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因縁のカンフラント 〜鬼天田の異世界戦記〜  作者: 志尚元嗣
第二章 事を為すため歩き候
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Episode 24「秘宝を求めて」



 遺跡探索に向かう日の朝。俺は少し遅めにテル達の前に現れた。

 その理由は決して寝坊なんかではない。これまで着続けてきた、小袖や袴からの「衣替え」をしていたが故である。


「買う時に一回見たとはいえ、改めて見ると本当に黒尽くめの格好ねー……」


「ボクは良いと思うけどなぁ。何故かコートの袖を捲ってるのがちょっと気になるけど。オヤマもそう思うよね?」


「にゃー」


「……ま、結構サマになってはいるわね。髪の色やソルディアの色も含めて黒尽くめのヤバい奴、って感じで」


 俺同様に帝国軍の軍服から装いを新たにしたテルや、先日の買い物を主導していたマロンが、俺の新たな装いについての感想を口々に述べていく。


「黒尽くめのヤバい奴って……。もうちょっと言葉選んでくれよ」


「別にいいじゃない。事実なんだし」


 確かに、金属製の臑当のような形状の靴以外は上から下まで殆どが黒ではあるが。


「ったく……そういやフィメリアの奴はどうした?」


 ふと、フィメリアの姿がない事に気づく。


「あの娘ならついさっき、馬の様子を確認するって言って外に行ったわよー?」


「馬の確認?って事は俺の紅蓮(ぐれん)やお前が乗って来たあの馬で行くのか?」


「そうなんじゃない?ガキンチョ、そうなの?」


 ……お前も知らんのかい。


「そのつもりだよ?ここから目的地のカルフィア遺跡まで歩いたら、片道三日は掛かっちゃうからね」


「片道三日……ねぇ。じゃあ馬で行けばどれくらいになる?」


「多分一日あれば行けるよ。今から出発して、明日は一日中遺跡を探索して、明後日の夜に帰ってくる、って感じかなぁ」


「なるほど。二泊三日の旅、って訳か」


「そうそう。ちゃんと準備も整え──あっ!」


「どうした?」


「そういや馬に荷物取り付けてなかった!ちょっと馬舎行って馬に荷物取り付けてくるから、二人はオヤマの面倒見てて!」


「お、おう……」


 やり忘れていた事を思い出したマロンは、玄関の一角に置いてあった荷物の数々を一気に抱えては大慌てで外へと消えていく。

 そして、辺りは一気に静かになった。


「ったく、本当にうるさくて慌ただしいねウチの子は……。先が思いやられるよ。親としては不安でしかないねぇ」


 少しばかりの沈黙の後、一連のやり取りを側で見ていた女将さんが、呆れと不安の混じった表情をしながら口を開いた。


「そうか?あの歳であれだけの行動力がある。あいつは大したもんだと俺は思うけどな」


 俺があいつくらいの歳──十二、三歳の頃はどうだったか。

 元服もしてない子供であるのを良い事に、親父や月奈(るな)の庇護の下、「これをしたい」「こうなりたい」という明確な目標もなく、日々を呑気に過ごしていた気がする。

 マロンはその点、大した奴だと思う。


(あいつの未来のためにも、あの「予知」は覆さないとな)


 俺が心の中で改めて今回の件の解決に意気込む一方、女将さんは納得いかないのか、苦い顔を変えずに言葉を返してくる。


「いやいや、そんな事ないさ。ただでさえ冒険に行くのは危ないから大概にしな、と言っても聞かないのに今度はあのバカ息子、ドラゴンが棲み着いてるっていう遺跡に行くって言うんだよ。……どうも、嫌な予感しかしないんだ。坊や達からも一言言ってやってくれないかい?」


 弱音を吐くように語り、頼んでくる女将さん。

 確かに、彼女の言いたい事も分からない訳ではない。子を持つ母親としては寧ろ当然の事だ。


「ま、一人息子に危険が迫ると思うと気が気じゃないだろうな。俺はこれでも死んだ兄の娘二人を引き取って飯食わせてた身だが、俺も今、あいつらにもしもの事が起こったらと思うと恐ろしくてしょうがねーよ。女将さんの気持ちは凄く分かる」


 敢えて言葉をそこで切り、少しの間を持たせて。


「……だが、冒険には危険が付きもの。あいつはその事を重々承知した上で、それもしっかりと計画を立てて冒険に行くんだ。可愛い子には旅をさせてやれよ。それに、俺達も同行するからあいつが危険な目に遭う確率もグッと減る筈だ。そうだろテル?」


