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一人反省会からの傾向と対策です。

 




「私って、もしかして馬鹿なのかしら」

 一人、部屋でため息を吐いた。





 図書館イベントからの、まさかのローランド様との下校デート(ただ迎えに来てくれていたセバスの元まで送って頂いただけだけど)を終えて、現在私は自室のベッドの上で放心していた。


 今日の事は……うん、反省点しかないわね。

 まず何よりもローランド様の前で犯した失態の数々……泣きたくなるから一旦置いておきましょうか。


 肝心の図書館イベントについて。

 ええ、今回は記憶にある図書館イベントと全然違う流れになってしまった訳ですが。

 違いすぎてむしろあれって図書館イベントだったのかな?みたいな気持ちになってきている。

 おかしいな、これが平凡フィルターかな。

 スチルにあった様な物理的な意味で急接近しながらもお互いにお勉強を教えあう、的な事も無かったし。

 それに精神的にも急接近……多分出来てないよね?

 まず二人きりでもなかった時点で負けだったわ。


 会話の内容としては、色々と酷かったけれども、まぁ悪くは無いんじゃないかしら。

 ローランド様も褒めて下さったし。

 辛うじてユリオット様の中の友人枠位には滑り込みセーフしたかもしれない。

 ただ乙女ゲームの好感度的には……ちょっと微妙じゃない?

 不覚にも私、熱血系みたいな感じを醸し出してしまったし。

 収穫と言ったら説教して帰ってきただけよ?

 何それ、口煩い親戚のおばさんか。

 本当にドキドキのときめきキュン的なもの一切無かったもの。

 私は一人でローランド様にキュンキュンしっぱなしだったけどね。

 ユリオット様が私にどう言う印象を抱いたのか全く読めなくて怖い。

 あー、何で好感度パラメータが無いんだこの世界!

 現実だからか、馬鹿野郎!


「とにかく次は失敗しないように気をつけなくちゃね」


 終わってしまった事はくよくよしてても仕方がないわ。

 反省点を生かして次は頑張りましょう。


「次々っと……誰だっけ?」


 うーん、時期的にはイリア様とフィリクス様辺りな筈。

 ただ、どちらが先になるのか……今となっては余り自信が持てないわ。

 今回のイベントで全てが全てゲーム通りに進む訳じゃないってわかった事だし。

 まずヒロインの代わりをモブが担おうとしている時点で察しなさいよって?

 仰る通りです、反省。

 一応私の憶測ではイリア様なのだけど。


 イリア様。

 彼は最初子爵家の遠縁のご子息として学院に入学してくる。

 教室内では大人しく、口数も少ない彼は若干浮いている……と言うかむしろ底の方まで沈んでいる様な存在なのよね。

 見た目も、身長はスラッと高くてスタイルが良いのだけれど、その頂点にあるお顔は前髪が長く目元がまるで見えないから余計に人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していて。

 正直中々近づけない存在、一見さん御断りって感じ。


 でも、本当の彼の正体は子爵家の遠縁なんかじゃなくて、王族直轄として暗躍している隠密機動隊一族の族長の息子。

 代々族長は一子相伝である様々な知識を持っていて、基本的には後継ぎとなる長子がそれを継承する事になっている。

 まぁ、下の子が余程優秀だった場合その子が後継ぎとして引き継ぐ事もなくは無いみたいだけど、滅多に無い事らしい。


 けれども、今代の族長の家に生まれたのは双子の子供だった。

 当然一族内ではどちらの子が族長の後継ぎになるか激しい議論が巻き起こった。

 イリア様を推す派閥と妹を推す派閥で割れる程に。

 でも、一族の中では圧倒的に妹派の方が優勢だった。

 何故なら彼女は優秀だったから。

 一方イリア様は落ちこぼれとまではいかないけど、妹に比べるとパッとしない。

 だから大凡の人はきっと族長は妹の方を後継ぎに指名するだろうと思い始めていた、当のイリア様と妹ですら。


 でも蓋を開けて見たら後継ぎに指名されたのはイリア様の方。

 何故なら族長は気がついていたのだ、本人も気がついて無いイリア様の潜在能力に。

 けれど、それを上手く発揮出来ていなかったのは単にイリア様の優しい性格が原因。


 草花や動物を慈しみ、競争が苦手で人を蹴落とす事なんて考えない、自分を主張する事が苦手、引っ込み思案。

 皮肉にもそんな彼が陰の世界で暗躍する、時には人を傷つけ、殺める事もある隠密稼業の才能を誰よりも持っていた、なんて。


 自分が次期族長に指名された事で思い悩んでいるイリア様に王立学院へ通う事を進めたのは父である族長で、彼が学院に通う間に身体共に成長させ、強くなる事を願ってのことだった。

