第020話 魔法陣作成
「洗脳の魔道具を作るんですか?」
とおっさんにあらためて確認する。
「ん?どういう意味じゃ?」
と聞き返すおっさん。こちらの意図は伝わらなかったようだ。
「一旦作ってしまうと、あとあと取り扱いに困ると思うのです。王女を含めて意識が戻ってない人の解除だけできればよいかと。」
と言うと固まるおっさん。
まさか魔道具が欲しいから作れ。と言っただけで、後の取り扱いどうするか考えてなかったわけじゃないだろうな・・・
宰相さんもいぶかしげな顔でおっさんを見ている。
「確かにそうじゃな。紙にでも記載して解除が終わったら処分した方がよいな。」
あからさまに残念そうな顔をしておっさんは言う。いい案が思い浮かばなかったようだ。
娘の意識が戻ってない状況だというのに、物欲に正直なおっさんである。
ここで宰相さんが口を開く。
「仮に処分したとしてもタック殿が自身の意思で作成できるという状況は変わりませんが。」
あ、やっぱり気づかれます?そこに。
「じゃが、こやつ自身は自分で作った精神耐性の腕輪で洗脳にかからずにすんだのであろう。それを購入すればよい。」
とおっさんが助け船を出してくれる。
「またローデス商会に金が流れますな。」
宰相さんが僕を睨む。
僕が意図してその流れを作ったわけではないので勘弁してほしい。
「な、なるべくお安く提供します。」
「お願いしますね。」
と念押しするように言うと、宰相さんはおっさんの後ろに下がった。
釘は指し終えたということだろう。
「では、さっそく作ってもらおう。」
とおっさんはうれしそうに言う。
「すみません、その前にいい加減腕の拘束ほどいてもらえますか。」
「おう。そうじゃったな。」
おっさんが横にいた騎士に合図を送ると、騎士はすぐに部屋から僕を出し拘束を解いてくれた。
しびれる腕をほぐしながら、騎士の先導にしたがい場所を移動する。
2階ほどあがったのは覚えているが、そのあとはよくわからない。
地図をみせてもらえれば、瞬間記憶で覚えられるかもしれないが、時間をかけて移動する場合は集中力が続かないのだ。
同じ道を引き返せと言われてもできないだろうな。と思うほど移動し、ある一室に連れていかれると、そこには机と椅子が置いてあった。
僕が入った扉の逆側にも扉があり、その前にはトリィと先輩、同僚のトリオがいた。
先輩と同僚は僕の方を見て軽く手を振ってくれるが、トリィは横を向いている。
先輩がトリィに話しかけたが、そちらは見ずにどこかに行ってしまった。
どうやらまだ怒っているのかもしれない。
まずは王女を目覚めさせて、そこの誤解から解いていくとしよう。
「ここは?」
と聞くと、先導してくれた騎士が
「王女の側近用の執務室です。現在誰も任命されておりませんので、こちらの机をお使いください。」
なるほど。でもそんなところ使ってよいのかしら。
「隣の部屋でラナが寝ておる。お主が書いたらさっそく試してくれ。」
とおっさんが言う。
2,30分かかると伝えたが、待つそうだ。
先導してくれた騎士とは別の騎士が、机の上に筆記用具と紙を置く。
椅子に座り、道具の使い心地を確認する。
普段使いのペンよりもインクの付きが良い。
これなら気にせず書くことができるだろう。
軽く肩を回し、さて始めますか。と思った瞬間。
机の上にトレイが置かれた。
その上にはサンドイッチと紅茶が載せてある。
見上げるとそれを置いたのはトリィだった。
顔を見ると、口がもにょもにょとしている。何か言いたそうだ。
「ありがとう。」
と言うと、
「ラナ様をお願い。私のことは後でいいから。」
と声を絞り出すように言う。
「わかった。後でゆっくり話をしようね。」
と笑顔で伝えると、顔を真っ赤にして先輩たちのところに戻っていく。
「あの蒼鬼が・・・」
と騎士の一人が口に手を当てて笑いをこらえていたが、トリィが睨むと慌てたように真顔に戻った。
だが、その騎士以外はニマニマと僕とトリィを交互に見ている。
あの宰相さんですら、くちびるの端がいつもより微妙にあがっている。
やりづらい・・・
が、生暖かい視線はやみそうにない。
僕はとっとと終わらせることに決めて、ペンを手に取った。




