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第031話 責任の所在は明確に

 パーティの件で勉強会の出だしをくじかれて、一息ついていたところにメイドさんが来てローラさんに耳打ちする。

「タックさん、すみません。お客様が来られまして。」

「ああ、お気になさらず。また明日改めて伺います。」

「いえ、その方はタックさんにもお会いしたいとのことで。」


 えっ、僕に?誰だ?

 国王(おっさん)やラナ王女であれば、メイドさん介してローラさんの了承もらったりせず堂々と入ってくるだろう。

 昨日話したばかりの宰相さんとも思えないし、それならローラさんもそう言うはずだ。

 魔道具販売で知り合った貴族の人たちもわざわざ王城でローラさん交えて会おうとするとは思えない。

 トリィとかの騎士だとメイドさんが取り次ぐわけもない。

 などと思いつくままに可能性をつぶしていると、レイスリン王国立学校の制服を着た女性。というか少女が一人で入ってきた。金髪が腰まで流れるように垂れており、目は翡翠を埋め込んだような淡いグリーンだ。

 制服を着ているということは学生なのであろう。美女というか美少女と言う感じだ。 


「セシリア・エオルール様です。」

 ローラさんが、美少女を紹介してくれる。

「タック・タッキナルディです。」

 ととりあえず、名乗るが・・・ 誰だっけ?

第一王子(オーウェン)様の婚約者の方です。」

 と戸惑っている僕にローラさんが助け船を出してくれる。

「ああ、公爵家のご令嬢・・・」

 そうか。王子がいい年齢なのに、まだ結婚してなかったのは正妻にあたるセシリアさんがまだ学生だからなのだろう。

 一般人のように自分達の生活基盤を安定させてから進めるわけではない。

 貴族の結婚は、ある意味、結婚して子孫を作ることも仕事なのだ。

 にも関わらず、結婚をしていなかったのは卒業を待っていたのだろう。


 卒業後、順番に結婚する予定だったのだろう。

 セシリア嬢とローラさんはもともと同じ男性の妻となることが決まっていたので、それなりの交流があったのだとは思うが、なぜにその場に僕が同席することになるのだろう?わからん。


「タック様は爵位を持たれているのですから、緊張しないでいただきたいですわ。」

 と不思議がって黙っているのを緊張していると取られたらしく美少女に気を使ってもらう。

 場数の違いなんだろうな。余裕があるように見える。

 小さい頃から父母の振る舞いを見ていたのだろう。

 僕のような付け焼き刃ではなく、自然と身についているという感じだ。


「セシリア様、それで私たち二人にお話しと言うのは?」

 ローラさんもセシリアさんの用事については想像もつかないのか、素直に質問する。

「はい、ローラ姉さまに、オーウェン様の側妃(ところ)に戻って来ていただきたいのです。」

「セシリア様、それは・・・」

 とローラさんもさすがにくちごもる。

「だって、ローラ姉さまは悪くないでしょう。リール様も悪い人たちに利用されただけと聞きました。」

 そう、利用されただけだ。だが貴族にとってはそれが致命傷になる。

「ラナ様からも、リール様のことは怒ってないとお聞きしました。」

 そう、怒ってはいない。責任を果たした者に怒りをぶつけてもしょうがない。

「オーウェン様にもお願いしたのですが、お聞きとどけいただけませんでした。」

 それはそうだろう。王子もどうしようもない。

「なので、ローラ姉さまの口からオーウェン様のところに戻りたいと言っていただきたいのです。タック様にはリール様は悪くないと口添えいただきたいのです。実際にその場に居合わせて、今回一番功績があった方の口添えがあれば・・・」


