いちゃもんじゃないもの
私は陸上部に所属している。我が多々良田高校はスポーツに力を入れており、とりわけ陸上部は名門と呼ばれている。中学でこの才能を見出された私はその才能に絡まれながら、この道を走ってきた。でも最近は……。
「高峰!」
先輩の一言にハッとする。
「す、すいません!」
「練習後のミーティングするから集まれ!」
「はい!」
こんな風に部活中にボーっとしてしまい注意される。特に誰かに迷惑かけているわけではないが良く思わない人はいるだろう。だから気を引き締めないと。と、毎回思っている。
ミーティングは室内で行われる。私は最後のようだった。
「なぁ」
室内に入ろうとした時声をかけられた。
「お前、今の練習マジでやってたのか?」
「はい?」
見慣れない制服で、すらっとしており実際の身長より高く見えるであろう短髪の男子がよくわからない質問をしてきた。
思わず聞き返した。
ただ、聞き返したのはそれだけの理由ではなく、今一番聞かれたくない質問でもあったからだ。
「今の練習はマジでやっていたのか?」
ご丁寧に再度聞き返してくれた。
「だ、だったら何?」
急に知らない男子に声をかけられたもんだからちょっとした恐怖となんでそんなことを聞かれるのかといういら立ちで返事がどもってしまった。
「だったら捨てちまえ」
「は?」
「だったら捨てちまえよそんな才能!」
「な、なんなの?」
「キラキラしてんだよ!才能に溢れてるやつって!」
「は?」
キラキラって、ほんとに訳が分からない。が、何か言おうとしていることはわかる気がした。
「そんな才能が溢れてるのに何を迷ってる!」
「……」
「迷うことないだろ!その才能を裏切るなよ!」
「……」
何も言えなかった。彼の気迫と熱量に。その言葉に胸がきゅっと締め付けられた。
「しょうもないものに囚われてるならその才能俺にくれよ!何も見えないんなら……辞めちまえ」
顔は見れなかったが、彼の声は震えていた。
「おーい、とわー。いくぞー」
遠くで大人の男の声が聞こえた気がした。顔を上げると彼は振り返り声のした方向へと歩き出していた。呼ばれたのは彼だったようだ。父親?
彼は男と合流し何かを話した後、彼は私を一瞥し、男は会釈をしてまた歩き出した。
その間私は何も言葉を発することができず、離れる彼の背中をただただ見つめていた。
たぶん、私を見透かした彼の言葉が体中に刺さって貫いて地面に貼り付けにしたんだ。