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08話 元クラスメイトとの再会

「ほらほら追い込め追い込め!」

「ぐっ……うぉぉおおおおおおおっ!」


 短距離を全力で駆け抜け、停止。

 そしてすぐにまた全力疾走。


 自分を限界まで追い込み、訓練場内を走り続ける。


「──よし、じゃあ今日はここまでだ」


 ゴードンさんが手を叩き、訓練の終わりを告げる。

 その瞬間、俺は地面に倒れ込んだ。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

「お前も結構良い感じになって来たな。やっぱり若いと成長が早い」

「ありがとう……ございます……」


 仰向けになって荒い呼吸に胸を上下させていると、ゴードンさんは手を差し伸べてきた。

 俺はその手を取り、重い体をなんとか持ち上げて、ゆっくりと歩き始める。


「まさか1週間でここまで成長するとは……なかなか良いセンスだな」

「あは、あはは……」


 隣を歩くゴードンさんは、涼しい顔をしている。


 俺は満足に会話できる元気もないというのに……どうして「ついでに自分も」と、同じトレーニングをしていた彼は疲れていないのだろうか。


 この1週間、昼過ぎまでは薬草採取。

 そのあとはゴードンさんに指導してもらう生活が続いている。

 途中から「自分も体を動かしたくなった」と言って、ゴードンさんもトレーニングを一緒にしてくれるようになった。


 ランニングや走り込みなど、俺のペースに合わせて軽々と走る彼だったが、痛みがあるという脚は大丈夫なのか。

 心配になってと訊くと、


「全力では走れないが、まあ、このくらいならな」


 と、全盛期の化け物じみた能力を、予感させるようなことを言っていた。


「今日もありがとうございました!」

「おう。治癒魔法は使わず、しっかり食って寝るんだぞ」

「はい。では、失礼します」


 訓練が終わると、いつもギルドの裏にある井戸を使って、水浴びをさせてもらっている。

 大量にかいた汗を流し、さっぱりしてから着替えを済ませた。


 今は利用者が俺しかいないけど、時期によっては訓練場は人が多い時もあるらしい。


 ちなみに【生命力操作】を正しく使うと今の俺には自分自身をヒールすることができないが、時間をかければ【回復】同様の使い方もできる。


 しかし、筋肉痛は自然に治るまで我慢する。

 そうしないとトレーニングで筋力値や耐久値を上げることはできないのだ。


 ギルドの外に出ると、銀色の髪が目に入った。


「ルミナ。ごめん、待った?」

「ううん、私も今来たところ。じゃあ帰ろっか」


 今日は学園の帰りが俺のトレーニング終わりと重なるということで、待ち合わせをして、一緒に帰る約束をしていた。


「テオル君、なんか服の上からもわかるくらい、筋肉ついたね」

「たしかに、運動してよく食べるようになったからな。まあ、前までがなさすぎたから、わかりやすいだけだろうけど」

「あっ! ていうか、ちゃんと髪拭かないと風邪ひくよ? もう……」

「きょ、今日は特別急いでたからだって……いつもはちゃんと──」

「あれっ、イザベラ?」


 家の方へ帰ろうとしながら、濡れたままの髪を指摘され言い訳しようとしていると、ルミナが突然つぶやいた。


 ちょうどギルドの出入り口前。

 俺の背後を通り、ギルドに入ろうとしている人物に向かって。


「ふんっ。なんであんたたちがここに……」


 振り向くと、そこには燃えるような赤い髪をした少女が立っていた。

 声をかけられたことが嫌だったのか、彼女──イザベラは不機嫌そうな顔をしている。


「テオル君が冒険者になったから、ここで待ち合わせして、一緒に帰るところだったの」

「なっ、ど、どういうことだ……っ。あんたたち、そういう……」

「私たち、今は一緒に住んでるんだよ」

「は、はぁ!? 破廉恥だぞ、テオル・ホコットっ!!」

「えっ俺!?…………です、か……?」


 ルミナがイザベラと話していたと思ったら、急に話の矛先を向けられ、どきりとする。


 イザベラは治癒学園の生徒で、元クラスメイトだ。

 誰とでも話せるルミナとは違い、俺は友達という間柄でもなかったので、思わず敬語になってしまった。


「退学になったとは聞いていたが……まさか、女の家に転がり込んでいたとはな! みっともないっ」

「テ、テオル君は私が……」

「前々から情けのないやつだとは思っていたが、弱い人間ではないと……。見損なったぞ、テオル・ホコット」


 イザベラはキッと俺を睨み、顔を背ける。


「イザベラ……」


 少し悲しそうに手を伸ばし、ルミナが呼びかける。

 しかしそれよりも先に、俺は一歩前に踏み出し、イザベラに近づいた。


「な、なんだ……」

「確かに俺はルミナに助けられてるけど、別に何もかも諦めて、やめてしまったわけじゃないから。まだあの時に言ったこと、諦めてないよ」

「……! 忘れて、なかったのかっ。あたしはてっきり……」

「だって、イザベラはずっと俺に期待してくれてただろ? 実技がまったく成長できなくて、失望させちゃったかもしれないけど、押し付けられた雑用だって裏で手伝ってくれてたの、知ってるし」

「そ、そうか……っ」


 イザベラも学年上位の成績を収める優秀な生徒だが、彼女はルミナと違い、平民の生まれだ。

 時々平民の中にも現れる、【回復】スキルを持っている者の内の1人。


 入学前から家庭教師などをつけ、勉強することができる貴族とは違い、イザベラは俺と同じで学科についてはほとんど何も知らずに学園の門戸を叩いた。


「俺も見直してもらえるように頑張るから。期待してて」

「……ふんっ。口だけではないといいんだがな」


 一度、入学したばかりのころにイザベラは俺に話しかけて来た。


 ──あたしには夢がある。最高位の治癒師……〝聖女〟になることだ。そのために心身ともに鍛えている。あんたには、夢はあるか?


 期待を込め、同じ平民出の俺を試すような目をして。

 まっすぐと、イザベラは尋ねて来た。


 ──うん。俺は……苦しむ人を助けられるようになりたい。


 だからあの時、唐突な質問にも俺は、まっすぐ答えたのだ。


 勉強に実技に、彼女はトレーニングまでもしていたという。

 努力は実を結び、今ではルミナに負けるとも劣らない優秀な生徒だ。


 去っていくイザベラは、ふっと微笑んでいたような気がした。


 それにしても……どうして、ギルドに入って行ったんだろう?



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