Episode 1「此処は何処か」
全身に倦怠感を感じる。
これは、嫌な夢を見て目覚めた時の感覚に近い。
「何処だここ……」
その感覚を身体の隅々で感じながら目を覚まし起き上がると、俺は見知らぬ部屋にいた。
それも、南蛮式の部屋──いわゆる洋室というものに。
「────」
意識が飛ぶまでの事を思い出してみる。
確か、俺は音信から宇治月に向かっていた所を刺客の集団に襲撃され、死に物狂いで逃げた結果、愛馬の紅蓮諸共崖から落ちた筈だ。
なのに、どういう事かそれとは全く関係のない、やや古びた感じを出しながらも綺麗に掃除されている、八畳程の広さの洋室にいる。
誰かが介抱してくれたと解釈すべきなのか、俺に目立った傷は殆どない。
刀や扇子、脇差など、衣の上から身につけていた物は何一つ欠ける事なく、寝床の隣の台にキッチリと丁寧に置かれていた。
「南蛮屋敷か……?いや、違うな」
南蛮から渡海して来た商人達が滞在する南蛮屋敷ではない。あそこには南蛮式の寝床なんてなかった。
崖から落ちたとはいえ、あの辺りは海ではないため海流に呑まれ、流された訳でもない。
となると、ここは一体──
その時、突如頭に電撃の如く激しい痛みが走る。
「──っ⁉︎」
痛みを感じた途端に意識が混濁し、周りの景色がぼやけ始めた。それと共に、耳には何の音も入って来なくなる。
ヤバい。これはヤバい。マジでヤバい。
だが、耐えなければ。耐えなければならない。
自分に暗示のようなものを掛け、途絶えそうになった意識をギリギリの所で保つ。
やがてその痛みは徐々に退き始め、頭痛が起こる前の状態にまで戻ってきた。
「っ……またか……。くそっ……」
また、と言うのは、この頭痛が起こったのは一度や二度ではないからだ。
ガキの頃から時折起こる「持病のようなもの」とでも言うべきか。
意識の混濁に視界不良、聴力の一時的な喪失、時折何処からか聞こえてくる訳の分からない幻聴。それがこの頭痛の症状だ。だが、その原因は分からない。
誰がどう考えても、体調不良による頭痛とは別のものだ。
痛みのあまり倒れた事も一度や二度ではなく、そのせいで命を落としかねない事態になった事もある。
「ここ二、三ヶ月はこの頭痛も殆どなかったんだがな……」
今自分の置かれている状況が全く分からない上、予兆もなく先程の頭痛──「例の頭痛」とでも言おうか、それに襲われ妙な苛立ちを覚えていた、その時。
「失礼します。……起きたみたいね」
部屋の扉が、声が聞こえてくると共に開けられる。
そこから現れたのは、白と灰色を基調とした軍服を着た女だった。
人形の如く白く艶のある肌に、少し尖った耳。そして綺麗に梳かされた、水色混じりの露草色の長い髪。
澄んだ瑠璃色の瞳を持ち、その瞳でこちらを見てくる彼女からは、凛とした佇まいを感じさせる。
顔だけではなく体の方も完璧と言え、胸は若干大きめではあるものの、五尺四寸程の身丈と丁度良い均衡を保っていた。
年は俺と大して変わらないだろうか?
肌の白さや髪の色からして、音信だとお目にかかれないだろう。かと言って南蛮人にもこんな見た目の奴はいない。
つまり、「ここは音信やその一帯──どころか、南蛮でもない別の場所」という事だ。それだけは瞬時に理解した。
「……あんたが俺を介抱してくれたのか」
彼女は少し違う、といった感じの顔をして。
「わたしもその場に立ち会ったけど、倒れてる貴方とあの紅い馬を見つけたのはわたしの部下よ。わたしが直接介抱した訳じゃないわ」
何処かツンツンした態度で俺に言うこの女。
部下、ということは彼女はそれなりの地位に就いているのだろう。
それに加え、俺を保護したのは個人ではなく、何らかの組織のようだ。
「紅い馬……って事は紅蓮もか。なぁ、お姉さん。早速聞きたいんだが、俺はどんな感じで倒れてた?」
彼女は少し黙り込んだ後、その口を開けて答えた。
「どんな感じって言われても……ぐったりしているような感じ。服の汚れはほぼなし、目立った外傷は貴方の頰や貴方の馬に数ヶ所あったけど、命の別状はなし。そんな所」
「何処で倒れてた?」
「この街の裏通り。ほぼ人気のないような場所よ」
「……裏通り、だと?」
本当にどういう事だ?
