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因縁のカンフラント 〜鬼天田の異世界戦記〜  作者: 志尚元嗣
第二章 事を為すため歩き候
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Episode 21「奇遇なのか必然なのか」



 大衆浴場から宿に戻った後の事である。


 テルとマロンの用事のため、俺達はこの街の貴族の屋敷へと向かう事になった……のだが。


「申し訳ありませんが、ブランチディカ術士以外のあとの二人はここから先へお通しする事はできません。『運搬の鍵(キャリアーキー)』からの荷物は確かに受け取りましたので、お引き取りを」


 当然としか言いようがないが、部外者である俺とマロンは、屋敷前で待たされる羽目になってしまった。




 そのためテルと一旦別れた俺とマロンは、屋敷の近くの噴水広場に向かい、噴水の側で腰を下ろす。


「「はぁ〜〜〜っ………」」


 そして二人揃ってため息。


「テルが戻ってくるまで暇だよライゴー」


「仕方ないだろ。あくまでも俺らは部外者だしな」


 俺は言うまでもなく、マロンも小包を渡してギルドの依頼を終えてしまえばただの一般人、屋敷に入る権限のない部外者だ。門前払いされて当然である。


「確かにそうなんだけどさ〜……用事終わったからどうしよう。面白い話とかないの?」


「またそれか。……全く浮かんで来ねーわ」


「えーっ……じゃあライゴの昔の話とかは?ライゴって一体何者なのさ?」


 一番聞かれたくない話を振られた。つい、目を逸らしてしまう。


「昔の話か……何にも面白くねーし、人が死んでく話ばっかになるが、それでも聞きたいか?おまけに長いぞ」


 俺の昔の話。

 他の奴よりかは幾分か内容が濃い以上、話のネタにはなるんだろうが、話の内容の多くが人が死ぬ話になるので、聞いていて面白くはないだろう。

 それどころか、聞かなければよかった、と後悔するに違いない。


「えぇ……い、いいよ別に。なんか長くなり過ぎて暇潰しどころじゃなくなりそうだし。楽しい事とかなかったの?」


「んー……そういう類の話はなかった訳じゃないが、その数も限られるし、聞いていて大して面白い話じゃねーからな」


「ついさっき家に帰る時に言ってた幼馴染の話も?」


「……まぁそうだな。そもそも、話す中で面倒な説明をしなきゃ分かんない話ばっかだぞ?」


 話を理解してもらうための補足説明だけで暇潰すどころか、日が暮れちまうわ。


「え〜〜……。ねぇライゴ、人が死ぬ話ばかり、って言ってたけど、ライゴの家族も?」


「まぁそうだな。中にはえげつない死に方をした人もいる。下手な怪談話より怖いと思うぞ?」


「そ、そうなんだ。そこから先は聞かないでおくよ……。ちょっと寒気がしたし。あと一個訊いておきたいんだけど、周りの人──家族とかが死んじゃった時の感情ってどんな感じなのさ?」


 真剣な表情で、マロンはそんな事を問うてくる。


「どんな感じって……言葉では表しきれんな。家族と言っても接点が少な過ぎて付き合いの短い奴も中にはいるし。まぁ人によって差はあるが、色んな感情が渦巻くよ。尤も、俺のいた国はいつ何処で誰が死ぬか分からんような世相だ。一人死ぬ度に悲観している時間もない事だってある」


「いつ何処で誰が死ぬか分かんないって……ライゴの国ってカオスなの?」


 カオス──南蛮語で「混沌」という意味だったか。


「……さぁな。あの状況が本当に酷いかどうかは俺には分かんねーよ。百年近く前、俺の曾々(ひいひい)祖父(じい)さんが生きてた頃からそんなもんだし。というか、マロンの方こそ何か話せるネタはないのか?先刻、冒険だのどうだのと女将さんが言ってたんだが、何でお前はそんなに冒険に拘るんだ?」


 どうも暗い話が続くので、ここで話題を切り替える。


「こだわる理由か〜……うーん……パッと答えが出てこないなぁ……。けど、色んな所を冒険して世界の色んなものを見て、色んな事を知りたいんだよね。まぁ色んな所から持ち帰ってきた珍しい物を誰かに自慢したいとか、そういう気持ちもあるんだけどさ!」


