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因縁のカンフラント 〜鬼天田の異世界戦記〜  作者: 志尚元嗣
第一章 異界に飛ばされ候
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Episode 14「出撃」



 敵軍襲来。敵軍襲来。


 その報は、陽が落ちた頃に届けられた。


 聞けば、「戦乙女(ヴァリキュリー)」と呼ばれる者が率いるガルザンディラス軍が、歩兵・騎兵・弓兵からなる三千の将兵と、数台の攻城車を率いてこの砦に向かって来ているという。

 それに対する帝国軍・サメリア騎士団の部隊は併せて千人弱。しかも食糧不足・戦力不足・砦の防御力不足という、普通に戦えば負けどころか、全滅確定の極限状況にある。


 そんなどうしようもない状況の中、更に面倒事が舞い込んできた。(ウルフ)の大群の襲来である。


 これまでに二度、ガルザンディラス軍による砦への襲撃で砦の者が皆死ぬという「幻覚」を見てきたが故、ガルザンディラス軍の襲撃は予想できていたものの、魔物──それも狼が来るとは思ってすらいなかった。


 さて、どうしたものか。


「狼の大群が来るとは想定外ねー……」


 珍しく動揺しているテルは、考える仕草を見せながら呟く。

 彼女は周囲が慌ただしくなる状況の中、目を閉じて沈黙し。


「ま、たった二百匹くらいならブラストロードで一発だわ」


 余裕と言わんばかりに断言した。流石とでも言うべきか。


「とにかく、北からこっちにガルザンディラス軍が来ているってんなら、迎撃するしかないわね。ヴォルド軍曹と騎士団の連中に『ガルザンディラス軍への迎撃体制を整えろ』って伝えといて。あたしは狼の大群を一掃してから合流するから」


「はい!承知しました」


 兵士は返事をしてすぐ、この場からいなくなる。

 それを見届けたテルは俺の方を一瞥して。


「てな訳であたしは狼の大群を一掃するわ。その間にあんたはそこら辺から武器取ってきて、戦うための準備をしなさい」


「え、俺も?」


「そうよ。あんた、一昨日の夜会った際に戦闘経験ある、って言ってたでしょ?忘れたとは言わせないわよー」


 そういえばそうだった。

 あの直後に頭痛が来たせいですっかり忘れてたよ、クソッ。


「あ、ああ。武器取ってきたらどうすんだ?」


「武器取ってきたら早めにあたしと合流。あんたにはあたしの指揮下で動いて貰うわよ」


「……この事、騎士団には言わなくて良いのか?」


「緊急事態だから仕方ないわー。それに、騎士団は立場上帝国軍に逆らえないから、騎士団の管轄下にあるあんたを勝手にあたしの指揮下においても別になーんの問題にならないわよ」


 ……それで良いのかよ。

 誰がどう考えても後々問題になるだろうに。


「ま、そういう訳であんたはさっさと武器を取って来なさい。時間はもうないわ」


「へいへい。それじゃあ頼むぞ」




──────────────────




 テルと一度別れた俺は、砦内の騎士団の本営へと向かった。

 城壁の修復作業の前に騎士団に没収されていた、俺の武器を皆回収するためである。

 出陣の準備のためか本営付近は慌ただしく、兵士達は誰一人俺に気づく様子もなかった。

 そして難なく本営に入ったものの、そこで運の悪い事にフィメリアと出会してしまう。


「げっ」


「……ライゴ貴方、何の許可もなく騎士団の本営に入り込むなんて一体何のつもり?」


 当然としか言いようのない問い。

 何とかして弁明したい所だが、今は時間が惜しい。テルにもさっさと武器を取って来るように言われているし。


「えーっとだな……」


 駄目だ。言い訳の一つも浮かんで来ない。

 クソ真面目に理由を言った所でこの女が聞き入れるかどうかも怪しいし。

 ……クソッ、使い慣れている自分の武器を取りに行こうと考えた俺が馬鹿だったか。


「目を泳がせないで。疚しい事がなければさっさと言える筈よ。聞けば、ここ数日コソコソと動いているとかどうとか。流石に見過ごしてはおけないわ」


 やってんな俺。諸々の違反行為が足についてしまってたか。

 かと言って、言い訳も浮かんで来ない。ここは信じて貰えないのを承知の上で正直に言うしかないか。


「だろうな、だがこれには理由が──」


 その時、別行動しているテルが火属性上級征魔術(ブラストロード)を放ったのかして、建物内まで轟音と振動が響いてきた。


「っ!もしや敵襲⁉︎」


 フィメリアや、近くにいた騎士団の兵士達が轟音と振動に動揺している隙を突き、俺は本営の一角に置かれていた武器の数々を大慌てで回収する。

 そして数日ぶりにそれらを手早く身につけて。


「悪いな、今は時間が惜しい!言い訳は後でする!」


「ちょっ……!待ちなさいライゴ!」


 フィメリアの静止の言葉に耳を傾ける事なく、俺は本営から飛び出して、来た道を戻っていく。


「とりあえずテルと合流しねーとな。とはいえあいつは何処に行ったんだ……って、ん?なんで紅蓮(ぐれん)がここにいるんだよ?」


 思わず、足を止める。

 足を止めた先には厩舎があり、カンフラントに飛ばされたあの日以来見ていなかった愛馬・紅蓮が、騎士団の兵士をぶっ飛ばしている光景が映っていた。


 慣れない環境に混乱していたのか、溜まるに溜まっていた鬱憤を晴らしていたのか、それとも両方なのかは分からないが、紅蓮も俺同様にこの砦に連れて来られていたようだ。

 連れて来られた理由は知った事じゃないが。


「まさかお前までここにいたとはな……まぁいい。騎士団の連中には悪いが、今は緊急事態だ。ウチの紅蓮を返して貰うぞ」


 指を咥え、指笛を吹く。

 すると紅蓮は、暴れるのを止めようとする騎士団の兵士達を振り切って、こちらにかなりの速度で向かって来た。


「お、行く気満々だな紅蓮。フィメリアの奴も追ってきてるだろうし、ここはテルに合流するがてら逃げるか」


 鞍に跨り、あの日以来久々に馬上の人となる。

 そして紅蓮を駆けさせ、俺を追って来ていたフィメリアら騎士団の連中の追跡を振り切った。


 それから間もなくして、当初の予定通りテルと合流する。


「あ、来た来た」


 五人そこらの騎兵を引き連れていたテルは、気怠げな表情のまま、俺が近づいて来ている事に気づく。

 俺は紅蓮をテルの乗る馬の近くまで向かわせて。


「おう、武器と馬は取ってきた。因みにこの馬は、俺と一緒に来ちまった俺の愛馬・紅蓮だ」


「ふーん……これまた真っ赤でデカい馬ね。強そうじゃない」


「それはどうも。だが運の悪い事に騎士団に見つかっちまってな、後で一緒に怒られてくれ」


 テルは呆れた顔で深いため息を吐き。


「はいはい。あんたをこき使ってスパイ紛いの行動までさせたからには、その責任は取るわ。……さて、狼どもを壊滅させて後方の心配は消えたからさっさと前線に行くわよー。準備はできてる?」


「……ああ」


 小さく呟き、鞭を打つ。

 そして、勢い良く戦地へと駆け出した──!



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