Episode 27「反撃の狼煙」
反撃の狼煙が上がった。
テル達が猛威を振るうドラゴンに攻撃を加えて弱点や攻略方法を探る一方、俺は一人囮役として奴の周りを動き回っては、奴を牽制していた。
「……闇よ、その深淵へと汝を呑み込め!『シャドウスワンプ』!」
何時ぞやぶりにテルの厨二臭い詠唱が耳にまで聞こえてきた後、奴の真下に禍々しい色の沼のようなものが現出し、沼へと奴を引き摺り込んでいく。
一時的に奴の動きを止める事に成功したものの、術の発動が終わると共に奴は先程までの勢いを取り戻し、俺への猛攻を再開した。
「ブレイズショートより効果はあるっぽいけど、有効打ではなさそうねー……フィメリア!」
「……ええ!『アクアストリーク』!」
今度はフィメリアが、右手から水流を奴の身体に向けて勢いよく放ち、水流は奴の横腹辺りに直撃した。
側面から放たれた水流に一瞬、奴は怯んだような態度を見せたが、これもあまり効いている様子ではなかった。
マロンも必死になりながら腔綫銃で数発の銃弾を撃ち込むが、銃弾は鱗に弾かれてしまい、びくともしない。
「き、効いてないよっ!」
「けどアクアストリークには一瞬怯んだわねー。あのドラゴンの攻撃方法や諸々の反応を見た所、あいつの弱点は水属性と風属性ってとこかしら」
「水と風……どういう事?」
フィメリアが問う。
「あのドラゴンは様々な方法で攻撃してるけど、その中で特徴的だったのが泥のブレスや地属性の征魔術よー。そこから推察すると、あれは地属性を司るドラゴンよ。地属性の魔物は風属性に弱い傾向があるわ」
そう説明しながら、テルは奴の方に目を向けて。
「それに、あれはついさっきのあんたのアクアストリークに一瞬だけど怯んだ。という事はあれは水属性も苦手としている可能性が高いのよー。だからあれの弱点は水属性と風属性、って予測できる訳。ま、あたしは適性がなかったから水属性と風属性の術は一切使えないけど」
「えっ、ウソでしょ⁉︎」
「本当よー。従ってあたしはあのドラゴンに大したダメージは与えられないわ。ついでに言うとガキンチョ、あんたに渡したソルディアは地属性の奴だから、あんたもあたし同様サポートに徹するしかないわよ」
「ええっ⁉︎頑張ろうって思ったのに!じゃあどうするのさ⁉︎」
「こうなると、アクアストリークを使えるフィメリアに頼るしかないわねー。ライゴはあたし達以上にあれとの相性が悪いみたいだし」
刀は鱗で防がれてしまいあまり効かない。征魔術は効果が薄い以前に使い物にならない。
テルのその言葉通り、俺はこの間も奴に苦戦を強いられ続けていた。
「えっ、けどついさっきのフィメリアの術はあんまり効いてなかったよ⁉︎」
「そりゃ、威力が弱いからねー。大規模な水属性の征魔術であればともかく、アクアストリークが初級の征魔術という事もあって大したダメージにはならないのよー」
「そんなぁ……」
「しかも、あいつの身体は硬い鱗に覆われてる。何らかの方法で鎧代わりである鱗を砕くか、口の中とかのような、体の内側にでも攻撃を加える必要があるわねー。これ以上の長期戦となるとこちらは圧倒的に不利な状況に追い込まれるし、長い事粘ってくれてるライゴのためにも、さっさと片をつけるわよ」
「責任重大ね……」
フィメリアは固唾を呑む。
「そ。サポートはあたしとガキンチョでちゃーんとするから、あのドラゴンにアクアストリークをぶちかましてやりなさい」
「分かったわ。……『アクアストリーク』!」
意気込んだフィメリアの右手から、またもや勢いよく水流が放たれる。
今度は左翼に水流が直撃し、奴の注意は俺からフィメリア達へと移った。
奴が標的を変えると共に、俺は反撃に転じる。
それと共に、右腕のソルディアに嵌め込まれている紅い玉石が強い光を放ち。
「……奥義、紅蓮千撃!」
数日前の戦乙女との一騎討ちでも使った一撃を放つ。
瞬時に刀身には赤黒い焔が纏わり、その焔は奴の右脚を燃やした。それと共に、奴は不意を突かれたかのように悲鳴にも聞こえる咆哮を上げる。
そして、これまで甚振り続けてきた俺を脅威と認識したのか、一度変えた標的を俺に戻してはとてつもない速度で襲いかかってきた。
それと共に、奴の口が大きく開く。
「「ライゴっ‼︎」」
「……マズい!」
避ける時間がない。
このままだと左腕……いや、全身を──!
