なのか、挨拶と言う名の陳情なのかわからない。

 護衛らしき身なりの整った男女数名が、挨拶の列を整理し始める。

 ローラさんに僕たちは並ばなくてよいのか?と尋ねると、後からで良いと言われた。

 普段王城にいない地方の方の陳情を優先するものなのだそうだ。


 普段、適当な態度を取っているおっさんだが、意外にちゃんとしているのだな。

 と感心しながら見ていると、トリィが僕の肩をトントンと叩いた。

「食べ物と飲み物取ってこようか?」

「いや、この状態だと食べられないから良いよ。」

「食べさせてあげるわよ。」

「いや、さっきアド姉に同じこと言われて断ってるから。アド姉を断ってトリィの申し出を受けるとアド姉が拗ねるよ。」

 と言うとトリィは頬を少し膨らませ、僕から離れてしまった。

 首をひねりながらトリィを目で追うと食べ物と飲み物を取りに行ったようだ。


 トリィはトリィでお腹すいてたのかな。

 そう思いながら視線を戻そうとするが、先ほど僕を睨んでいた男がトリィに向かって歩いているのが視界の片隅に入る。

 いやな予感がするので、トリィに近づこうとするが、3人が両腕をつかんだままなので動けない。


「3人ともちょっと離してほしい。」

 そういうと、会話をしていたローラさんとアド姉がこちらを向く。

 ラナ王女は近くにいた少し年上の女性と話をしていたが、僕の声は聞こえていたようで手を離してくれた。


「どうかされました?」

 とローラさんが聞くので、トリィの方をそれとなく指さす。

 見るとすでに男はトリィの横にいて何かしら話していた。

 ローラさんの表情が一瞬曇るが、

「私も行きましょう。」

 と付いて来てくれるようだ。アド姉も何も言わずについて来る。


 トリィは男と会話を続けていたが、少し顔が引きつっていた。

「トリィ。お待たせ。おいしそうな食べ物は見つかった?」

 とあえてトリィに声をかける。

 するとトリィはほっとしたような顔をして僕を見た。

 僕は話し中だったことに今気づいたかのようなふりをし、男に話しかける。

「失礼。お話し中でしたか。私はタック・タッキナルディと申します。このたび男爵を叙爵いたしました。よろしくお願いします。」

 するとトリィに声をかけていた男性は僕を見て不満そうな顔を浮かべるとそれを隠そうともせずに、こう返した。

「私はブルース・ムーンオーバー。今は子爵だが、私はムーンオーバー侯爵家の嫡男だ。」

 わざわざ侯爵家の嫡男であることを告げる。今の爵位通り受け取るなよ。ということだろうか。

 ブルースは続けて僕の横にいるローラさんを見て、

「ローラ嬢も大変そうだな。商会あがりを筆頭に商会に片っ端から助力を求めねばならんとは。意地を張らずに私の求愛に応えればよかったものを。」

「ブルース様のお気持ちだけでうれしいですわ。ありがとうございます。」

 とローラさんは無表情のまま感謝の言葉を告げる。

 口では感謝を述べつつも首が微塵も前に傾いていないので心情は察して余りある。


 ローラさんの露骨な塩対応に気づいたブルースは僕の方を向き、

「タッキナルディ商会と当家は取引がなかったと記憶しているが、君の態度次第では考えなくもない。」

 別に僕の実家の販路を広げたいわけではない。

 こんな上から目線で来られるやつと販路をつないでも父さんたちも対処に困るだろう。

「私は今ローデス商会の方で仕事をしておりまして。ローデス商会との取引を今後とも続けていただければ嬉しく思います。」

 とローデス商会の取引の継続を求める。

「なんだ。君は後継ではないのか?」

「はい。実家は兄が継ぐことになっておりまして。」

「ふん、そうか。それでローデス商会に取り入っているというわけか。浅ましい考えだな。」

 とブルースは侮蔑の表情を浮かべる。

 このセリフにブルースの視界の外にいたトリィがムッとした表情を浮かべる。

「ブルース殿はムーンオーバー家の方とのことだが、遠征ではお会いしてないと記憶している。」

 と僕の横にいたアド姉が口を開く。

「あん?それはそうであろう。物資の手配を担当している商会の人間と前線にいる貴族が会うわけもない。会長とは言えいちいち物資担当者と貴族が顔を合わせるわけもなかろう。」

