王家のご友人となるのは中々に荷が重いのです。
「それで、君の答えはどうかな?」
色々悩んでしまったけれど、本当はわかっているのよね、基本こういう質問の答えは二択に見えて、実際の答えは一択しか残されていない。
だって王族相手に否を答えられるのは、力がある人間の特権ですもの。
「セドリック様のお友達等とは私如き凡人には身に余る栄誉だとは存じますが、ここまでセドリック様に仰って頂いたのですから、謹んでお受け申し上げます」
「嫌だなぁ、友人に対してそんな口の利き方するものじゃないよ」
「そうはいきません。親しき仲にも礼儀あり、例え友人とて王族の方に気安く話しかける事など恐れ多くて私の身が竦んでしまいますわ。そんなつまらない私と関わること等セドリック様とて本望で無いのでは?」
「それもそうかな……しょうがない、ここは私が折れるしか無いみたいだ」
セドリック様に楯突くでもなく、最低限の敬意を払おうとしている私の態度を見て、マルクス様も満足気な表情を浮かべている様に見える。
多分内心ハラハラしていらっしゃったのでしょうね。
幾ら野心を持ち合わせていないとは言え、私の様な冴えない女がセドリック様に近づく事は本心では反対なのでしょうが、他でも無いセドリック様ご本人の願いとあっては異議を申し立てられなくて困っていたのでしょうから。
「それではセドリック様、不躾なお願いで恐縮ですが、友人として私のお願いを一つ聞いて頂く事は出来ますでしょうか?」
「うん? なんだい?」
続いた私の言葉にマルクス様の眉がピクリと動いた。
私が何を言いだすか心配で仕方ない様ですが、大丈夫ですよ。
それにしても、セドリック様は先程から一転ニコニコと笑顔でお考えが読めないわ。
この方何を考えていらっしゃるんでしょう。
私の発言にも何の反応も見せないし、本当に何が狙いなのだか分からない方だわ。
「セドリック様と私が友人になった事は周囲の方にはご内密にして頂きたいのです。理由は、申せずともセドリック様ならお分かりになられますよね?」
「何だそんな事かい。私は別に良いけれど、君は本当にそれで良いのかい?」
「ええ、私無益な争いの種になるのは御免ですので。先程も見ていらっしゃったからご存知のでしょうが、私火の粉を振り払うのが余り上手ではございませんので」
私のお願いにマルクス様は勿論の事、セドリック様も少しばかり驚いたご様子。
何故なら、貴族社会では王家の方々と友人になれると言う事は一種のステータスとして扱われているから。
セドリック様の周囲に集まる人は多いものの、その中でセドリック様御自らがご友人とお認めになっているお方は2桁にも満たないのだ。
それでもセドリック様のご友人は王家の他の方々のご友人と比べれば多い方なのですけれども。
だからこそ、その極めて少ない王家のご友人という貴重な枠に入り、貴族界で権威を示したいと考えている輩は少なく無い。
まぁ、そんな不埒な輩が王家の方々とご友人になれる程世間は甘く無いのだけどね。
しかし、その栄えあるステータスを私は自ら放棄したいと宣言した様な物なのだから、お二人が驚かれるのも不思議な事では無いのかもしれない。
これは先程言った通り、無益な争いに巻き込まれたく無いからと言うのが一つ目の理由。
セドリック様の言う通り彼に懸想しているご令嬢は多いし、特に権力が高い家格の方ほどよりその傾向が強い。
でも私はそんなご令嬢方から目をつけられるのは極力避けたいのだ。
今日みたいな事が何度も有るのは御免だし、今後の私の動向にも関わって来ないとも言い切れないですしね。
それにもう一つ、私が権力に興味がないことを改めてお二人に示す、という理由もある。
事実、本当に権力に興味は無いし、それは我がファランドール家も同様。
お父様は貴族としての義務は果たすけれども、出世にはほとほと興味がない。
それどころか権力争いに巻き込まれるのは御免だと常々口にしているもの。