死を覚悟した時、誰かの叫び声と共に大きな銃声が空間一帯に響いた。
次の瞬間。
今にでも俺を喰おうとしていた存在はその大きい口の中で紅い血を流し、またもや咆哮を上げては仰け反っていた。
「「⁉︎」」
一方で俺はその存在に喰われていない。生きている。
「「マロン……!」」
「う、上手く当たった……っ」
ふとフィメリア達の方に目を向けると、最も距離を取っていたマロンが息を途切れ途切れにしながら汗を滝のように流し、顔面蒼白になっては腔綫銃の構えを解いていた。
そんな彼の様子を見て、彼によって銃弾が撃ち込まれ、奴に一矢報いた事を悟る。
「よくやったわガキンチョ!フィメリア、今のうちにアクアストリークを奴の口の中に撃ち込みなさい!あたしもシャドウスワンプで足止めするわ!」
「了解!『アクアストリーク』!」
「闇よ、その深淵へと汝を呑み込め!『シャドウスワンプ』!」
奴の攻勢が止まり、テルが征魔術で足止めしている隙に、フィメリアは何度も何度も水流を放つ。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、と言わんばかりに幾度も放たれ続けた大量の水は、テルの征魔術との同時攻撃により奴の力を徐々に奪っていき、遂にはその巨躯を横たわらせた。
「た、倒した……っ!」
そして、何らかの音が絶えず響いていた空間は、奴が倒れた事で一気に静まり返っていく。
「先程までの暴れようが嘘のようだな……」
「ええ、全然動かないわ。けど油断しちゃ駄目」
「だな。止めを刺すべきか?」
刀の柄を強く握り締める。
念には念を。ここで殺しておくべきだろうか。
「やめておきなさい」
しかし、即座にテルが待ったを掛けてきた。
「多分、こいつを殺すと大量の、それも高濃度の属素が放出されて、あたしらは一瞬で魔物化するわー。以前、魔物は人や動物が属素の過剰摂取によって理性を失う事で誕生する存在だって言ったでしょ?」
「そういやそんな事言ってたな」
確か、キャルム砦でガルザンディラス軍の襲来に備えて作戦を練っていた頃だったか。
「えっ⁉︎そうなの⁉︎」
「そうよー。あんたのよーく知ってる狼もキラービーも、元は普通の犬や蜂が大量の属素を摂取した事で理性を失くして姿形を変え、凶暴化した奴らよー?」
「えぇー……じゃあこのドラゴンを殺すと、ボクらはさっき遭遇したゾンビみたいなのになっちゃうって事⁉︎」
えっ。それは嫌だな。
「肉体は腐ってないからゾンビにはならないでしょうけど、理性を失くして凶暴化、最終的に人じゃなくなるのは間違いないからねー。つか、そもそもドラゴンは生命力の強い奴らよ。殺すにしても殺し切れないんじゃない?」
「……ならやめとくか。宝石探さなきゃいけねーし」
「そうね。ドラゴンを倒す事に集中し過ぎて、少し忘れかけてたわ」
俺達がここに来たのはあくまでも宝石探しのためであって、ドラゴンを倒すために来た訳ではない。
倒した事ですっかり沈黙したこの存在は、今や脅威にもならないだろう。
放っておいても問題なさそうだ。
「さてマロン、お目当ての宝石探すぞ……って、どうしたペンギン」
いきなり「にゃー」と鳴き出したペンギンに、視線を向ける。
「なんかあるよー」
ペンギンはドラゴンの側にまでよちよちと歩いて行き、止まってはこちらを見つめてきた。
何だ何だと皆揃ってペンギンの近くにまで足を運ぶと、そこには琥珀色に光り輝いている小さな球体が転がっていた。
「綺麗……」
フィメリアがぽつりと呟く。
傷一つない球体の美しさに、俺やテル、マロンも思わず目を奪われた。
「ああ……もしやとは思うが、マロンが探しにきた宝石って、これか?」
遺跡探索を開始する前に訊いた時、マロンは宝石の特徴はよく分からないと言っていた。
この球体だと、宝石と言うよりは宝珠と言った方がしっくりと来るのだろうが、これがマロンの言っていた「宝石」である可能性は十分にある。
「どうなんだろ……。一応、この辺りを探しても良い?それがボクのお目当ての宝石かどうかは分かんないし」
