第025話 叙爵
「タック・タッキナルディに男爵の地位を与える。」
側室なんか持たないよ。と皆に宣言した翌日のことだ。
名を呼ばれ、促されるままに案内された謁見の間の隣の部屋で宰相さんからそう告げられた。
「あ、あの宰相さん。」
「む、そうか。名乗ってなかったな。ヨルド・ダンゲルフだ。ヨルドと呼ぶが良い。」
と簡単に名呼びを許可してくれる宰相さん。
「ヨルドさん。すみません、状況がよくわからないのですが。」
「これより功績を読み上げる。心して聞くように。」
とふところから紙を取り出し、読み上げる 宰相さん。
宰相さんが読み上げてくれた僕の功績とやらは以下の通りだ。
一つ。イニレ家に潜入していた賊をとらえたこと
一つ。同席していたラナ王女を賊から守ったこと
一つ。賊に捉えられていたイニレ家令息を救出したこと
一つ。イニレ家令息の治療に尽力したこと
いくつか認識と違うことに混乱している僕に宰相さん=ヨルド殿が口頭で補足してくれる。
モルガン(催眠の魔道具を使ってたやつ)達はイニレ家の従者ではなく賊として扱う。
そもそも結ばれた雇用関係が催眠を使ったものなので無効らしい。
ラナ王女は洗脳にかかっていた時の記憶も戻ったがしばらく療養するらしい。
リール・イニレは催眠が解けたものの、記憶が不確かな状況であるため病気療養に入る。
第一王子の側近を辞し、自領で療養につとめることになる。
あわせて現当主も引退し、リールと共に自領に戻るそうだ。
「当主も次期当主予定の方もおられないとなると、イニレ家はどうなるのですか。」
と説明してくれたヨルドさんに質問する。
「第一王子の側妃になられる予定だったローラ様が婚約を解消され、イニレ家を継承される。
操られていたとはいえ、第一王子より継承権が上の第一王女を親族が襲った事実は消えぬ。それゆえ外戚を辞退し、当主が退くことでイニレ家に叛意はなかったことを示す形となった。」
あの魔法が上手な女性がイニレ家を継ぐのか。
とはいえ、人のことは今は後回しだ。
「いきなり爵位をもらっても僕は困るのですが。」
「功績をあげたのは事実。我が国は功罪を正当に取り扱う姿勢を見せる必要がある・・・」
とここまでで言葉を切る。納得してない僕の顔を見てため息をつく。
「と言うのが建前の部分。本音の部分としては例の魔道具の件だ。国家として君を保護する必要がある。」
「保護?」
「そう。特殊な魔法適正を持つ者や、特殊な技術を持つ者はその能力を悪用されることがないようにしないといけない。」
「保護の方法が爵位授与ですか。」
「方法はそればかりではない。官位を与えて国の保護下で仕事をするケースもある。君の場合はすでにローデス商会でそれなりに仕事をこなしていて金銭を得ているから、爵位授与となった。」
どうやら断ることはできなさそうだ。ヨルドさんは話を続ける。
「さらに言うと君が使うことのできる魔法はすでに被害者が出ている。君が悪用するようなことはないと思うが国として無策のまま放置するわけにもいかん。爵位持ちとして公に随時護衛をつけてもらうことになる。」
「護衛かぁ・・・」
先日からアレックスやミアについてもらっているので、護衛のイメージはわく。
ただ護衛がつくことでいろいろ制約がつくようだとめんどくさいな。
「理由はわかりましたけど、僕は何かしないといけないんですか?」
「基本何もしなくてもよい。顔合わせとかも欠席でよい」
よかった。パーティで顔つなぎなんてめんどくさいことはしなくて良いらしい。
「とはいえ、商売上他の貴族と接する機会もあるだろう。その際の振る舞いはこれまでどおりではいかん。」
そうか。これまでみたいに”ごひいきにどうも”とぺこぺこ頭を下げるわけにもいかなくなるのか・・・
あれ? やっぱりいろいろめんどくさいな。貴族にならずに済む方法はないのかしら。
「言っておくが、爵位授与は拒否できんからな。」
と心を読んだかのようにヨルドさんに釘を刺される。
「駄目ですか。」
とため息をつく。
「そんな君の教育係に名乗りを上げてくれた方がいる。紹介するからついて来たまえ。」
と先を歩き始める宰相さん。
貴族としての振る舞いを教えてくれる教育係?
名乗りをあげてくれそうな人が全く思い浮かばない。
と宰相さんのあとをつけながら首をかしげているうちに、どこかで見た部屋にたどりついた。
「ここにおられる。」
とドアをノックをする宰相さん。
中からメイドさんが扉を開けてくれたので宰相さんに続いて中に入る。
そこには昨日あった黒髪の美人=ローラ・イニレが椅子に座ったままこちらをニコニコと見ていた。




