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因縁のカンフラント 〜鬼天田の異世界戦記〜  作者: 志尚元嗣
第二章 事を為すため歩き候
33/59

Episode 23「掘り出し物の腔綫銃」



「……出立は明朝。冒険の準備はマロンが進めてて、俺やテルの出る幕はなし。かと言って俺達が大慌てでしなければならない事もない。つまり、だ。今日俺は何もしなくていい。ぐうたらしてようが寝てようが、誰にも怒られねぇ」


 宿の庭に一本だけ生えている大きな樫の木の側で、腕を枕に仰向けに寝転び、独り言を長々と呟いては虚ける。


「何かと口出ししてくる爺ちゃんも、時折毒を吐くような事を言ってくる真希(まき)も、更には政親(まさちか)をはじめとする口うるさい譜代衆の連中もいない。今の俺は自由だ」


 いつもなら、このうちの誰か(主に真希)が口うるさく言ってくるものだが、異世界にいる以上はその心配もない。

 だが──


「……あいつら、俺がいなくなって大丈夫かな?」


 不安が頭を()ぎる。

 俺が消息を絶った事で極端に寿命を縮めたり、早まって死んだりしてないだろうか。

 それどころか、御家(おいえ)や領土、そこに住む農民達は大丈夫なんだろうか。敵対勢力の侵攻を受けて酷い事になってはいないだろうか。

 気になってしょうがない。


「ま、あっち側がどうなってるかを知る術はないし、帰るまではどうしようもないんだよな……」


 帰るにしても、何も情報を掴めていない状況下では打てる手は一切ない。

 今はとりあえず身体を休めて、明日に備え──


「ライゴ!」


 目を閉じた瞬間、フィメリアの声が何処かから聞こえてきた。

 程なくして、彼女の足音らしき音が耳に入ってくる。


「……なんだよ」


「なんだよ、って貴方、まだお昼にもなってないのにこんな所で何してるのっ⁉︎」


「見たら分かるだろ」


 くそっ、口うるさいのがあいつら以外にもいたか。

 不覚だった。


「そういう問題じゃないから!こんな時間からぐうたらしないで!ほら、起きて!」


 仰向けになって寝転んでいる俺を無理に起こそうと、フィメリアは腰を下ろしては俺の身体を揺さぶってくるが、俺からしたら鬱陶しいだけだ。

 俺は閉じていた目を開くと共に、ため息を吐き。


「……別に俺の勝手だろうが。こちとら砦に来てからロクに休めてねーんだ。火急の用事がないなら放っといてくれよ」


「昨日は帰って来てすぐに寝て、今日は一番最後にわたしに叩き起こされる形で起きたのに?」


「あぁそうだ。……たかが一晩寝た所で、積もりに積もった疲れが取れる訳がねーだろ」


「だからって、こんな所で寝転ぶ事ないじゃない!」


「確か今、女将さんやマロンが宿中を掃除してるからゆっくりする場所がここしかねーんだよ。幸いにも今日は特にする事ねーし、ゆっくりさせてくれよ」


 正直に言うと、あと三日は身体を休めたいんだがな。


「けど──」


 何の意図があるかは分からないが、意地でも俺を起こそうとするフィメリアの言葉を、俺は呆れながら遮って。


「どういうつもりかは知らねーけど、暫く放っといてくれ。ガミガミと説教してくるのは真希達だけで十分だ」 


 何かと口うるさく説教してくるのは、あいつらだけで結構だ。説教してくる奴がこれ以上増えたら、堪ったものじゃない。


「まったく……」


 一言、そう口にしたフィメリアが呆れたのかすっかり黙り込み、一方の俺も再び目を閉じた、その瞬間。


 何処からか、ドササササッ!と何かが大量に落ちていく音と、マロンや女将さんの驚くような叫び声が聞こえてきた。


「「⁉︎」」


 音のした方向にフィメリアは即座に身体を向け、俺もむくりと身体を起こす。


「何の音⁉︎」


「多分掃除してて荷物でも落ちたんだろ。とはいえ、一応様子を見に行った方が良いな」


 マロンや女将さんに万が一の事があったら、予知どうこうの話じゃなくなっちまう。


「そ、そうね。マロンや女将さんの所に行きましょう!」




───────────────────




「おーいマロン、女将さん、大丈夫かー?」


 掃除中の宿に入り、玄関から何処かにいるであろう二人に呼び掛ける。


「あ、ライゴー!ボクも母ちゃんも大丈夫だけど、落ちてきた荷物の量は多いし重いから助けてー!」


 マロンの救助を求む声が聞こえてくる。その方へと向かい、一つの部屋に足を踏み入れた。


「ここは……倉庫?」


「みたいだな。にしても、凄い量の木箱だな……」


 ふと足下を見ると、倉庫の出入口にまで数え切れない程の量の様々な大きさの木箱や物が散乱していた。

 これでは足の置き場もない。


「おーいマロン、大丈夫かー?」


 木箱の山の奥からマロンがひょこっと顔を出す。その隣には埃まみれになりながら作業をしている女将さんもいた。


「平気平気!あ、フィメリアも来てくれたんだ!」


「ええ、怪我はない?」


「大丈夫大丈夫!ついさっき二階の部屋の掃除が終わったからこの倉庫も掃除してたんだけど、荷物がテキトーに置かれてたからドサーッと崩れちゃってさ。運ぶにしても、箱が重いんだよ!」