 ……なるほど。動機としては十分立派なもんだ。

 自らの見識を広めるため、知的探究心を満たすため。

 そのために努力し行動できる事が、ある意味羨ましく思う。


「なるほどな、良いんじゃねーの?」


「えっ、ホント⁉︎ホントに言ってんの⁉︎」


 「冒険家は時代遅れ」と言われているからか、これまで他人にこのような話をロクに聞いて貰えなかったのだろう、マロンが驚きながら問うてくる。


 ……さて、ここから遺跡探検の(くだり)に持っていくとしようか。


「ああ。そういや女将さんからチラッと聞いたんだが、お前近々冒険に行くんだよな?」


「そ、そうだけど、いきなりどうしたのさ」


「いやー、どんなものかとちょっと興味が湧いてな。その冒険について行っていいか?」


 単刀直入に頼む。


「えっ、い、いいよ⁉︎」


 予想もしていなかったのか、マロンは動揺しながらも俺の頼みを二つ返事で聞き入れてくれた。


 ……よし。これで俺やテルがマロンについて行く、『大義名分』ができた。


 あとはしっかりと準備を整え、マロンとペンギンがドラゴンに喰われる「予知」を覆すのみ。


「けど、テルにはどう言うのさ?ダメとか言われない?」


「問題ないだろ。二つ返事で許可を出すどころか、冒険について来るだろうな」


「ホントに?」


「ああ。あいつが用事終わって戻って来たら訊いてみな。……ん?」


 ふと屋敷の方を見ると、その方向から屋敷の者であろう老執事がこちらに向かって来ていた。


「突然失礼します。アマダライゴ殿でございますか」


「はぁ、そうだけど。もしかしなくても爺さんはそこの屋敷の者か?」


 老執事に尋ねられ、即座に返事する。


「はい。我が主、及び帝国軍のブランチディカ術士から貴殿に屋敷へ来るように、との伝言を承りました」


「……へ?マジで言ってんの?」


「ええ。そちらの少年も共に屋敷に来るように、との事です」


「え、ボクも⁉︎」


「はい。とはいえ、我が主とアマダライゴ殿の会談が終わるまでは別室で待機して頂きますが」


 老執事の答えに、俺もマロンも思わず口をポカンと開けた。




──────────────────




「失礼致す」


 案内してくれた屋敷の使用人によってテルのいる部屋の扉が開けられ、俺は軽く一礼してから部屋に入る。


「……貴様が例のアマダライゴとやらか」


 何処か緊迫した状況下で、三十路そこらの高価な宮廷服を纏った美男が、俺を値踏みするかの如く眺め回しては口にする。

 雰囲気から察するに、恐らくこの男がこの街を治める貴族だろう。

 下手に怒らせても面倒だ。下から出て対応しよう。


「はっ、以後お見知り置きを」


「……ブランチディカの隣の席に座れ」


「はい」


 男に促されるがまま、俺はテルの隣の椅子に腰を掛ける。


「……ウォラスティアホンド帝国公爵・ヴァレン=アーク=マゼヴァルラント。……私の名だ、よく覚えておけ」


「はぁ……心得た」


 高圧的な態度を取ってくる公爵の言葉に、俺は軽く相槌を打つしかなくなる。凄い威圧感だ。


「……してアマダライゴ、ブランチディカの報告によると貴様はかの戦乙女(ヴァリキュリー)を打ち破り、キャルム方面の戦線維持に貢献したと聞く。……それは(まこと)か?」


「ええ。戦闘後、戦乙女が放って行った二本の剣も、抜かりなく回収致した」


「……その二本の剣はどうした?」


「戦利品として持ち帰り、今は宿の部屋に安置してあります。尤も、二本のうち一本は戦で刀身が半分以上燃えて使い物にならなくなりましたが」


「……ほう、そこまでの攻防だったか。……一つ訊くが、貴様は我が帝国軍に入る気はあるか?」


 突如、そんな事を問うてくる公爵。

 言わずもがな、戦乙女さんを単騎で撃破した俺の実力を買っているのだろう。


 だが、俺は元々そんなつもりはない。

 この異世界(カンフラント)でも戦場に身を置かなければならないとなると面倒臭いし、何よりも、俺は葦原(あしはら)に帰らなければならないからだ。


「いや、折角の所申し訳ありませぬが、俺は帝国軍に入る意思はありません。この後、色々とせねばならぬ事があります故」


 一切悩む事なく、即座に答えを返す。

 すると公爵は一瞬だけだが、ひとつも動かさなかった眉を潜めた。


「……そうか。……貴様のような才のある者が我が軍に入れば面白いと思ったがな、仕方あるまい」


「それはどうも。お気持ちだけ有難く受け取っておきます」


「……そうか。……ブランチディカも暫く休職するとなると、父はさぞ落ち込むだろうな」


「休職……ってテルお前、帝国軍の将校としての仕事を休むのか?」


「そうよー。ソルディア研究のための資金は頂いたし、軍の将校として一ヶ月そこらの間、最前線のキャルム砦に駐屯して戦線を維持するというキツい任務をやり切ったからねー。研究者として貢献する代わりに、予備役という形で休みを貰う事にしたのよ」


「予備役……大変だなお前も」


「ま、そんなもんでしょ。殿下、ライゴへの話はそれだけですかー?」


「……ああ。……アマダライゴよ、この度は異国人ながら我が軍に協力してくれた事に感謝する。……元帥である父に代わり感謝の意を述べると共に、後で多少だが報酬を送ってやろう」


