第017話 連行
ミアの「私も指輪もらいました」発言に怒り心頭のトリィ。
何か言おうとしたようだが、
「ベアトリクス、今はそれどころじゃない。」
とトリィの先輩がまじめな顔をしてトリィの手を抑えた。
”水魔法が苦手なので、水量調整機能も魔道具化してほしい。”
”風邪ひくといやなので、温度調節機能もつけてほしい。”
などと笑いながら一番わがまま要件をぶちこんできた人だが、こんなまじめな顔もできるようだ。
まあ、確かにここは伯爵家で、応接室にいた伯爵家の人間は全員倒れている状況。
おまけに何故かそこにいた王女も気を失っていて、唯一無事な一般人が抱きかかえている。
となれば痴話げんかどころではなく、容疑者として取り扱わざると得ないといったところか。
だまっているとトリィの同僚が、
「すみませんが、拘束させてもらいます。」
と僕を後ろ手に縛る。
縛る前にしっかり指輪も腕輪も足輪も没収された。
さすがに魔道具士とばれていれば、それなりに対処されるか。
服まで取られなかったのはせめてもの情けだと思う。
内側に魔法陣書いてるとわかったら裸にされるのだろうか。
特に抵抗はしない。
後ろ手にされたまま、取り調べを行うべく馬車で王城に連行される。
冷静でない、何より僕の関係者ということでトリィは別の馬車である。
まあ、その馬車には意識のない王女が載せられているので冷静ではないにせよ、護衛はできると判断されたようだ。
連行される間、同乗したトリィの先輩と同僚に簡単に事情聴取を行われる。
”王女が気を失った原因は洗脳の魔道具です。僕も洗脳されそうになったのでその場にいた伯爵家の全員をぶちのめしました。正当防衛です。”と短時間だったので簡潔に説明したものの、ぶっ壊れたモノクルなぞ証拠になるはずもない。
”正当防衛です”と言った時にキョトンとされたので気づいたが、この国に”正当防衛”にあたる言葉は存在しない。
今回は単純に一般市民が貴族子弟であるリール・イニレを傷つけた不敬罪である。
王女を守ろうとしたという理由はあるものの、当の王女の意識が戻っていない以上、僕の証言だけだ。
王女と被害者の意識が戻っていない状況なので、これ以上の環境改善は望めそうになかった。
そもそもトリィの顔見知りでなければ、取り押さえの際に2,3発なぐられていたかもしれない。
他の人間の意識が戻り、証言がそろうまでは拘束させてもらう形になると言われ、了承する。
念のためリールも洗脳にかかっていた可能性がある旨をつげ、護衛と分けておくよう進言し、取り入れてもらえただけよしと考えよう。
王城につくと、今朝方通った道を抜け、騎士団控室のとなりにあった地下への階段を降りる。
数階分降りたところに、地下牢らしき格子が入っている牢屋があった。
「ここに入っててちょうだい。ベアトリクスのためにもおとなしくしていてくれるとうれしいわ。」
とトリィの先輩は告げ、地下牢の一つに入るように促される。
僕がおとなしく牢に入り、床に埋め込んである2メートルほどの岩(横になれるように上は平らにならされている。)に座ったことを確認すると、騎士たちは地下牢にいた見張りの兵士に二言三言告げ、その場を離れていった。
残された兵士は真面目に立っているものの、僕と目を合わせようとはしない。
”会話する気はありません。”と態度が雄弁に語っていた。
後ろ手に縛られたままなので、特に何ができるでもない。
横になって、考え事をしているうちに睡眠不足がたたったせいか、すぐに眠りに落ちてしまった。




