第013話 認識阻害
”認識阻害”の指輪の効果に気をよくしたラナ王女は、
あの後戻ってきた父親と宰相さんに午後の外出を告げた。
「そうか、”余”も面白、いやタックが心配だからついて行ってやろう。」
と言ったおっさんだったが宰相さんにだまって肩をつかまれ、再びどこかに連れていかれた。
そのまま出かけようとするラナ様に
「護衛の方々には伝えなくて良いのですか?」
と聞いたが、
「あやつらをぞろぞろ連れて行くとイニレ家の者に気付かれてしまうだろ。」
と返された。
宰相さんも半ばあきらめたのかいつものことなのか、
「折を見てお付きの者たちには伝えますからね。」とラナ様に告げていた。
いろいろ問題がありそうな気もするが、本人が良いと言っているし、おっさんと宰相さんも止めないので、良いのだろう。止めるというか諦念の表情だった気がする。
いろいろしているうちにお昼も近づいていたので魔道具を持って城門へと引き返す。
ラナ様は認識阻害を効かせたままだ。
「タックが運ぶと遅いから私が運んでやろう」とラナ王女は言ってくれたが、そのままだと”浮遊板”が一人でに動いているというシュールな絵面になってしまうので、僕は申し訳程度にハンドルに手を添えて進んだ。
誰にも怪しまれず門を出ると、そのまま待っていたローデス商会の馬車に乗り込む。
アレックスもミアもラナ様には気づかない。
荷物を後ろに積み、行きと同じくミアが御者についた。
馬車に乗り込もうとするアレックスに僕の隣に座るように告げると、
怪訝そうな顔をしたアレックスだったが、黙って僕の隣に座った。
「どうぞ。もういいですよ。」
馬車が動きだしてすぐに、誰もいない前方の座席に声をかけると、
僕とアレックスの前にラナ王女の姿が現れた。
「ラナ・・・様?」
と思わず声を漏らすアレックス。
「アレックス、久しぶりよな。息災であったか。」
とラナ王女はうれしそうにアレックスに声をかける。
「あれ、ラナ様と面識あるの?アレックス。」
「はい、娘がラナ様の護衛なので・・・、ですがあの娘らを振り切られたのですね。」
「うむ、すごいなタックのこの指輪は。護衛泣かせじゃ。」
と面白そうにラナ王女が言う。
「ラナ様、お父上のそんなところは見習わなくても良いのですよ。」
「アレックスよ、心配するな。ガーベラはよくやっておる。」
ガーベラというのは、アレックスの娘さんの名前かしら。
「いえ、そういう話ではなく、もう少し王族としてのご自覚を・・・」
とまで言いかけ、アレックスが僕を見る。
「どうして、この方にこんなもの渡すんですか?」って顔だ。
「無理だったんだよ。察してよ。」と言う顔を返す。
「何を男同士で見つめあってるのだ?私がいるのだぞ。」
とラナ王女は言うが、好きで見合わせているわけではない。
顔を見合わす原因はあんたである。
とは言え、イニレ家に到着するまで時間がない。
身体検査は一応されるであろうから、アクセサリーに模した魔道具しか身に着けられないだろう。
先ほど馬車の後ろには積み込まず、馬車の中にもちこんだアクセサリーボックスを開く。
指輪、腕輪、イアリング、ネックレス・・・
イアリング、ネックレスは男性が身に着けると不審に思われるが、それ以外はフル装備でもよかろう。
指輪10個、腕輪3つを順番に取り出し移動中に順番に身に着けていく。
それぞれ幅があるので、それぞれ指に1つ、腕にも1つしかつけられない。
腕輪のうち2つは足首にはめる。
”精神耐性”の腕輪はすでに装着すみだ。
あっ、昨日魔力切れを起こして、そのままにしてた。
城に入る前に補充しておけばおっさんから”夜叉”と”鬼”の話を聞いても耐えられたかもしれない。
と思いながら腕輪の魔力も補充しなおす。
「タックよ、そんなに魔道具があるのに何故、”身体強化”の魔道具を作ってないのだ?」
僕が順番に身に着けるのを見ていたラナ王女が不思議そうに聞く。
「ああ、指輪型のものを作っていたんですけどね。朝急いで馬車に魔道具を乗せてもらう時にメイドに貸したままにしてまして。」
ミアも左手薬指にはめてたんだよなぁ。この世界にあの風習はないはずなんだけど。
そういえばはめながら”大事にしますね。”って言ってたな。
確かに大事に使ってほしいけど、使い終わったら返してほしかった。
「貴様、風習を知らんのか? あとあと苦労するぞ。」
「えっ、何の話ですか。」
朝のことを思い出している間に何か言われてたようだ。
ラナ様の話がわからなくなってしまった。
悪気はないので、そんなジト目で見ないでほしい。
「まあ、良い。困るのは貴様だ。それよりイニレ家の中ではどうする?」
ラナ様にそう言われ気づく。
確かにイニレ家に入った後は僕にもラナ様は見えないし、何かあった場合ラナ様が見えないままだと対処に困ることもあるだろう。
そこでイニレ家につくまでの間、ラナ様と想定されるケースとその対処方法について簡単に打合せることにした。