「で、俺らに助けてくれと」


「そうそう!助けて二人とも!」


 仕方ない。来た以上は手伝ってやろう。


「……へいへい。こいつらは何処に運ぶんだ?」


「とりあえず倉庫の外に出すからその箱の淵持って!ボクが反対側持つから!」


「了解。……ん?」


 ふと、最奥に置かれている多くの木箱の中にポツリと混じっている、棒状のような物が目に入った。


(何処かで見た事ある奴だな……くそっ、よく見えん)


 ついつい気になり、思わずそれを凝視する。


「どしたのライゴ?何かあった?」


「いや……あれは何だ?」


 俺の目線の先にあるそれの方にマロンは移動し、棒状のそれを手に取って。


「これ?母ちゃん、これ何?」


 俺達が喋っていた間もテキパキと掃除をしていた女将さんは、マロンが手に取ったそれを見て、少し驚く様子を見せる。


「あらら、こりゃあ懐かしい物だねぇ!それは十年程前だったかね、ライゴの坊やみたいな格好をしてた異国の男の人から宿代の代わりとして貰った物さ。見た事がない物だったし、私には使い方も分かんないから適当に倉庫にしまってたんだけどね」


「へぇ〜〜。ライゴ、これの事知ってる?」


「……っ!」


 マロンに「それ」を見せつけられた俺は、棒状のそれが一体何であるかを瞬時に理解した。

 それと共に、驚きを隠せなくなる。



腔綫銃(ライフル)──!」



 十年程前に南蛮(なんばん)から葦原(あしはら)へと伝来した最新兵器・腔綫銃(ライフル)だ。

 南蛮人が葦原に初来航した四、五十年前に伝来した、鉄砲(てっぽう)という兵器の上位互換と言えるもので、かつては天田家(ウチ)も一丁だけだがこれを保有していた。

 因みに、俺の持っている拳銃(ピストル)はこの腔綫銃の一種である。



「えっ、ライゴ、貴方これが何か分かるの?」


 フィメリアに問われた俺は軽く頷き。


「ああ。こいつは南蛮発祥の最新兵器だ」


「「へっ、兵器っ⁉︎」」


 たった一言を口にしただけで、その場にいる俺以外の三人が驚きと焦りの感情の混じった声を上げた。

 彼らはこれを何だと思っていたのだろうか。


「そうだ。十年程前、葦原に貿易しに来た南蛮商人が鉄砲という兵器の代わりに持ち込んできた強力な兵器だ。国産化が徐々に進んでるとはいえ、一丁あたり少なくとも四百円はする高価な品だから、あまり普及はしてないがな」


 十年程前という女将さんの発言からすれば、今彼女の持っている腔綫銃は、葦原に伝来して間もない頃に作られた物だろう。

 そんな物を、かつてこの宿を利用した葦原人(あしはらじん)が宿代代わりに置いていった訳だから、その人物は俺同様、それなりの立場の人間なのだろう。

 何故、貴重な腔綫銃を宿代の代わりに置いていったかは、俺が知る由もないが。


「へ、へぇー……。つまりこれってさ、ライゴのいた国でもレアな武器?」


「ま、そんなとこだな。女将さん、こいつを後で借りて良いか?」


「へ?別に構わないけど、坊やは使えるのかい?」


「嗜み程度にはな。あ、腔綫銃(こいつ)以外にその人から貰った物とかはあるか?」


 腔綫銃があるのならば、銃弾や銃弾を入れる箱もあっていい筈だ。


「あー……確か一緒に何か小さな箱を渡されたねぇ。ちょっくらそれを探すからその間、坊やとフィメリアちゃんはマロンとその辺りの荷物を全部外に出しておいてくれないかい?」


