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第035話 両手に

「何してるの?アド姉。」

 と思わず声をかける。

「えっ、ターちゃんにエスコートしてもらおうと思って。」

「いや、思って。じゃなくて。僕はローラさんのエスコートするって言ったじゃん。」

「でもエスコートに使うの左手だけでしょ。右手は空いてるのよね?」

「いや、空いてたら使えるってわけじゃないよ。」

 と言いすぐに右手を外そうとするが、すでに指は絡められていて、右ひじもアド姉の左手と身体に挟まれている。

 エスコートって言ってもこれはやりすぎである。

 あわてて止めようとしたが、そこで左手が引っ張られた。

「行きますよ、タックさん。」

 と僕の右側の状況がわかってないかのようにローラさんが僕を引いて会場に入ろうとする。

 いや、わかってはいるようだ。

 アド姉が指を絡め、体も密着させているのを見て、ローラさんも体を僕に寄せてくる。

 そして、

「アドリアーナさんもそろそろ入りますよ。」

 と何事でもないかのようにアド姉に声をかける。

「そうか、では行こう。」

 とアド姉もそれに違和感はないかのように会場に足を進める。


 幕が左右に開かれると、そこはパーティ会場の一角だった。

 パーティ会場はテニスコート四面分ほどだった。

 パーティ前にローラさんに聞いたところによると、参加人数によって会場は変わるらしい。


 僕たちが立っている場所は会場よりも階段数段分高い位置になっており、会場を一望できる代わりに、会場の人たちからは注目度は抜群である。

 エスコートで3人が出てきたことにあっけにとられている顔、アド姉の戦場の顔を知っているようで驚きを隠せていない顔、ほとんど知らない顔だったけど、魔道具作りの時に顔を合わせたことのある貴族の顔も2,3あった。

 僕たちが出てきた貴族用の入り口の反対側の王家用入り口前には、護衛として配置されていたトリィの姿も見えた。僕の横にアド姉がいることにびっくりしているようで目を見開いている。


「イニレ伯爵家当主、ローラ・イニレ様です。」

 と扉近くにいた人の良く通る声が会場に響き渡る。

 ローラさんが簡単に会釈する。

「タッキナルディ男爵家当主、タック・タッキナルディ様です。」

 ローラさんに倣って軽く会釈をする。

「サイフォン商会会頭、アドリアーノ・サイフォン様です。」

 アド姉は会釈せず、国による違いなのか右手を左肩に添えるだけだった。


 "オーグパイム司教領"とか、”中将”とかの単語がちらほらと聞こえてくる。

 紹介に対する返礼の仕方が違う理由がわからない人たちに知っている人が説明しているようだ。

 アド姉は特に気にした様子もない。


 うながされ、3人で階段を降りて、パーティ会場に溶け込む。

 相変わらず2人は僕を放してくれるそぶりはない。

 ローラさんは僕の肘をつかんだまま、近づいて来た顔見知りの女性貴族と会話している。

 ローラさんは”()がからんでくるのが嫌なので、タックさんのそばから離れません。”と事前に宣言していたので、しょうがないとして・・・

「アド姉、右手を放してくれないと、飲食ができないんだけど。」

 とアド姉に言うと、キョトンとした顔をして、いつのまにか右手に持っていたソーセージをとらえたフォークを僕に差し出してきた。

 指をからめていたはずの左手は皿を持っている。

 あれ、それなら右手使えるんじゃね?

 と思って動かそうとしたが、右肘はがっちりと挟まれたままだったので動かすことはできなかった。


「食べさせてほしいわけではないのよ。」

 と言うとアド姉はフォークを皿に置き、テーブルに置いてあったグラスに手を伸ばす。

「飲ませてほしいわけでもない。」

「飲食できなくて困ってるんじゃないの?」

 とアド姉は首をかしげて聞いてくる。

「自分で食べたいんだよ。だから放してほしい。」

「駄目よ。」

「なんで?」

「なんでって、周りを見てごらんなさいな。」

 と言われ、周りを見ると僕の方を見ている人が男女問わず数人いて、こちらと目が合う人と慌てて目をそらされた。

「嫌われてる?」

「なんでそうなるの、狙われてるのよ。」

「命を?」

「違う!あの人達が狙っているのはターちゃんの側室の座よ。」

 そんな座は知らぬ。

「男の人にまで狙われてるの、僕?」

「それも違う。妹なり、娘なり、叔母さんなりの親戚の独身女性の嫁ぎ先を探しているのよ。」

 それなら良かった。いや、良くない。

「ローラさんのところに来てるのは知ってたけど、僕のところにも来てたの?」

「来てたわよ。それもローデス商会宛に釣書が数通。これトリィちゃんに言っちゃだめよ。」

「えっ、トリィは知らないの?」

「知らないわよ。渡したい相手の婚約者の家に釣書送りつけるなんて失礼すぎるから届いた端からミアが焼いてるわ。ジョニーは取引を片っ端から終わらせてるし。」

 ずいぶんかわいそうなことになっている。

 と思い、トリィの方を見るとこっちを見ていた。

 王族の入り口近くも会場より数段高い位置になっているので、僕からトリィは良く見える。

 僕もテーブルを前にしているので、よほど背の高い人が間を通らない限りはトリィからも僕は見える状態だった。

 『どうしてアド姉と一緒なの?』

 と口パクで聞いてくるトリィ

 『僕も知らない。入る直前に捕まった。』

 と同じく口パクで返す。正しく伝わったのかわからないが、向こうの口パクは収まった。

 ただ納得はしてないらしく、憮然とした表情を浮かべている。


 両肘は抑えられているが、なんとかそれぞれの肘から下を動かして左手薬指あたりを右手で指す。

 トリィからそれは見えたようで、憮然としていた表情が少し収まったように見えた。


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