今、自分の置かれている状況が理解できない。
俺の記憶と彼女の発言、そして今の状況が全くもって噛み合わない。
頭の中が色々と混乱してくる。
そんな俺を彼女は明らかにおかしいと判断したのか、俺に近づいては猫撫で声で訊いてきた。
「大丈夫?体調悪い?」
「いや……なんて言うか、頭ん中が訳分かんなくなってきた……」
そう答えた俺に対して、彼女は心配そうな顔をしながらしゃがんで目線を合わせてきて。
「とりあえず落ち着いて?話は後で聞くから、ちょっと寝ていたらどう?」
「ああ、そうする……おやすみ……」
俺は名も知らぬ彼女の勧めに従って、少しの間眠りについた。
これがただの夢である事を願いながら──
──────────────────
「落ち着いた?」
暫くして再び目を覚ました俺に対し、寝床の隣で椅子に腰掛けていた、名も知らぬ彼女はそう訊いてくる。
「ああ」
どうやらこれは夢ではなく、紛れもない現実のようだ。
正直言うと、夢であって欲しかった。
「それなら良かった。目覚めてばかりで悪いけれど、一応話を聞かせて頂きます」
あまり良くないんだがと思う中、彼女はそう言って近くの台に置いてあった紙を乗せた板と羽ペンを手に取る。
「尋問……か?」
「それに近いけど、ちょっと違うわね。貴方の身元を証明するものがなかったから、話を聞かせて貰う次第です」
なるほど。つまり──
「まず、貴方の名前と出身地。正確に答えて?」
ほれ見ろ。予想通りの展開になった。
別にどうという事もない筈なのに、何故か答える気にならない。
そもそもここが何処か分からない以上、この女が見た目からしても異邦人という可能性は圧倒的に高く、正直に話したとて彼女が理解できるとは思い難い。
だが、答えなければあらぬ疑いを掛けられる。
……仕方ない。
「天田雷吾。出身は下崎国那賀本郡音信。同地在住」
少しだけだが、嘘をつく。
何者かすら分からない相手に真名──即ち本名を言うのはマズいからだ。
ここでは真名を伏せ、かつて名乗っていた「天田雷吾」で通そう。
「アマダライゴ。出身はカザキノクニナガモトグンオトシナ……」
「どうした?」
恐らく俺の身元情報を記しているであろう、その羽ペンの動きが止まると共に、彼女の表情も固まる。
「一応念のため、もう一回言って貰っていい?」
「ああ。名は天田雷吾。出身は下崎国那賀本郡音信。同地在住」
俺が淡々とした口調で再び言うと、彼女は下を俯いてはため息をついた。
「うそ……やっぱり……」
「は?やっぱり?……どういう事だ?」
思いがけない単語が飛んできて、思わず訊き返す。
そして彼女は俯いていた顔を上げ、真顔になって言ってきた。
「その装束……確か、和服と言うのよね?それを見た段階でもしやとは思ったのよ。それに、貴方の名前と音信という地名。貴方、ここの世界の人じゃないわね」
「すまん、何言ってるのかよく分からん」
俺の当然といった反応に、彼女は二度目のため息を吐き。
「まぁそうなるか……今、貴方の置かれている状況を軽く説明するからよく聞いて?」
「あ、ああ」
いきなり彼女に詰め寄られ、俺は頷くしかなかった。
そして彼女は椅子に座り直し、説明を始めた。
──────────────────
あまりにも彼女の話が長々しいものだったので、その話を要約すると、こうだった。
まず、ここは葦原のある現世ではない、別の世界である事。
次に、人々は今いるこの世界を「カンフラント」と呼んでいる事。
そして、このカンフラントには「征魔術」と呼ばれる魔法のようなものがあったり、動物などが理性を失い凶暴化した「魔物」という存在がいたりする事。