 公爵は、軽く頭を下げてはそう述べた。

 俺も公爵に一礼し。


「本当にかたじけない。……そういや元帥とか仰られたが、その元帥殿は如何(いかが)された?」


「……誠に恥ずかしい話だが、父ならこれより少し前にいきなり腰を痛めて横になっている所だ。……あくまでも貴族である私が、お前やブランチディカに応対しているのもそれが故だ」


 ……ギックリ腰って奴ですか。

 そりゃ俺達の前に色んな意味で出て来られないわ。


「それはまたお気の毒に……。お大事にとお伝え下さい」


「……すまんな。……下がって良いぞ」


「はっ。……あ、そういやテル、例の件は上手くいったぞ。後はしっかり準備してマロンの遺跡探検について行くだけだ」


 そういえばと思い、立ち上がる前にテルに伝えておく。


「あっ、そう?なら、あたしも準備しておくわ」


「……何の話だ?」


「殿下には関係のない、プライベートなしょーもない話ですよー。お気になさらずー」


 事情を知る由のない公爵が疑念を抱いたのか、そんな事を問うてくるが、テルはサラッと答えを誤魔化した。


「それでは俺は失礼。御免」


 俺は席を立ち、要所要所で礼をしては部屋を出た。




──────────────────




 屋敷の客間でマロンと共にテルを待つ事、暫く。


 屋敷の人が親切な事に用意してくれた茶菓子を平げ、二人揃って暇を持て余した頃、ようやくテルは部屋へと現れた。


「二人ともお疲れー。宿に帰るわよー」


 そう口にした彼女は、右腕で二つのソルディアらしき物を抱えていた。

 一つは、水色を基調とした、かなり小型のもの。

 もう一つは、橙色で細長い帯の形状のものだ。


「やっとだ〜〜。長かったよー……」


「だな。……テル、お前の持ってるそれはソルディアか?」


 それらに目をつけ、指摘する。

 彼女は眠そうで気怠げな表情を変える事なく、答えを返してきた。


「そうよー。今回の報酬として貰ってきたわ。一つはアンクレット型、もう一つはベルト型。ベルト型の奴ならガキンチョでも合うんじゃないかなー、って思って持ってきたわー」


「えっ、どゆこと⁉︎というか何それ⁉︎」


 自分の身にやがて危険が迫る事を知る筈もないマロンは、訳が分からないのかあたふたしている。


「これらはソルディアって言って、使用者に様々なメリットを与える特殊兵器よー。ガキンチョあんた、遺跡探索行くんでしょ?」


「なんで知ってんの⁉︎」


「ライゴから聞いたからよー。ライゴだけじゃなくてあたしもあんたの遺跡探検について行くつもりだけど、念のため装備しておきなさい。使い方はそのうち説明するから」


「えっ。じゃ、じゃあそうするよ」


 テルに半ば押しつけられる形で、マロンは帯型のソルディアを受け取った。


「えっと……これどう着けるの?」


「まずは横のカバーを外してからベルトを巻きつけて、長さを調整してからもう一回カバーを装着。その後、ソルディアの核でもあるバックル部分を前に移動させて終わり」


「横のカバーを外してベルトを巻きつけ……」


 そしてぎこちない感じではあるも、彼女の指示を受けながらそれを腰に装着していく。


「……こ、こんな感じ?」


「そうそう、似合ってるわよー」


 ……凄え棒読みだな。感情がまるで籠もってない。


「ホントにそう思ってる……?」


「大丈夫よ、似合ってる似合ってる。……さてと、これ以上お屋敷にいるのは良くないしそろそろ出るわよー」


 マロンが訝しげな顔をしたのに対し、テルは何処か嬉しそうに口角を上げていた。




──────────────────




 帰路の途上。

 深い、深いため息を吐いては項垂れる。


「嘘だろ……聖都に戻るまで暫くは会わねーと思ってたのに、なんでこうも短期間で再会するんだよ……」


 驚き、呆れ、憂鬱といった様々な感情が、ほんの僅かな間に渦巻いてくる。


「確かに、たった二、三日しか経ってないもんねー。全然予想もしてなかったわ……」


 それはテルもこのように言葉にする程だ。すると。


「会って早々、二人揃って露骨なまでに嫌な顔をしてほしくないのだけれど」


 女は凛とした態度を崩してはないものの、眉を潜めて言い返してきた。


「んな事言われても……こちとらお前らの監視から逃れられて清々してたとこなんだぞ」


 そして、俺は顔を上げて彼女を見つめ。


「……なんでここにいるんだよ、フィメリア」



 再会したのは奇遇なのか。それとも必然なのか。

 フィメリアがそこにいた。


 彼女は戦場で着ていた鎧でも、騎士団指定の灰色基調の軍服でもなく、かつて俺と共に聖都を散策した際に着ていた、水色と青基調の軍服を身に纏っていた。



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