第098話 王国の反対派
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ヴァレンティナに王国の詳しい状況を聞く前に、第一王子の結婚の調整が終わったことを部屋に残っていたメンバーに伝える。
ミアとリッキーに司教領への移動に必要なものを買いに行ってもらうことにした。
ミアとリッキーは戻ってくるときにあの人垣に巻き込まれるのを思い出して嫌な顔をしていた。
それを見てほっとしていたブルックリンとステラには帝都に戻って両親にオラゾーラ侯爵領での用事が終わったことを伝えに行ってもらうことにした。
ブルックリンとステラが馬車だと家紋でばれるから馬2頭で行ってよいかと聞く。
かまわないので、両親の馬車が入ってくるときに人垣に巻き込まれないように護衛を頼むと伝えると、表情が消えていた。すまんが頼んだ。
4人を送り出すとテーブルについて早速ヴァレンティナと連絡を取る。
「ヴァレンティナにもう少し状況教えるよう伝えてくれ。」
そうアギレラに頼むとアギレラは目を閉じた。
念話でヴァレンティナに付いている魔獣と会話しているのだろう。
アギレラの念話の結果を待っている間にテーブルにはローラさん、トリィ、ヒビキ、エヴァが着席していた。
ガブリエラはみなの飲み物を準備しに行ったらしい。
アギレラが再び目を開けるとヴァレンティナから聞いた状況を簡単に説明してくれた。
おっさん的にはテムステイ山攻略は喜ばしいことらしい。
ただ、そこにいる魔獣および奴隷・難民をそのまま僕の領民とすることに関して、反対・回答保留している貴族が複数、そのうち意見を無視することができない大貴族が3つあるとのこと。
最初の1つは例のムーンオーバー侯爵。
明確に反対。奴隷・難民(少なくとも王国)はもとの領地に返却すべしと言うておられるそうな。
もう1つは王国の西側に広がる大森林を治めているエルフのビゼン大公。
回答は保留。奴隷・難民の中にエルフがいるのであれば、保護したいとのことだ。
ダークエルフとかいるからここは当人の意見を聞きたいところだ。
最後の1つが王国の南側の草原地帯を支配している獣人族のムツ大公。
ここも明確に反対。奴隷・難民のうち獣人は全員こちらに返せとのこと。
ガブリエラがいるから全員は無理だな。
ここの2人の大公は自治が認められた地域の首領だ。
もともとそれぞれの地域を治めていた種族に対して王国が自治を認める代わりに王国に加わることを求めそれに了承したためそのように言われている。
自治は認められ、王国に対する納税の義務も追わない代わりに、有事の際の参戦の義務や、協議が必要な事案に対しての参加が求められているそうだ。
今回僕がテムステイ山を制圧したことについても王国内で協議の場が開かれ、その場で各大公が意見を反対・保留意見を述べたらしい。
「エヴァ、このムツ大公って・・・」
「ガブリエラを追い出した張本人。おそらく借金奴隷になってしまった獣人を保護したいと思ってるだけでガブリエラがここにいるとは思ってないでしょうね。」
「ふーん、じゃあいったん保留かな。」
「あっさり判断するのね。」
「だって、そんな奴にガブリエラ渡せないだろ。交渉の余地がないなら保留するしかないじゃないか。」
王国丸ごと敵に回るというならまだしも今のところ手の打ちようもない。
王都に戻ってからおっさんと宰相さん交えて交渉かな。あとローラさんも。
ローラさんを見ると特に何も言わない。目が合ったがニコニコとほほ笑んだままだ。
さすがに僕がまずい判断をするなら寄親として何か言うと思うが、今は黙ったままだ。
僕が質問とか相談とかしたときに相談役になろうと徹しているのだと思う。
「アギレラ、山に残ってるメンバーで帰りたいって言ってる獣人かエルフっている?」
「帰省して家族に会いたいと言ってるものはいますが、帰りたいと思っているものはいませんね。」
「従属魔法関係なくだよ。」
強制は好きではないので念のため確認する。
「従属魔法関係なく、個人の意思ですね。もともと大森林や草原での生活から抜け出したくて出てきたそうなので。」
とアギレラは断言する。
「じゃあ、あとはダークエルフに確認するだけかな。」
ターシャさんは従属魔法かかってない組だから。
「あの子は帰らないと思うわよ。」
とエヴァが言う。
「なんで?」