見た事も聞いた事もないようなものがあったり、葦原の人間なら想像もできない事ができてしまったりするんだとか。
その分、征魔術が発達した事で鉄砲などの兵器の発展はまだまだ途中だという。
彼女曰く、多くの事が「あちら側」とは違うらしい。
俗に言う、常世──異世界という奴だ。
そんなものがあるとは到底信じられないが、そう解釈をせざるを得ない。
細かい事を考えたら駄目な奴だ。
「つまり……俺は常世──違う世界に飛ばされた、って解釈でいいんだな?」
「ええ。そう考えないと貴方の頭の中で事の辻褄が合わないでしょうし、これは現実だから受け入れて?」
「なるほどな……それはそうと、なんで言葉が通じてるんだ?」
俺の何気ない言葉に彼女は身体をビクリとさせて驚き、目をあちらこちらへと泳がせる。
「え、えっと……それをわたしに聞かれても困るのだけれど……」
分からないのか。
……となると、言語に関してはそういうものだと認識するしかない。
文字はどうか知らないが、言葉がある程度通じるだけまだマシだと思っておこう。
「あともう一つ……いや、二つ訊いていいか?」
「えっ、ええ……いいけれど」
彼女は少し戸惑いながらも、許可を出してくれた。
「なら訊かせて貰おう。何故俺が現世から飛ばされてきたと断言できる?それに、どうしてあんたは音信の地名を知っている?」
何故この女が音信の地名を知っているのかが俺には分からない。俺が異界から飛ばされたと断言できるのかにも疑問を覚える。
当然、何らかの理由がある筈だ。
「何処から話したらいいのか分からないけど……まずは、何故貴方が異世界から飛ばされてきたと断言できる理由について説明します」
俺はごくりと固唾を飲む。
「実を言うと、貴方のように突如現れた人はこれまでに何十人も確認されているの。一番古い記憶に残っているもので百年程前にもなるわ。そして、その人達は皆口を揃えて『葦原の出身だ』と言っていた。けれど、カンフラントの地図には一切記述のない土地であり、探検家達が血眼になって探してもその地は見つからなかった。結局、異世界から飛ばされてきたとでも考えるしかなかったのよ。それが貴方が異世界から飛ばされたと断言できる理由」
聞いた事もない上、見つけようとしても見つからないような土地から来た人間。
その人達のいた土地を異世界、その人達を異世界人・異国人とでも考えなければ辻褄が合わなかったのだろう。
少し腑に落ちない点もあるが、仕方がない。
「なるほど。なら二つ目の問いだ。なんであんたは音信の地名を知っているんだ?」
二つ目の質問を訊くと、彼女はオホン、と咳をして答えた。
「わたしの父方の祖父は音信出身の人だから。つまりわたしは葦原人の血を四分の一引くクオーター。混血児、というものよ」
「混血児……ねぇ。それで爺さんから音信の事を聞いていた……って訳か?」
「ええ。お祖父様はあちら側の事を色々と教えてくれたわ。けど、お祖父様はある時突如姿を消した。その人の息子と孫……わたしにとっては父と兄にあたる人も一緒に。幼かったわたしだけを実家に置いて」
「幼い娘を置いて失踪……か。酷なもんだな」
彼女は胸が潰れるような顔をしては、俺から目線を逸らし。
「今、あの人達が生きてるのかすらわたしは知らないわ」
落ち着きながらも、少し悲しそうにそう呟いた。
音信出身の葦原人とはいえ、それは一体誰なのか。
少し興味が湧いたが、もしその人らが死んでいるとしたら、考えるだけ無駄な話だ。