 とブルースは何言ってんだこいつとばかりにアド姉を見る。

 どうやらブルースはアド姉をサイフォン商会の会長と思っているようだ。

 まあ入場の際の紹介でそう言っているのだから、そう思っても仕方ないか。間違っているわけでもない。

 でも遠征の際に前線にいたのならアド姉の中将としての顔を見聞きしたことはないのだろうか。


 そう不思議に思っていると、いつのまにか1人の女性がブルースの横に立っていた。

 30代ぐらいだろうか。目じりに少ししわが見えるが、薄水色の髪をしたきれいな人だった。

 スカート部分があまり広がっていないドレスと言うよりは少し落ち着いた感じの服装をしている。

「は、母上?」

 とブルースがとまどいながらその女性に向けて絞り出すように声を出すがその後ゆっくりと崩れ落ちていった。

「愚息が大変失礼しました。」

 と女性はこちらを向きながら頭を下げる。崩れ落ちたブルースは女性の後方にいた2名の男性が無言で連れていく。

 両側から肩を貸すような形だが、足が地面について引きずられているの格好がつかないことこの上ない。

 ローラさんが女性に礼をしながら小声で

「ムーンオーバー侯爵です。」

 と教えてくれたので僕もあわてて頭を下げ礼の姿勢を取る。

 最初の印象が30代女性だったので成人男性のブルースの母親と聞いてもピンとこなかった。

「いや、こちらもムーンオーバー侯爵家の一人と知らず失礼な口をきいてしまいました。」

「あれは後方の待機組です。アドリアーナ様と戦線を張ることもないでしょう。」

 とアド姉とムーンオーバー侯爵の間で会話が続く。


「息子には言い聞かせておきますので。」

「いえいえ、お気になさらず。遠征先でお会いできる時を楽しみにしております。とお伝えください。」

とアド姉が返すと、ムーンオーバー侯爵は嘆息し、

「いえ、この顔ぶれを見て()()()()()()としか想像できない思慮の浅い子なので、そのレベルに今後達することはないでしょう。それでは失礼いたします。」

 と言いムーンオーバー侯爵は僕たちから離れていった。


「僕たちはローラさん以外は商会つながりですよね。」

 とムーンオーバー侯爵の言葉にピンと来なかった僕は王女のところに戻りながら3人に聞く。

 するとローラさんが言いにくそうに

「実はわたくし、遠征に中距離支援メンバーとして参加しておりまして。」

「ああ、僕以外は遠征のつながりがあるんですね。」

 まあ、ローラさんのあの魔法の技術があれば、広範囲攻撃とかできそうだ。

「はい、そしてラナ王女も騎士団長として遠征に参加してます。タックさんはその王女を暴漢から救ったということでそれなりの戦闘能力は持っていると思われているのでしょう。」

「ん?ということは?」

「商会と言う資金力のあるつながりと言うだけでなく、軍事力もそれなりにそなえた集団として私たちは見られているということですね。」

「僕の戦闘力は魔道具の力なので過大評価ですね。」

「魔道具を作ったのがタックさんなら、それはタックさんの力ですよ。」

とローラさんが言い、トリィとアド姉もうなづく。

「過小評価されるとブルースみたいにからまれるし、過大評価されるとムーンオーバー侯爵みたいに用心されるってことですか。やっぱり貴族やめたいですね。」

というと、3人は笑いながら再び腕をつかんできた。 

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