「自分に対する魔法が効かないでしょ。それで森の加護から見放されてるって判断されて、一族から追放されてるから。」
「え、ダークエルフも黒鎧と同じように魔法効かないの?」
というとエヴァは不思議そうな顔をする。
「タック、あなた黒鎧とダークエルフが別人物だと思ってない?あの鎧の中身がターシャよ。」
なぬ?と慌てて左手に巻き付いているウィンを見る。
『ウィン、なんで教えてくれなかったの?』
『・・・アナスタシア様から口止めされまして。』
『なんで別人のふりをしたがったんだ?』
『アナスタシア様はタック様のお腹をなぐって気絶させて無理にテムステイ山に連れてきた方ですから、第一印象のあまりよくないアナスタシア以外の人としてタック様とお話したかったそうです。』
確かにそんなこともあったなぁ。でも事情があったのわかってるし、そんなこと気にしてない。って言っとかないと。
「タック、ウィンと何話してるの?駄目よ、内緒話は。」
と念話がわからないエヴァが僕をにらむ。トリィとヒビキも怪訝そうな顔で黙ってウィンを見つめている僕を見ていた。
「タック様はウィンになぜ教えてくれなかったのかと聞かれてました。アナスタシア様はタック様の第一印象が良くなかったので、別人として接したかったようです。」
しゃべれないウィンに代わってアギレラが話す。アギレラも念話聞こえてたのか・・・
相変わらず僕の念話はどこまで届いているかよくわからない。
「タックはアナスタシアのこと嫌いなの?」
とエヴァが不思議そうに聞いてくる。
「嫌いだなんて思ってないけど、最初に拉致された時僕を気絶させてるから、アナスタシアさんは気にしてるらしい。」
「タックは気にしてるの?」
とエヴァはしつこく聞く。
「気にしてないよ。事情はわかるし、それにそもそもだね・・・」
「そもそも?」
「僕に従属魔法かけようとした娘と普通に話してるのに、気絶させられた娘だけ嫌うってことはないよね。」
というとエヴァは大笑いして、
「そうだったわね。もう忘れてたわ。」
「もう怒ってはないけど、忘れるなよ・・・」
「ごめんごめん、ではアナスタシアには隔意はないと。」
「少なくとも僕にはないね。」
「わかった。だそうだ。アギレラ。アナスタシアには普段は鎧外してもいいぞと伝えておいてくれ。」
とエヴァがアギレラに伝えると、
「承知しました。」
とアギレラはエヴァに答え目を閉じた。
「あとはムーンオーバー侯爵ですね・・・」
とローラさんが口にする。
「そこも保留でいいのではないですか?」
とトリィが質問すると、
「基本スタンスはそれでいいと思いますが、帰りにムーンオーバー侯爵領を通りますからね。」
「通過させてもらっておいて、異を唱えている相手に”保留中です。”と何も意見を話さないというのも・・・」
「失礼ですね。」
とローラさんが断言する。
「もう一度ティテック伯領、イニレ伯領を通って王都に戻るのは?」
と僕が口にすると、
「それも失礼に当たります。相手を信用していないことになりますので。タッキナルディ男爵は話をする気もないと取られますね。中立派を刺激することになりますのでそちらの方が悪手です。」
とローラさんが口にする。
「何言われても大丈夫なように、ローラさんと一緒に行きましょうか。」
と僕がローラさんに言うと、
「多分、イニレ家とタッキナルディ家で別々に呼ばれるでしょうからそれは難しいでしょうね。」
とローラさんが僕の前提を否定する。
「えっ、そうですか?」
「さっきのヴァレンティナさんの報告通り、懸念事項はあれど王はタックさんの業績は評価してます。今でこそまだ男爵ですが、王国に戻るまでには陞爵しているでしょうし、私との寄親、寄子の関係も見直されるでしょうね。」
なんと・・・
「寄親、寄子でもない別々の家、それもタックさんは伯爵以上になるでし、下手すれば同格かもしれない相手を呼ぶ際に、合わせてイニレ伯爵も。とはならないでしょう。」
困ったな。その場合は誰に同席させてしまえばいいんだろう。
「良い手が一つありますよ。」
悩んでいる僕に対してローラさんが一つ提案をしてくれる。
「なんですか?」
と思わず食いつくように聞いた僕に対してローラさんはいつものようににこにことほほ笑みながらこう言った。
「私を妻の一人です。と紹介すれば同席してもおかしくないですよ。」
と。
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