彼女だけを置いて突如消えた点も疑問に思うが、今はそんな話をしている余裕はない。
そして彼女は話を戻すかの如く咳払いをし、俺への質問を再び始めた。
「とりあえず、音信出身ね。倒れる前までの事を具体的に話して貰える?」
「なんでそんな事まで聞かれなきゃいけねーんだ……」
人の私的な事を根掘り葉掘り聞く気かこの女は。
必要事項なのだろうが、そうとなると色々とややこしい事になるぞ。
「とにかく、貴方の事情を把握する必要があるの。だから早く話して」
仕方ないか。ここでギャーギャー騒いでも話が進まない。
俺はすぐさま、あの時の記憶を思い出す。
「えっとだな……諸用で馬を飛ばしていたんだが、その途中で何処からか仕向けられた刺客に襲われてな。振り切ろうとしたが中々上手く逃げられず、その刺客や馬ごと崖から落ちて意識が──」
俺がそこまで言うと、それまで真面目に事を紙に書き取っていた彼女は吹き出した。
「おいテメェ!そこで吹き出すなよ!失礼にも程があるだろうがこのアマ!」
人の話を聞いて吹き出すという、何とも失礼な行動をした彼女は噎せたのか、何度かゴホゴホと咳込んで。
「ご、ごめんなさいっ、悪気はないの!本当に!意外すぎて思わず吹いちゃっただけだから」
咳をし続けながら彼女は謝ってくる。
だが、何が悪気がないってんだ。ふざけんな。
「悪気はない、悪意はないと言うが、それは悪いという認識をしてねーって事だからな。覚えとけ。あと、『ごめんなさい』は言う度にその価値が下がっていくから気をつけろ」
強気で言うと、彼女は少し怯えながらも言い返してきた。
「わっ、分かったから、睨むのはやめて!背筋がゾッとしたからっ!」
「んなことほざいてる暇があるなら、さっさと要件済ませろよ、お姉さん」
──────────────────
それから暫くは苛立ちのあまり、俺は強気な態度で彼女の質問に答えていた。
「年齢は?」
「数えで二十一」
「家族構成は?別居している親族は言わなくていいわ」
「あ、それならいねーな」
「一人暮らし?」
「そんなとこだ」
屋敷に常駐している楓鶹や、警備の者達の事は黙っておこう。色々ややこしくなる。
「ご両親は?」
「とっくに死んだ」
「……兄弟姉妹の方は?」
「大方死んだ。生きてるのは他所に嫁に行った腹違いの姉と、寺の住職である腹違いの兄、寺子屋の師範をしている腹違いの兄だけだ。同じ腹の兄二人、姉二人はここ数年で立て続けに死んだ」
「そう……。あれ?弟さんや妹さんは?」
「いねーよ。俺は八人兄弟の末子だ。妹みたいなのは二人か三人くらいいるが、あいつらは従妹や年の近い姪っ子だからな……」
「えっ⁉︎全然そうは見えないけど……」
彼女にとって、俺が末子であることは意外だったのか、かなり驚く様子を見せる。
「よく言われる。だが俺は紛れもなく末子だ」
「そ、そうなのね……次、職業は?」
そしてようやく家族構成から別の話に移る。だが、どう答えたものか。
馬鹿正直に「天田宗家の当主だ」なんて言った所で、この女にすんなりと理解して貰えるとは思い難い。
「何て言ったらいいんだろうな……あー、もう面倒臭いから無職で」
面倒臭くなったので半ば投げやりになっていると、彼女は呆れ混じりの困惑した表情を見せる。
「面倒臭いから無職で、って言った人を初めて見たわ……」
そりゃそうだ。
「じゃあ自邸の守り主で」
「じゃあって……まぁいいわ。その守り主って、具体的にどんな事をしてた?」
訊くのかよ。生真面目に訊く事じゃなかろうに。
「書を読む、絵を描く、刀研ぐ、ぶらつく、飯食う、風呂に入る、寝る。この程度だな」