そして、こうする事でまずマルクス様の中の私への評価に変化があるはずだ。
無敵のヒロインと違って、私には使える武器が少ないですからね、全てにおいて原作と違った動きを見せている各イベントから今後の展開が全く読めない今、少しでもマルクス様の中の好感度を上げておくに越した事はないと思うの。
反対にセドリック様はどう思っていらっしゃるか読めないのが怖いのだけど、まぁ悪いようにはならないと思いたい。
うん、こう考えるとこれも悪くない展開なのかもしれないわね。
「大切な友人絶っての希望ならば無下には出来ないよね。そうだな、じゃあ今後はこの空き教室を借りて交流を図るとしようか」
「か、かしこまりました」
「次は……来週。うん、来週の今日の放課後にまたここに来れるかい?私も時間をしっかり作ってくるから、その時また君と話が出来るのを楽しみにしているよ」
トントン拍子に進む計画に若干戸惑いつつも、頭の中で自らの予定を確認する。
多分、大丈夫そう。
それにしても敢えて私がご令嬢方に連れ込まれたこの教室を指定する辺り、セドリック様も意地の悪い事をなさる。
私がこの教室に再び、今度は自ら進んで訪れる事に怯える程か弱い女性じゃない事くらい気がついていらっしゃる癖に、わざと試されている気がするわ。
そういえば、この流れは元のイベントの流れに戻ってきたみたいね。
正規イベントでも、何やかんやあった後また君と話したいからここに来て欲しいとセドリック様はヒロインに告げるのよね。
ヒロインの方もセドリック様に助けられたご恩があるから無下に断る事も出来なくて、了承するのだけど。
マルクス様はそれを余り良く思われてなくて、ヒロインは鋭い視線で睨みつけられてしまうのよ。
まぁ、今のマルクス様は然程反対と言ったご様子は無くて、特に私を睨みつける事もなく平然とされているけど。
やはり先程の私の発言が効いているのかしら?
うわ、そうだと良いわね。
「それでは、私はもう行かなくては。マルクス、行こうか」
「はい、セドリック様」
「本日は本当に有難う御座いました」
「お礼なんていらないさ。私だって君と友達になれたのだから、お互い得る物があればWIN-WINだろ?それじゃ、またね」
「ええ、そう言って頂ければ幸いです。御機嫌よう、セドリック様、マルクス様」
「失礼する、ファランドール嬢」
先に室内を後にしたセドリック様に従う形でマルクス様も去っていかれた。
最後にチラリと見せた伺う様なマルクス様の視線に、彼の中では私はまだまだ警戒すべき対象の域から出られていない事を感じて背筋を伸ばした。
そんな簡単に信用される訳がない事は理解しているから落ち込みはしないけれど、身を引き締めていかなくてはならないと改めて思い知らされる。
特にマルクス様は原作でも難易度が高くて、マイナスな好感度をプラスに持っていくまではそこまで大変ではないのだけれども、そこから好感度を上げるのに苦労させられた記憶がある。
大体マルクス様の中でセドリック様が占める割合が高すぎるのが悪いのよ。
いつだってヒロインは二の次でセドリック様優先。
そんな状態から自分の方を向かせるのって大変なのよ。
まぁ、王国を救う為だけなら好感度を上げ切る必要までは無いから少しは気が楽だけど、しっかりと気合いを入れて取り組む必要があるのは確かね。
けれど、それよりも何よりも彼についての一番の問題は。
「マルクス様の婚約者ってローランド様の妹さんなのよね」
私は深い溜息を吐く。
彼女については追い追い詳しく説明したいと思うけど、ローランド様の妹さん……実は彼女、ゲームの中の悪役令嬢の内の1人なのだ。
「どうにか彼女とはやり合わないで済む方法ってないのかしら」
わかっていても受け入れ難い今後の事を考えて、私はもう一度溜息を漏らした。
さて、やっと全ての攻略対象と出会うことが出来た訳だけれど。
すでに山の様に積み重なっている問題達に、これからどうイベントを進めていくのか、頭が痛くなる思いです。