「まぁ構わんが、周りに注意して探せよ?あと忘れてはないと思うが、この後帰るんだからな?」
「分かってるって!さ、今から探すよオヤマ!」
「さがすさがすー!」
ついさっきまで萎縮し切っていたマロンはすっかり調子を戻し、ペンギンを連れては奥へと入っていく。
「なぁフィメリア、それに見惚れてる所悪いが、念のためマロンとペンギンを見ておいてくれないか?」
宝珠に見惚れるあまり放心していたのか、フィメリアは肩をビクリと震わせ。
「へ⁉︎……え、ええ、分かったわ。貴方はどうするの?」
「俺は暫し休憩だ。流れてた血はいつの間にか止まったし、征魔術を受けた時の痛みも大分引いてきたが、長い間動き回ってたせいでヘトヘトなんだよ」
「テルは?」
「あたしも休憩。そのドラゴンの攻撃をモロに喰らったせいで上着も中着もタイツもズタズタに切り裂かれてボロボロだし、あんま動きたくないのよー」
「そ、そう……。じゃあわたしはマロンの様子を見てくるから」
そう言って、フィメリアはマロンとペンギンの向かった方へと歩いて行く。
彼女の姿が見えなくなると共に、俺もテルも一息吐き、揃って腰を下ろした。
「……お疲れ」
「そっちもな。マロンを守ってくれて助かったよ」
「本当にねー。お陰でボロボロよ。あんたを通して見えたあの『予知』は見事に回避できたけど、あのガキンチョとペンギンを助ける価値はあった?あたしはあまりそうは思わないけど」
テルは不機嫌そうな顔をしながら憎まれ口を叩く。
「さぁな。ただ、助けられるかもしれねーのに放っておいて見殺しにする事は俺にはできねーな。『あの時こうしておけば』と後悔したくねーんだよ、これ以上はな」
瞼を閉じ、あの時の事を思い出しながら独り言のように呟く。
あの時は何もできなかった。無力だった。
俺に力が有れば、と思った。
「ふーん……。ま、いいわ。結果オーライだし、ガキンチョも満足そうだし」
「ああ。そういや、この後セラムに帰ったらどうするんだ?」
ふと思い、訊いてみる。
「んー……とりあえずセラムを出て、南南東の方にあるヴィルムまで馬で移動。三日程掛けてヴィルムに到着したら、あたしが世話になってるヴィルム伯の屋敷まで行って、そこに何日か滞在する事になるわねー」
「なるほどな。嫌でもフィメリアはついて来るとして、マロンはどうする?」
「さぁ?多分セラムを出る際に別れるんじゃない?遺跡探検という目的は果たしたんだし」
……確かにそうか。
数日間一緒にいたとはいえ、マロンとはあくまでも利害の一致で関わっていただけに過ぎない。
目的を果たした以上、共に行動する必要もなくなる訳で。
「ライゴー!周りのエリア探してみたけど、何もなかった〜〜〜……」
噂をすれば影が射す。
フィメリアやペンギンと共に戻ってきたマロンは、残念そうに報告してきた。
「そうか……って事は、この琥珀色の宝珠がマロンの探してた宝石、って訳か。とりあえずは目的達成だな」
俺は手元に転がっていた宝珠を取り、それをマロンに手渡した。
「うん、そうだね。ライゴもテルもありがとう」
「どういたしましてー。とは言え帰り道も魔物がいるから、油断するんじゃないわよー」
そう言って、テルは腰を上げて立ち上がる。
「わ、分かってるよ!だよねフィメリア!」
「わ、わたし⁉︎」
「にゃー」
三人と一匹が騒ぎながら一足早く歩き出す中、俺も立ち上がっては目覚める様子のないドラゴンをチラリと見る。
この冒険も、もう終わりか。
ほんの少し、寂しさのようなものを覚えた。
──────────────────
波瀾万丈の遺跡探検は、何度か危機に陥ったものの、誰一人欠ける事なく終える事ができた。
地下深くから地上まで戻るのに思いの外時間を食ってしまったが、不慮の事態には至らず、何とか街への帰路についていた──
黄昏時に野営を始めて暫くが経ち、フィメリアとマロンが天幕の中で深い眠りに就いている中。
「なぁテル、一個聞きたい事があるんだが」
「んー?」
共に夜の見張りをしていたテルに問う。
