第028話 護衛
「このたび、タック様の護衛を任命されたトドロキ・アニストンです。」
と赤みがかった茶髪で刈り上げの体格のいい男性が僕に対して一礼する。
「同じく、タック様の護衛を任命されたヒビキ・アニストンです。」
と同色の髪を肩口あたりまで伸ばし、細身の身体を外套で包んだ女性が同じく一礼する。
「二人とも名前は知ってるから別に改めて名乗らなくてもいいよ。」
男爵を任命された次の日に、商会に僕の護衛として訪れた2名は王立学校時代の同級生だった。
いや、同級生どころか、お取りつぶしになったアニストン男爵家の息子と娘ですよ。嫌がらせですか?
「いえ、そういうわけにも参りません。我々は、」
「商会では学生時代と同じ話し方でいい。それができないから交代してもらう。」
硬い言い方をくずさない二人にかぶせるように命令する。
学校時代の連中には魔法を使えない僕を揶揄する奴らが半分くらいいたが、彼らは自己鍛錬に熱心なグループだったので、僕は彼らに隔意は全くない。
トドロキとは一緒に座学を勉強したこともあるぐらいだし。
僕に隔意はないが、復興を願っていたであろう男爵家を僕がかっさらった形になったのをこの二人がどう思っているかはわからない。
「あぁ、わかった。今度タックの護衛をすることになったのでよろしく。」
とたどたどしくも僕の命令を消化したらしいトドロキが口を開く。
ヒビキは黙って、トドロキの言葉が終わった後に首肯した。同文ということのようだ。
2人は双子でヒビキがお姉さんにあたるが、こういう時はトドロキが口を開く。
「ここで話すのもなんだから僕の部屋で話そう。」
と言い、2人を開発室に案内する。
開発室の丸テーブルにはトリィが座っている。非番だったトリィに男爵位受領の経緯を話し終えたところに二人が来たのだ。
「あれ?トッドとビッキーじゃない。久しぶりね。どうしたの?」
と僕の後に入ってきた2人に声をかけるトリィ。
トリィは僕と一緒にいたが、自己鍛錬に熱心なグループと交流はあったので2人とも相性呼びだ。
「僕に護衛がつくって話したじゃない。2人がその護衛らしいよ。」
と2人の代わりに僕が答え、2人にもテーブルについてもらう。
僕の左がトリィ、右がトドロキ、向かいにヒビキが座る。
護衛らしくトドロキとヒビキが扉に近い方に座るかっこうだ。
控えていたミアに全員の飲み物を頼むとさっそく2人に気になることを聞くことにする。
(今日アレックスはジョニーの護衛として、一緒に外出している。)
「確認させてほしいんだけど、2人は僕の護衛になることに対してどう思ってるの?」
と飲み物を待っている間に、2人に確認する。
「どうとは?」
と僕の質問の意図が伝わらなかったようでトドロキが聞き返す。
「いや、復興させたかった男爵家枠を僕が継承することに対して面白くないとか。」
と言うと、トドロキは笑いだした。
「いやいや、騎士の給金だけでは到底返済できない借金だったからな。最悪孫の代までと覚悟していたぐらいだから、正直お前には感謝しかない。」
と言うトドロキ。ヒビキもうなずいている。
「え?そんなにすごい金額なの?僕に魔道具何個作らせる気なんだろう?」
「お前のことは死んでも守るから、気兼ねなく作ってくれ。」
「目覚めが悪くなるから、なるべく死なないように守ってくれ。」
「了解。」
と笑いながら軽く返すトドロキ。
二人も僕に隔意はなさそうだ。とりあえずほっとする。
「でもなんでそんなこと心配してるの?私たちの感情と護衛の仕事は別物でしょう?」
とヒビキが僕に質問する。
2人に昨日の経緯を説明し、貴族の腹芸に辟易しているというと2人とも微妙な顔になった。
「ごめんなさいね、うちも父が戦果を示せばなんとでもなるって考え方だったから、私たちもその手の話は苦手なのよ。今回の件もあなたが借金返済を代行してくれることになったからその恩を返しなさいとしか聞いてなくて。」
と申し訳なさそうにするヒビキ。
「ああ、俺もあんなことになるまで、父の言うとおりにしてたからな。他の理由は思いつかない。」
と何かを思い出すように天井を見るトドロキ。
あんなことの一因でもあるトリィはだまったままだ。
「まあ、僕とトリィで悩んでもしょうがないこともあるから、相談には乗ってよ。」
「私たちに相談するぐらいなら、ローラ様に相談した方がいいわよ。教育係になってくださったんでしょ。」
「え?ローラ様?」
僕を虫よけ代わりにするような人ですよ。
「今回あなたを利用する形を取ったから苦手意識があるかもしれないけど、優しい方よ。リール様と一緒に私たちが学校は卒業できるようには手配してくださったし。」
確かに。家が取り潰されたのに、ヒビキとトドロキはそのまま卒業まで在籍していて、騎士にもなってる。いろいろ陰では言われてたみたいだけどローラさんたちが手を回してくれてたのか。
リールも僕にとっては印象が良くないが、催眠にかけられてしまう前は良い人だったようだ。
ローラさんにも腹割って相談した方がいいのだろうか。
虫とかゴミとか会話にえげつないパワーワードをまぶしてくる人だけど、先入観を持って接するのは良くないのかもしれない。
ていうか、いちいちこんなことで悩みたくないからやっぱり貴族辞めたい。
などと考えていると、部屋の扉からノックが聞こえる。
ミアが飲み物を持ってきてくれたようだ。
許可を出すと、想像通りミアが入ってきたが、1人ではなかった。
ミアの後ろからアド姉も一緒に入ってくる。
ローデス商会の1室で客人扱いとなっているが、今日は朝から出かけていて今帰ってきたようだ。
みるからに不機嫌そうな顔をしていたが、なぜか部屋の中に入ってこちらを見るとさらに不機嫌さが増したようだ。
「どうかしたの?」
と声をかけるよりも早く
「また、オンナが増えてる・・・」
とうなり声のような低い声がアド姉の口から洩れた。




