第018話 格子ごし
金属同士が激しく打ち鳴らされるような音で目が覚め、何事かと硬い岩のベッドの上で身を起こす。
「起きたか、タックよ。」
と言う声に牢屋にいることを思い出し、格子の方を向くと、おっさんが立っていた。
おっさんの後ろには宰相さんと見覚えのない騎士が3人いる。
うち1人は格子の近くで槍を手にしていたので目覚まし代わりに格子を連打したのは彼だろう。
見張りをしていた兵士は下がった位置にいるのか、僕の処からは見えない。
「起きたのではなくて、起こされたと言いませんか?」
「貴様、なんという口の利き方だ!」
起き抜けだったので普段の口調でおっさんに話してしまった僕を騎士の一人がとがめる。
おっさんがゆっくりと手をあげて騎士を制する。
僕は床に片ひざをつきおっさんに臣下の礼をとる。
後ろ手のままだから手をつかないのは勘弁してほしい。
「起き抜けで失礼しました。」
「かまわん。」
はて、わざわざ呼び出されるならまだしも、おっさんがここまでくる理由がわからん。
「うむ、まだ王女の意識は戻らん。」
「私がついていながら申し訳ありません。」
「別にそのことでお前を責めはせん。あれは自分の意志でついて行ったのだからな。」
「そうですか・・・」
まあ、確かについてきたのは王女だし。僕が魔道具に気付いた時にはもう王女は洗脳にかかっていたので、僕にはどうしようもなかった。
だが、おっさんからすると「ちゃんと守ることはできなかったのか。」と僕にひとこと言いたくもなるのではないかと思うが、おっさんは僕を責めないらしい。
「王女の意識が戻っておられないということは、まだ私の証言の裏は取れてないということでしょうか?」
「そうでもない。」
「どういうことでしょう?」
「お前が倒した護衛と執事が、意識を取り戻したとほぼ同時に逃げ出そうとしてな。」
なるほど、彼らとリールの関係はよくわからないが、敬意など感じられなかった。
(そもそも敬意があるなら洗脳などしまい。)
リールと王女の意識が戻ったらまずいと考えたので逃げようとしたのだろう。
そこでおっさん達は”逃げたのは、何かやましいことがあるから。”と判断したと。
状況を整理していた僕におっさんは話を続ける。
「まだ尋問中だが、捕まえたやつらの一人が言うには、一度命令すると自力で回復するのは早くて数日かかるそうだが、お前の壊した道具であれば、すぐに解除できるそうだ。」
げっ、マジか。そうとわかっていれば他にもやりようがあったものを。
面倒だからぶっ壊したのが裏目に出た格好だ。ん?
「でも護衛達が罪を認めたのであれば、僕は無罪であることの証明になりませんか。」
後ろ手に縛って牢屋に放り込む理由にはならん。
おっさんは僕に向けてため息をつきながら言う。
「お前が嘘はついてないのはわかったが、貴族の子息をぶっとばして、貴族の邸宅を破壊してよい理由にはならん。王女の安全を確保するためにそれしか方法がない状況であったことを証明せい。」
「そ、それは王女に証言いただくしか・・・」
「であろう。じゃが、それでは時間がかかりすぎる。そこで”余”はいいことを思いついた。」
このおっさんのセリフを聞いて、僕は眉をひそめる。
このおっさんのいいことで僕がいい目にあったことはないのだが・・・
「いいこと・・・ですか?」
「うむ、お前の証言が正しかったことも証明されるし、王女もリールもすぐに目覚める良い方法じゃ。」
なんだろう。いやな予感しかない。
「それでその方法とは?」
全く気乗りはしないが、おずおずとおっさんに質問する。すると
「お前がその目で見たという洗脳の魔法陣を記した魔道具を作成するのだ。」
と目を輝かせながらおっさんは言った。
あんた、本当に娘の心配しているのか。