「あの骸骨共って何で動いてたんだ?凄え気味が悪かったんだが」
「それは勿論、あのスケルトン共も魔物だからねー。人が死んで白骨化した後、大量の属素に晒される事で意識が宿って、勝手に動くようになるのよー。因みに人の死体が腐ってる途中に大量の属素に晒されると、それはゾンビになるわ」
やっぱりあいつらは魔物なのか。
「倒した際に砂みたいになって消えるのも、魔物だからか?」
「まぁそんなところねー。ゾンビやスケルトンのようなアンデッド系統の魔物はそういう特徴があるのよ」
「死しても尚動く──今思えば、かなり罰当たりな奴らだな……」
お陰でフィメリアは泣き喚くわ、苦戦させられるわ、おまけに気味が悪いわ。
迷惑でしかなかったな、あいつら。
「どうなんでしょうねー。そういや、帰り道もスケルトンの群れに遭遇するのは想定してたけど、フィメリアのあの取り乱しようは想定外だったわねー……」
「……だろうな。マロンもそれに驚いてたし」
そう。
フィメリアは俺と二人で移動していたあの時だけではなく、何度か骸骨共に遭遇した帰り際もかなり取り乱していたのだ。
あまりの怯えぶりに、マロンにも「だ、大丈夫?」と多少引き気味に心配される始末。
マジで散々だった。
──突如。
「……ぐっ!」
頭痛に襲われ、その痛さに思わず頭を押さえる。すると。
(器よ、よく聞け……忠告だ………)
セラムに到着した日の夜以来、久方ぶりに幻聴が頭の中に響き渡ってきた。
「また、か……今度は、何だ……っ」
痛みが徐々に増して周りの音が掻き消され、文字通り頭を抱える中、声を振り絞って幻聴に言葉を返す。
(貴様の元に────が迫っている。彼奴は貴様を狙っている。くれぐれも注意せよ。二度は言わぬぞ)
忠告。狙っている。くれぐれも。
以前聞こえた際も、こんな事を言っていたような。
それにしても、何が迫っていると言うんだ。果たしてその根拠はあるのか。
それに、前々から思ってたがこの幻聴は一体なんなんだ。
(貴重な命をあっさりと落とさぬよう、暫くは警戒する事だ──)
そう言い残し、幻聴は聞こえなくなる。
痛みが薄れてくると共に、呼び掛けてくるテルの声が聞こえてきた。
「……聞こえるなら返事しなさい!」
「っ……ああ……ようやく聞こえた」
テルはホッと一息吐いたと思えば。
「ったく。あんたのその頭痛、よく分かんないタイミングで来るのよね……しかもこれまでとは違って何も見えないし。今度はどうしたのよ」
強い口調で、そう問い詰めてくる。
一応、あの幻聴についても伝えておくか。
今のところ、こういう事を話せるのは「予知」の事を知っているこいつだけだし。
「……幻聴が聞こえた」
「幻聴?」
「ああ。セラムに着いた日の夜にも聞こえたんだが、俺の元に何かが迫ってるんだと。当分は警戒しろ、ってさ」
あの幻聴からは、それ以上の情報はない。
「予知」同様、幻聴が何処まで信用できるのかも分からない。
「何かが……ねぇ。幻聴のくせに親切なもんね。ま、いつ何処で何が起こるか分からないし、警戒しといて損はないんじゃない?」
「何も起こらんのが一番なんだがな……」
深く嘆息せずにはいられなかった。
──────────────────
それから二日後。
その日は雲一つない、快晴だった。
「これまた良い天気ねー。運の良い事にセラム公から馬車も借りられたし、出立するには打って付けの状況ねー」
「ええ、いざという時は宿にもなるし。それはそうとライゴ、少し顔色が良くないみたいだけど……具合でも悪い?」
「いや……ちと悪い夢を見てな。ま、お前らが気にする程のもんじゃねーから安心しろ」
運の悪い事に、なるべく思い起こしたくない過去の夢を見てしまった。
「彼女」を喪い、絶望に打ち拉がれたあの日の時の夢を。
何故、あの時の夢を今になって見たのか。
もしこの夢が何かの前兆であるならば、言うまでもなく凶兆だ。先日聞こえた幻聴の事も考慮すると、ほぼ確実に嫌な出来事に遭遇するだろう。
それも、生きている間は忘れられないような。