「それってただの引き篭もりじゃない」
彼女は呆れと蔑みの混じった目で俺を見てくるが、そうされる筋合いはない。
「引き篭もり言うな!……尤も、俺は宇治月の城下に向かってた所を刺客に襲われたんだよ」
「何故そこに?」
「さっき言ったように諸用だ。大慌てで馬飛ばしてたらこのザマだ。……と言っても、どう帰ったものか」
「そんな事をわたしに言わないで。わたしが知った事じゃないわよ」
「面倒くせ……ま、そのうち帰れるだろ。他に質問は?」
「以上ね。ご協力ありがとうございました。それじゃあ、わたしは戻るわね」
彼女はそう言って立ち上がり、椅子を元の位置に戻す。
その時俺は、一つ訊き忘れていた事を思い出した。
「そういやお姉さん、俺、あんたの名前まだ聞いてないんだが。普通なら一番最初に言うべきだよな」
敢えて不機嫌そうに口にした俺のその言葉に、彼女はまたもやビクリと肩を震わせる。どうやら、すっかり忘れていた様子だ。
俺に指摘され、こちらに振り向いた彼女はオホン、と何度目かの咳払いをして、ようやく自分の名前を名乗った。
「サメリア騎士団・主席総長麾下部隊第三小隊長、フィメリア=ビリーツです。以後お見知り置きを」
「騎士団……軍隊みたいな奴か?」
「まぁそんなところ。わたしは騎士団のトップである主席総長直々の部下──近衛兵みたいなものよ」
近衛兵……ねぇ。葦原でいう近習みたいなものか。
「ふーん……年は幾つだ?」
「女性に年を聞くのに遠慮しないのね貴方は……。わたしはこれでもまだ十七歳、貴方より三、四歳ほど年下」
……なんと、俺より年下だったか。
「意外だな、てっきり二十歳そこらだと思ったぞ。十七でそれなりに高い立場にいるのかお前。大したもんだ」
俺の賞賛に対し、フィメリアは難しい顔をした。
「別にそうでもないわ。今わたしのこの地位は、主席総長──騎士団のトップである叔父様の手回しによるものよ。あの人はわたしを都合良く利用するためだけにわざわざ出世させたの」
そう口にした彼女は、どんどん表情が固く、暗くなっていく。
うん。これは間違いなく面倒な話だな。
恐らく彼女も気づいてはいるのだろうが、権力闘争の類の臭いがする。
「わたし自身はあくまで一兵士として騎士団への入団を考えていたのに、入って一年もしないうちにあの人の身勝手な都合で小隊長よ。素直に喜べないわ」
「……周りからの妬みや恨みがあるからか?」
フィメリアは頷き、そのまま続ける。
「ええ、士官学校時代からずーっと。叔父が騎士団の主席総長であったのに加え、士官学校の教官や騎士団幹部の受けも良く、同期の中では首席だったこともあって贔屓されてたから尚更よ……」
彼女は黙り込む。
……これは暫くの間いじける奴だな。だが、このままここでいじけられるのは困る。
単に出てけと言えば早いものだが、いじけている相手に対してそれは、あまりにも酷過ぎる対応でしかない。
どうしたものかと思った時、部屋の外から誰かの声が聞こえてくる。
「……小隊長!ビリーツ小隊長は何処におられますか!」
聞こえてきた声に黙り込んでいた彼女はハッとし。
「上からの呼び出し……行かなきゃ」
そう言って大慌てで席を立った。
「……お呼ばれか。小隊長なるものも大変だな。無理すんなよ?」
「え、ええ。とはいえ、急ぎの用だからわたしは戻るわね。それでは機会があればまた」
「ああ、お疲れさん」
彼女はそう言って、慌ただしく部屋を出て行ってしまった。
「……なんか疲れた。とりあえず寝るか」
ポツリと呟いた後、俺は慣れない寝床で眠りについた。