「そうよー。護衛の戦力としては申し分ないと思うわね。しかもわざわざソルディアや腔綫銃(ライフル)まで持たせたし大丈夫よ。ガキンチョもペンギンも無事にこの家に帰すから、ここは止めずに見送って貰えない?」


 女将さんは「うーん」と唸り声を上げ、やがて判断を下した。


「……分かった。わざわざ手を煩わせてすまないねぇ」


「いやいや、気にしないでくれよ女将さん。俺達がやりたくて勝手にしてるだけだし、これも何かの縁だって」


「そうそう」


「二人とも、ウチのバカ息子とオヤマを宜しく頼むよ。……いや、宜しくお願いします」


 女将さんの懇願に俺もテルも深く頷き、


「「了解」」


 真剣な顔になって、そう答えた。




──────────────────




 街を発って翌日。

 目的地・カルフィア遺跡の入り口に到着した俺達四人は、乗ってきた馬から降りる。

 俺やテルが馬の状態を確認し、フィメリアが周りを見渡す中、マロンは深呼吸をし。


「ふー……ようやく着いたー!噂には聞いてたけど、やっぱ大きいなぁ」


彼は独り言のように歓喜の声を上げては、大きな遺跡を眺めた。


「確かにデカいな。そういや昨日、行きに一日使って探検に一日使って帰りに一日使うとか言ってたが、このデカさだと一日で探索できるのか?」


 ざっと見渡す限りキャルム砦より何倍も大きいであろう遺跡を一日で探索できるのか、という点に少し疑問を感じ、マロンに問う。

 彼は首を横に振り。


「いやいや、流石に無理だって!そもそも遺跡の全部を探す訳じゃないからね」


 ……だろうな。

 見た所、遺跡に窓らしき物は一切見当たらない。灯りがない限り、内部が暗いのは明白だ。

 もしそんな状況で遺跡の全部を探索するとなれば、一体何日掛かる事か。


「そういやガキンチョ、遺跡探検とは言うけど、あんたがここに来た目的は何よ?」


 そういえばそうだ。

 俺とテルは「予知」の事もあってマロンへの同行を決めたが故、今回の遺跡探索の目的を全く知らない。

 なら最初に訊いとけよ、と思うが、衣替えやら腔綫銃(ライフル)の件やらもあって、俺もテルもその事をすっかり忘れてしまっていた。


「目的?二、三週間くらい前にギルドの本部でチラッと聞いた話なんだけど、この遺跡の地下深くに綺麗な宝石があるらしいんだって!形とかはあまりよく聞いてないから分かんないけど、普通に生活してたら一生お目にかかれないくらいのレア物らしいよ!なんか強い魔物がいたりドラゴンが棲み着いてたりするとかいう物騒な噂もあるらしいけど、ライゴ達がいるから大丈夫だよね!ともかく、その宝石をゲットするのが今回の目的だよ」


「肝心の情報はないのかよ……しかもサラッと魔物の(くだり)を流すな」


 あの「予知」だと、お前とペンギンはそれ(・・)に襲われて死ぬんだぞ。 


「ごめんごめん」


「……ま、要するに遺跡の奥深くにあると思われるその宝石を回収するのが目的なんだな?」


「そうそう。それだから頼むよライゴ!」


「へいへい」


 ……これはまた面倒な事になったな。この後、厄介な事になるのは想像に難くない。

 だが、乗り掛かった船だ。やれるだけの事はやろう。


「ねぇマロン、一つ訊きたいのだけれど、遺跡の中はどんな構造になってるの?」


 馬達を繋ぐ紐を近くの木に括り付ける作業を終えたフィメリアが、こちらに顔を向けて問うてくる。


「構造か〜。ここ二年で十ヶ所以上の遺跡を巡ってきたけど、大抵の遺跡にあるのが侵入者除けの迷路とか進行の妨害のためのトラップ──針の床や落とし穴、回転扉といったものだね。中にはパズルのような物をクリアしないと奥のエリアに移動できない、みたいなものもあったよ」