「分かった、任せてくれ」



 やがて女将さんが数多の銃弾の入った箱を見つけたのは、荷物の運搬作業を何度も何度も繰り返した後だった。




──────────────────




 作業を終えた後。

 準備を整えた俺は、「掘り出し物」の腔綫銃を携えた上でフィメリア達と共に街から離れ、魔物の生息する森を訪れていた。

 危険極まりない行動だが、これには当然理由がある。

 この腔綫銃は果たして使えるのか。それを確かめるためだ。



「ねぇライゴ、大丈夫だよね……?ここ、(ウルフ)やキラービーが大量に現れる場所だよ?」


「なに、大丈夫だろ。有事のためにフィメリアやテルにもついて来て貰ったしな。……とりあえず、練習がてらやるか」


 護衛役として待機しているフィメリアやテルが、物珍しそうな顔でこちらを見る中。

 俺は腔綫銃をしっかりと構え、目を細めては遥か遠くにいる狼の群れを見つける。


 五、六匹いる中の一匹の頭部らしきものを睨みつけ、そこからは無心になって引金に人差し指を引っ掛ける。


 そして力強く引金を引き。

 銃声がバァァァァァンッ!と周囲へ鳴り響くと同時に狼の頭部から血飛沫が飛び出、狼を一瞬で亡きものとした。


 事に気づいた仲間の狼が一斉に、それもかなりの勢いでこちらに向かって来たが、それらも同様の方法で次々と息吐く間もなく、急所を撃っていく。


 一息吐いた時には、狼どもは皆、物言わぬ屍となっていた。


「……大体、こんなもんか」


 小さく呟き、腔綫銃の構えを解く。


「どうだお前ら……って、そんなに怖かったのか?」


 俺のすぐ側で見ていたマロン達の方に顔を向けると、マロンや彼の背中に乗っていたペンギンは恐怖で身体を震わせながら目に涙を浮かべ、フィメリアとテルも少し青ざめた顔でこちらを見ていた。


 マロンは「だ、だって……」と言葉を切り出して。


「いきなりドカーンってデッカい音が鳴ったんだよ⁉︎そ、そしたら一瞬で狼が倒れた!あっ、あまりにも怖すぎて……トイレ行ってくるーっ!」


 恐怖で漏らしそうになった……か。

 ……そこまでなのか。そこまでなのかよ。


「フィメリア、テル。お前らも青ざめてないで何か言えよ」


「い、言える訳ないじゃない……。あ、あれでいきなり殺されるなんて考えたら鳥肌が……そうでしょテル?」


「そ、そうね……流石のあたしでも寒気がしたわ……」


「テルまでそう思ったのか。俺からしたら征魔術(せいまじゅつ)の方が……って、いつの間にお前ら仲良くなってたのか」


 確か、昨日までは立場もあって余所余所しい態度を取っていた筈なんだが。


「昨夜言われたのよ。ブランチディカ術士呼びをやめなさい、敬語はやめなさい、って」


 フィメリアの言葉に、テルは普段の気怠げな表情に戻って頷き答える。


「大して年も変わんないし、帝国軍の征魔術士と騎士団所属の人間という間柄ではあるけど、今のあたしは軍役を終えたただの一般人だからねー。こんな場所でわざわざブランチディカ術士って呼ばれる(いわ)れはないわー」


「なるほどな」


「そういう事。……で、その恐ろしい武器はどうすんのよ?」


 少しの間、頭の中で腔綫銃(これ)を如何するかと思案し、答えを出す。


「使えるみたいだし遠慮なく使わせて貰う。銃弾もかなりの数があるしな。ま、基本的に使うのは俺じゃなくてマロンだが」


「「えっ」」


「戻ったよー……って、えぇーっ⁉︎ちょ、ちょっと待ってよライゴ!なんでそうなるのさ⁉︎」


 俺の発言とほぼ同じ頃に用を足し終わり戻ってきたマロンは言うまでもなく、あとの二人も意表を突かれたような顔を見せた。


「なんでって……強いて言うならお前の自衛のためだな」


「じ、自衛?まさかボクも戦うの⁉︎」


「ああ。明日からの冒険で何があるか分からんだろ?俺達も最善は尽くすが、(はぐ)れた時に魔物に襲われる可能性は十分にある。そうなると武器のないお前は無事じゃ済まない。お前としてもそれは嫌だろ?」


「そ、そうだけどさ……」


 煮え切らない態度を取るマロン。自分が戦うとは考えてもいなかったのだろう。また、武器を持ちたがっていないようにも見える。

 だが、こちらとしては自衛して貰わねば困るのだ。あの「予知」を覆すためにも。


「ま、ない事を願うが万が一そうなった時は自分の身を自分で守るために腔綫銃(こいつ)を使え、ってこった。使い方は今から教えてやる」


「つかガキンチョ、あんた今までどうやってそのペンギンと遺跡巡りとかしてたのよ?移動途中は言うまでもなく、遺跡の中も魔物は出てくるでしょ?」


 傍観していたテルが問う。


「えっと……ただただ逃げてたよ。武器は値段が高くて中々手が出ないし、そもそも剣とか持ってても逃げるのが精一杯なんだって」


 ……なるほど。

 立場上ガキの頃から武器の扱い方を教えられた俺とは違い、マロンは戦闘訓練を受けた事も、武器の扱い方も教わる必要もないような、本当にただの一般人だ。

 そんな奴が幾ら強い武器を持っていた所で、たかが知れている。武器を持ちたがらないように見えるのも納得だ。

 しかし、それに固執して死んでは大きな夢も水の泡だ。


「ま、そんな事言わずにとりあえずやってみろ。案外サマになるかもしれねーぞ?」


「うーん……わかったよ。ちょっとだけやってみる。フィメリア、オヤマの事頼んでいい?」


「ええ。こっちにおいで、オヤマ」


「にゃみっ」


 フィメリアにペンギンを手渡したマロンは、渋々俺から腔綫銃を受け取る。

 緊張のためか、それとも不安のためか。その手はぷるぷると震えていた。



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