 この学院各貴族の令息、令嬢の性格や関係性を勉強するのにも打って付けだしね。


 それに激昂したのがイリア様の双子の妹、因みに彼女がイリア様ルートにおける悪役令嬢の立ち位置となる。

 元々歪んだ愛情を双子の兄に抱いていた彼女は当然選ばれるだろうと高を括っていた次期族長に自分が選ばれなかった挙句、最愛の兄が自分から離れていくことを許す訳にはいかなかった。

 本当ならば自分が族長になり優しくて弱い兄を囲う様に一生手元に置いて自分一人が守り続けて行くつもりだったのに……と。


 最終的にはその妹と決別する事でイリア様は弱い自分を捨てて一族を継ぐのだけど、エンディングの二択が妹の自決か、死ぬまで幽閉エンドなんだよね。

 うう、後味悪いなー……

 ゲーム上だとどうも軽く感じてしまうけれど、現実になって目の前の人に起こると思うとザマァなんて思えないし、どうにかして上手く事を収めてあげたくなる。

 今の所自分に被害が及んで無いからそう都合よく思ってしまうのかもしれないけれど。


 それにしても、客観的に見てユリオット様とは正反対のベクトルで悩んでるのね、イリア様は。

 家族に認められたくて頑張るユリオット様と、家族の期待と愛情に押し潰されそうになっているイリア様。

 世界って上手くいかない。

 まぁ、簡単に上手くいってしまったらそもそもゲームにならないわよね。


 兎に角、まずはイベント、何を置いてもイベントだわ。

 既に終わってしまっているイリア様の出会いイベントはとても一方的な物。

 絶賛人付き合い拒絶中のイリア様が唯一学園内で心を許しているのは動植物だけ。

 その日も仲良しの野良猫と戯れに向かった裏庭で見かけたのがヒロイン。

 彼女は入学から遅れて登校し始めた為中々友人が出来ず、またそんな状態にも関わらずなまじ成績が良いものだから謂れのない妬みに晒されて辛い思いをしている心境を野良猫に愚痴っているところだった。

 イリア様はヒロインに声をかけるでもなく、でも気にはなって身を隠しながらそれを聞いてしまう。

 これがキッカケでなんだかんだ優しいイリア様はヒロインの境遇を不憫に思うのだけれど、自分の状況が状況だから手出し出来ずやきもきしながらヒロインを見守る様になっていく。


 そして今回起こるだろうイベントで2人は初めて会話を交わすことになるんだけど……

 じゃあ、最初のイベント無くてもいいじゃん何て思った?

 違うのよー。

 最初のファーストインプレッションが有るからこそ次のイベントが生きる訳!

 土台がしっかりしてないイベントなんてぐらついて舞台もろとも崩れ去ってしまうのが関の山なのよ。


 ふむ、背に腹は変えられないわね、奥の手を使うしかないわ。

 ……本当はこんな事したくない。

 けれども、ここがあのゲームに則った世界ならやはりその道理に従うのが今の私に出来る唯一の一番正しい判断なのだと思うの。






 翌朝、私は学院に着くや否や目的を果たす為に既に席を腰掛けていたその人の元まで一直線に向かって行った。

 ここまで来てもやはり躊躇う心と、その心とは裏腹に暴れ出す心臓を叱咤した。

 深く息を吐いて自分の思い描く完璧令嬢の猫を被る。

 きっと今度こそは被り通して見せる。


「ローランド様、御機嫌よう。昨日は有難う御座いました。それで、実はローランド様に少しお話しがあるのですが」

「おはよう、ミシェル。どうしたんだい?」


 乱世絢爛唯一にして無二のサポートキャラクター(最愛の人)、ローランド様。

 勝手ながら私、貴方を頼らせて頂きます。








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