「その上、魔物もいる訳なんでしょー?面倒臭いわねー」


 白けるテルに対し、マロンは思わず苦笑いをし。


「あはは……。けど、オヤマは魔物の気配を感じ取れるから、魔物との戦いは結構減らせると思うよ?」


「えっ、そのペンギン……そんな事できるのか?」


「できるよ?そうだよね、オヤマ」


 マロンが頭の上に乗っているペンギンに対してそう問うと、ペンギンは肯定するかのように「にゃー」と鳴き声をあげた。


「じゃあ何日か前に言ってた、キラービーの大軍に追っかけられた話とかは一体何なのよ」


「あー、それ全部オヤマがいない時の話だよ?オヤマがいないと毎度毎度魔物に狙われるんだよね。この感知能力にどれだけ助けられた事か……」


「そういやここに到着するまでの道中、魔物に殆ど遭遇しなかったものね。野宿した際も特に何も起こらなかったし」


「だな。ペンギンがついて来てるのはそのためか」


 これはまた優秀なお供だな。

 とはいえ、そんな能力を持つお供を連れていたとしても、強い魔物に襲われたらひとたまりもない。

 油断は禁物だ。


「まぁね。さて、今から探検だ!宝石目指して頑張ろう!」


 声高らかにマロンは叫んだ。




──────────────────




 遺跡内部に足を踏み入れる事、ややあって。

 遺跡探検に慣れているマロンを先頭に、フィメリア、俺、テルの順で薄暗い一本道の通路を進んでいく。

 しかし、階段を降っては通路に出、また階段を降るという、あまりにも単調な行動を繰り返していた。


 その間、皆の靴の音がカツ、カツ、カツ、と響き耳にその音が届くのみで、誰も一向に喋ろうとしないものだから他に音は聞こえてこない。


 そして長めの階段に差し掛かり、あまりにも静かだなと思ったその時、マロンの肩にしがみついていたペンギンが「にゃー」と鳴き声をあげた。



「ん?どうしたのさオヤマ?」


「やなよかんするー」


「「嫌な予感?」」


 誰しもが、ペンギンのその言葉に疑問を覚えた瞬間。

 ズウゥゥンッ!という大きな音が耳に響くと共に、何処からか岩のような巨大な球が物凄い勢いでこちらに転がって来た。


「い、岩っ⁉︎」


「ちょっ、これヤバいわよ⁉︎」


「おいお前ら、とにかく急いで階段を下りろ!」


 俺は最後尾にいたテルを大慌てで担ぎ、前方にいたマロンとフィメリアに指示を出しては、全速力で階段を下っていく。

 しかし、まだ階段の終わりは見えて来ない。


「うわぁぁぁぁーっ!逃げ切れないよー!」


「にゃぁぁぁーー!」


「早々に諦めんなマロン!ここで脚を止めたらあれに潰されて、俺ら全員圧死するぞ⁉︎」


「そっ、それだけは()だーーっ!」


「なら走れぇっ!」


 マロンやペンギンの泣き喚く声と、大球が俺達を追うかのように勢い良く転がってくる音が周囲と俺の耳の奥にまで響き渡る中、俺達はただひたすら、死に物狂いで階段を駆ける。