「安心なんてできないわ。とりあえず、貴方は馬車の中で暫く休んでて。貴方に万が一の事があったら、騎士団もわたしも困るの」
「困るって……なんでだよ?」
「端的に言うなら面倒な事になるから。とにかく、貴方はさっさと乗って」
「へいへい……」
一回面倒臭そうな事は忘れようと思い、馬車に乗り込もうとすると、遠くからすっかり聞き慣れた騒がしい声が聞こえてきた。
「おーい!置いてかないでよーーーっ!」
マロンだ。ペンギンも一緒にいる。
「なんだ、マロンとペンギンか。わざわざ俺らを捜しに来たのか?」
「当然だよ!朝、目が覚めたら三人ともいなくなってたし!」
「それで追っかけて来て何の用だよ?」
「何の用って、連れてって貰うからに決まってるじゃん!荷物見たら分かるでしょ!」
そう言われてよく見ると、マロンは腔綫銃や野営道具をはじめ、遺跡探検に行った時以上の荷物と小包のようなものを持って来ていた。
彼がついて来る気満々なのは、見ただけで理解できたが。
「お前……俺らについて来てもロクな事ねーぞ。それに、女将さんから許可は得たのか?」
「勿論、母ちゃんからの許可は貰ったよ!あと、その時にライゴにこの手紙を渡してほしいって言ってたんだ」
マロンの差し出してきた手紙を受け取り、封をしていた蝋を外しては手紙に目を通す。だが、手紙に書かれていた文字を俺が読める筈もなく。
「……テル、悪いが手紙読んでくれ」
「はいはい」
速攻で隣に立っていたテルに手渡した。
そしてテルは「えーっと……」と口にしては、淡々と手紙の内容を読んでいく。
『アマダライゴ様 木々の葉も鮮やかに色づいてきましたが、如何お過ごしでしょうか。先日は愚息が何かとお世話になりました。ありがとうございます。さて昨日、遺跡探検から帰って来た愚息が「ライゴについて行きたい」と言い出しては聞かず、悩みに悩んだ末に私は愚息を送り出す事にしました。真に申し上げ難い事なのですが、愚息をどうか宜しくお願い致します。何かと迷惑を掛けるとは思いますが、ご容赦下さい。それでは、またお会いできる事を楽しみにしております。末筆ながら、御自愛のほどお祈り申し上げます。 十月八日 エリーゼ=カリアス』
「……だってさ。どうすんの?」
女将さんの書いた手紙の内容に感服するあまり、言葉を失う。こんなに丁寧な手紙を寄越されたら、「来るな」と拒否できる訳がない。
「あ、追伸もあるみたいねー。『重ね重ね申し訳ありませんが、愚息に以下の事をお伝え下さい。一つ、好き嫌いはせずに食べる事。サラダを丸ごと残さないように。二つ、人様に迷惑を掛け過ぎない事。三つ、体調を崩さず、オヤマ共々元気でいる事。愚息がこの事が守れないようならば、容赦なくセラムの私の所にまで送り返して頂いて結構です。それではまたお会いしましょう』……良い親御さんじゃない。親御さんを心配させてでもガキンチョ、あんたはあたし達について来るって言うの?」
「そ、そうだよ!母ちゃんからお墨付きを貰ったのにここで引き下がってどうすんのさ!しかも『運搬の鍵』から一ヶ月以内に聖都にある支部にこの荷物を届けるよう言われてるし!ついて行く以外の選択肢はないよ!」
こいつ、母親からのお墨付きだけではなく、所属している組合からの命令も大義名分としてあるのか。
そしてフィメリアもテルも「別にいいんじゃない?」と言わんばかりの顔をしている。
追い返す理由がなくなってしまった。
「……頑固な奴め。後悔しても知らねーぞ?」
マロンは驚喜に近い表情を顔面に漲らせて。
「……!分かってるって!よろしくライゴ!」
「ああ。こっちこそよろしくな」
「うん!」
二度目の「予知」を、苦戦し傷を負いながらも覆した結果。
夢見る少年との間に、絆が生まれたのだった。
第二章前半の遺跡探検編、これにて終幕です。
ストーリーの進行に思いの外時間が掛かってしまいましたが、お付き合いありがとうございました。
次回からは第二章後半に突入しますが、次回はタイトルにもある『因縁』がようやく動き出します。
ご期待下さい。