 片手をあげて、セシリア嬢を止める。

 セシリア嬢は泣きそうな顔をしている。彼女は()()()()()()()()()()()()リールとローラを救いたいだけなのだろう。

「セシリア様、申し訳ありませんが、私は口添えできません。」

 となるべく冷たく突き放すように話す。

「ど、どうしてですの。やっぱり噂通りローラ姉さまのことを・・・」

「私はリール様から”婚約者と別れるように”言われ、手切れ金として白金貨を提示されました。」

 ローラさんがはっとなる。そこまでは聞いていなかったのかもしれない。

「でも、それはリール様が操られて言ったのでしょう?」

 とセシリアさんはリールをかばおうとする。

「そうだと思われます。ただ、それはその場に私が居なければ、または言われた人間が私でなければ、リール様の言葉となったでしょう。」

「ですから、それはリール様が操られて言ったので・・・」

「操られていれば、一般人はいわれなき理由で婚約破棄を強要されても仕方ない。とおっしゃる?」

「そんなことは言っておりません。」

「操られた悪影響が今後出るかもしれないけど、悪い人ではないから、今まで通りにしてあげましょうと?」

「む、無罪にしてほしいとまでは言ってません。でも”洗脳”なんて防ぎようがないではありませんか。リール様は運が悪かっただけです。」

「責任ある立場にある者が”防ぎようがなかったから”、”運が悪かったから”と責を問われなかったらどうなると思いますか? 火事だからしょうがない。地震だからしょうがない。疫病だからしょうがない。そんな言い訳をする王や貴族に誰が忠誠を誓うのですか?」

「でも、それではローラ姉さまが・・・」

「そのローラ様に戻りたいと思われてるか聞かれましたか?」

「えっ?」

 とセシリアはローラを見る。自分と意見を異にするなど考えてなかった顔だ。

「すみません、伯爵領のことを考えるだけで精一杯ですわ。」

 とローラさんは言い、続けて

「一緒にアレックス様を支えていくというお約束が果たせず申し訳ありません。」

 とセシリアに告げる。

 セシリアはそれを聞くと顔を伏せる。

 小さく嗚咽が聞こえると、ローラさんがセシリアの肩を抱くようにして背中をさする。

 セシリアさんの貴族としての余裕は影を潜め、そこにはどうすることもできず、自身の無力を悲しむ少女だけがいた。

 ローラさんが僕を見て、続けて僕の背後にある扉を見る。

「わかりました。ではまた明日改めてお伺いします。」

 となんとなく察することができた僕はお暇することにする。

 ローラさんもにっこりしていたので多分意図は組めたと思う。


 ◇◇◇◇◇


 お勉強会で精神的に疲れた僕はそのまままっすぐ商会に帰った。

 気分転換も兼ねて午後は魔道具作りに専念しようと思う。

 みな僕にいろいろなことをさせようとするが、僕は魔道具士なのだ。

 開発室に戻るとトリィがテーブルに座っていた。

 今日も昼帰りで僕とお昼を食べたあとソファで寝るそうだ。


「タック様、お兄様からお手紙が届いております。」

 僕が机に荷物を置いたところでタイミングよく入ってきたアレックスが手紙を渡してくれる。

「ロッコ兄さんから?なんだろう?」

 この世界は通信系がまだ発展していない。

 急ぎでなければ馴染みの商人に頼むなど方法はあるが、急ぎの場合はギルドに依頼して専用に人を雇わなければならない。金もかかる上に、確実性に欠ける(紛失、破損のリスクがある)。

 そのことからも、手紙と言うだけでよほどのことがあったのだろうとうかがうことができた。


 僕が貴族に任命された件も手紙で知らせたが、まだ向こうには届いてないだろうからそれとは別件だろう。


 ペーパーナイフを机から出し、端を切ると中から防水のために施したと思われる包みが出てくる。

 さらにその包みをほどくと紙が2枚折りたたまれた状態で出てきた。


「ずいぶん上質な紙ね。」


 とトリィが言う。確かにうちが使っているものよりも白く丈夫だ。

 手紙の中をのぞこうとするわけではないが、テーブルに座ってこちらを見ている。

 アニストン姉弟も護衛として少し離れたところにはいるが、興味はあるようだった。


 中身を読む。がそこに書いてある内容は僕にとっては衝撃だった。


「ロッコさんに何かあったの?」


 僕の顔色が変わったことで、トリィが心配そうな声を出す。


「いや、悪いことではないよ。兄さん結婚するらしい。」


「なんだ、びっくりさせないでよ。吉報じゃない。」

 とトリィとアニストン姉弟もほっとした表情をする。だが、


「ただ、お相手がオーグパイム司教領の聖女様らしいんだよね。」


 と告げるとみな息を飲んだ。


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