「ラ、ライゴ、もうちょっとちゃんと担ぎなさいよ!落ちそうで凄く怖いんだけど⁉︎」


 今度は、俺に担がれた状態のテルがそんな事を言い騒ぎ出してきた。


「悪いが、今担ぎ直そうとしたら俺やお前は確実に死ぬぞ!死にたくなければちょっとは我慢しろ!」


「は、走らずに済むなんてズルいよテル!もうボク脚が限界なんだけどーーっ!」


「それを言ったら、まだ着慣れねー服を着ながらテルを担いだ状態で全速力で走ってる、俺の方がずっとか限界に近いんだぞ!」


「ライゴもマロンもテルも、泣き事言っている暇があるなら最善を尽くしてっ!」


「最善を尽くすもどうも、あたしはどうしようもないんだけど⁉︎」


「軽口叩く余裕があるうちは大丈夫そうだな!」


 ああだこうだと叫んでるうちに、階段の終わりと、そこから続く通路がようやく見えてくる。


「……とか言ってる間にあと少しだ!テル、あとちょっと我慢してろっ!」


「わ、分かってるわよ!階段の先の曲がり角を曲がって何とか切り抜けたら、さっさと下ろしなさいよ!」


「おう!分かってる!」


 やがて背後の存在に潰される事なく階段を降り切った俺達は、大慌てで曲がり角へと入る。

 それと同時に俺達を圧死させようと言わんばかりに転がり、かなりの速さで追って来ていた大球は、遺跡の壁に打ち当たってその動きを止めた。


「あ、危なかった〜〜っ………」


「にゃぁ〜〜〜……」


 ひとまず安心したのか、マロンは肩で息をしながらその場にドサッと座り込む。

 ペンギンも力が抜けたのか、弱々しい鳴き声をあげてはへたばった。


「ガキンチョあんた、えげつないレベルで泣き喚いてたわね……。そんな調子でこの先大丈夫ー?」


 俺に降ろされたテルにそんな事を言われ、マロンは座った状態で俯き呟く。


「わ、わかんない……。色んなトラップを見てきたけど、大球が転がって来るのは初めてだよ……ホント怖かった……」


「確かにヤバかったな……お陰で階段は塞がれちまったし」


「ええ。帰る時は別のルートを探さないと……」


 運の悪い事に、通って来た道は大球によってガッツリと塞がれてしまった。誰がどう見ても重いであろう大球を、退かす事など到底できない。

 帰りも面倒になる事を瞬時に悟った俺達は、皆揃ってため息を吐いた。


「……と、ともかく皆無事で良かったよ。多分これからトラップが山のように出てくるから、気をつけてね」


「ああ。お前もな」


 そう返した途端、何処からか物音が微かに聞こえた。


「……近くに何かいる。皆、気をつけて」


 フィメリアは呼吸を整えながら周りを警戒し、何処からか小刀(ナイフ)を取り出して臨戦態勢を取る。

 俺やテルも何かの気配を感じ取った瞬間、近くにあった壁の一部が崩れるような音をあげると共に、粉々に破壊された。


「「⁉︎」」


 予想だにしない出来事に怯んでいると、奥から人型の物体が現れ、やがてこちらに目標を定めてくる。


「ゴ、ゴーレムだっ!どうしようライゴ⁉︎」


「どうしようもこうしようも知るか!お前、これまでこういうの散々見てきただろ⁉︎」


「だ、だって今、ゴーレム退治用の爆弾とかないんだよ⁉︎どうすりゃいいのさ⁉︎」


「だから俺に訊くな!俺こういうの見たの初めてなんだぞ!」


 マロンがゴーレムと呼んだ、人型の大きな物体。

 一目見たところ土で作られていると思われるそれは、動きこそ重々しいものの、何処か力強さを感じられる。

 そんなものがこちらに迫ってくる中、謎の威圧感に俺もマロンも脚がすくんで動けずにいた。


「『アクアストリーク』!」


 フィメリアの力強い声と共に、彼女の右手から水流が光の速さで放たれ、ゴーレムの額に直撃する。


「⁉︎」


 するとゴーレムは動きを止め、瞬時に人の形を崩しては土くれへと変わっていった。

 俺もマロンも突然の出来事に絶句し、何が起きたのかすらまともに理解できずにいると、ゴーレムを倒したフィメリアは何故かこちらを睨んできて。


「ライゴもマロンもボーッとしないで。わたしの反応が少しでも遅かったら危なかったわよ」


と、少しキツめの口調でそう言い放ってきた。


「お、おう……」


「う、うん。わかった……」


 流石に俺もマロンも言い訳できず、彼女の注意の言葉に頷くしかない。


「えーっと……ついさっきの征魔術みたいなのはお前が放った奴か?」


「ええ。先日テルからこのソルディアを貰ったから、昨日貴方が腔綫銃の練習を終えた後、ずーっとぐうたらしている間、征魔術の練習をしてたの」


「で、その練習してたのがついさっきの奴か」


 俺の問いに、フィメリアは真面目な顔をしたまま肯定する。


「そうよ。テル曰く、ゴーレムは水属性の攻撃に弱いらしいから丁度良かったわ」


「ふーん……じゃあ、ああいうの出てきたらお前に任せるか」


 すると、フィメリアは深いため息を吐いた。


「任せるか、って他力本願にも程があるわ。貴方も戦えるんだから、できる限りのことはやって」


「へいへい」


 面倒臭えな、と思いながら適当に返事をする。


「まったく……先が思いや──」


 突如として聞こえてきた、とてつもなく大きな音でフィメリアの声が途中でかき消された。


 音のした方向に振り向くと、ゴーレムがもう一体。

 それも、さっきの奴より一回り大きい。


「……っ!『アクアストリーク』!」


 瞬時に反応したフィメリアは、先程と同様に水流をゴーレムの額に向かって放つ。だが。


「き、効いてないよ⁉︎」


「嘘っ⁉︎」


 先程のように動きを止めるどころか、寧ろ動きを活発化し、重々しくドスンドスンと足音を鳴らしながら、奴は物凄い勢いでこちらへと向かって来る。


「ヤバい──!」


 奴の目線から、フィメリアが標的であることを悟る。

 そして放たれる、重い拳による強烈な一撃。


「──っ!」


 フィメリアは間一髪の所で攻撃を避け、持っていた小刀を投擲して反撃するが、奴は微動だにしない。

 一撃が加えられた遺跡の床には大きなヒビが入り、ほんの僅かの間にヒビは床の端から端まで伝線した。

 そして。



「ギャ、ギャァァァアーーーッ!」


「にゃぁぁぁあーーー!」



 床が崩れ、足場を失う。

 これはマズいと悟ったと同時に、マロンとペンギンの悲痛な叫び声がその場に響き渡った──



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