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初めましてモブです。

 


 ある日、唐突に気がついた。


 私モブだわ!





  失礼しました、ちょっと取り乱してしまいましたね。

 ミシェル・ファランドールそれが私の今の名前。

 折笠 満瑠(みちる)それが私の前世の名前。

 そう、私の前世の記憶を思い出したのよ。


 そしてこの世界が大好きだった乙女ゲーム『乱世絢爛〜この世界は君と共に守る〜』の世界だと気がついたのは、私がちょうどアランダートル王立学院に入学したその日の事。


 何故気がついたのかですって?

 それは、私の最推しだったローランド様を見つけてしまったから!

 あの涼やかな目元、ダークブルーの御髪と瞳、少し鋭い見た目と反して優しい喋り方、すらっと伸びた四肢、あれは紛う事なきローランド様。

 前世の私の中で恋人にしたいキャラ不動のナンバーワンだったローランド様を見つけた瞬間と言ったら、それはもう筆舌に表し難い感情に襲われた訳で……


 と、ついつい興奮してローランド様とのエンカウントのお話を続けそうになってしまったけれども、まずは乙女ゲームの乱世絢爛について説明した方がいいかしら。

 このゲームは乙女ゲーム、ご存知だろうけれどヒロインが攻略対象となる男性方と恋愛を繰り広げるタイプのゲーム。

 その中でも件のゲームは指定の経過時間までに攻略対象全員と一定の好感度を上げてからじゃ無いとクリア出来ない若干面倒くさい物だった。

 何で一定の好感度が必要なのかって?

 それはゲームの中盤で王国が滅びるか、滅びないかって言う重要なイベントが巻き起こるから。

 普通そういうイベントってゲーム終了間際に起こるものなんじゃないのって思う人もいるかもしれないけれど、全員の攻略対象と仲良くなる事で逆ハーレム気分を味わってからその中の1人を選び、他の攻略対象に惜しまれつつも幸せになれるラストは意外と好評だったのよ。

 まぁ、単推し派の方々には受けが悪かったけれども。

 私はどちらかと言えばゲームに出てくるキャラクターは皆等しく愛する派の人間だったから、大勢にちやほやされる贅沢なこの展開は嫌いではなくて、前評判から結構期待して予約購入した事を覚えている。


 でも、私はこのゲームでローランド様(最推し)と出会ってしまった。

 彼は乙女ゲームの中で初めて他の誰を差し置いてもこの人とトゥルーエンディングを迎えたいと思ったキャラだった。

 基本ゲームの中のキャラクターはプレイヤーに夢を見せるためにも素敵で理想的なキャラクターが多い。

 私もそういった非現実的なキャラクターとのイチャイチャウフフが楽しみたくて乙女ゲームをやっていたし、実際に現実でまでそんな人と出会えるとも、増してや付き合いたいだなんて考えてもいなかった。

 けれど、ローランド様はどこか人間臭さがあり、頑張り屋で、優しくて、少しだけ打たれ弱くて、それを隠そうとする姿が何となく可愛い……まさに現実的な意味での私の理想の人だった。

 プレイ中何故彼が二次元の世界の人なのかと何度絶望した事か。


 更に私を絶望させたのはローランド様()がそのゲーム内での攻略対象じゃなかった事。

 彼は所謂サポートキャラクターという存在だったのだ。

 私は彼と現実世界で付き合えないだけに収まらず、ゲームの世界ですら彼と恋愛する事が出来ないと言う二段階で絶望を味わわされてしまった。


 だから、せめて少しでも彼との時間を感じたくて必死に何回もこのゲームをプレイした。

 まぁ、ゲームの内容も中々に面白くて楽しめたし、ローランド様にも会えるしで、何周しても苦痛は感じなかったけれど、やっぱりローランド様と恋愛が出来ない事実だけは泣きたい程に辛くって。

 ゲームの制作会社には何度もしつこく続編が出る際には是非ローランド様を攻略対象に、とメールを送り続けたけれど、結局の所一度も返事が帰ってきたことは無かった。

 ファンサイトで見る限りではローランド様はそれなりに人気があった筈なのに!

 そりゃあ、勿論各攻略対象には劣るけど……


 だけど、今私は初めて彼が攻略対象じゃなかった事を心から喜んでいる。

 何故なら私はヒロインじゃなくて、このゲームで言うところのモブキャラだったから。


 何故ならヒロインが各攻略対象とめくるめくハーレムを繰り広げても、そこにローランド様はいないと言うことだもの。

 つまり私はヒロインに嫉妬したり、世界を救う為に涙を飲む、なんて必要がない訳よ。

 むしろヒロインが現れたら世界を救って貰うために陰ながら協力してあげたいくらい。

 だから、その代わりにモブとサポキャラが恋愛してもいいでしょう?

 私、モブで良かった!


 そうは言っても、どんなに私がローランド様を思ってももしかしたらローランド様に相手をしてもらえないかもしれない。

 でも、私の全てをかけてでも彼と恋愛してみせる。

 全てを思い出した私はそう決意した。

 前世での乙女ゲームプレイ本数3桁越えの力舐めないでよ!

 確かにリアルな恋人はいなかったけれど。


 それに、このゲームのストーリーは結構面白かったし、特等席とも言えるこの場所からゲームの世界を堪能出来るってどれだけ私幸せなのかしら。

 モブ最高! ヒロイン頑張れ! ビバ恋愛!







 そう浮かれはしゃいでいた時期もありました……


 これってもしかしてまずい状況? と気がついたのはあれから半年程過ぎてから。

 まぁ、ローランド様が余りに尊過ぎて未だに御挨拶しか出来ない間柄、という事は一旦置いておきましょう。

 どうせ人生は続くのだから少しくらい時間をかけても大丈夫!


 そんな事より……




 待てど暮らせどヒロインが来ない!!!!


 え、入学式から1ヶ月遅れでヒロインが学院に登校してくるんじゃなかったっけ?

 ゲームは何周もしたけれど、一度だってヒロインが半年も姿を現さなかった事なんてなかったのに。

 最初こそ、まぁゲームと違ってここは今の現実世界なんだし多少のブレはあるのかも、なんて楽観視していたけど。

 半年て!

 そろそろ重要なイベント盛りだくさんの時期に入りますよー!

 これ逃すと王国救済の好感度が足りなくなっちゃいますよー!



 それってつまり……

 王国滅びるじゃないの!


 さすがの私もこれはヤバイかもと気がついた。

 毎日生ローランド様が見れて幸せーとか言ってる場合じゃない。


 もしかしてゲームと同じ様な世界にいるけど、なんだかんだでゲームとは違うのかな?

 なんて少しばかり期待してみたけど、入学からずっとイベントが起こるであろうのシーンに出歯亀していた結果。

 やっぱり、ここは乱世絢爛の世界そのままです!

 なのに何故かヒロインだけが来ない。

 だから必然的にイベントが起こる筈だった各シーンはそれなりに帳尻が取れる感じにエピソードを終えてしまった。

 ヤバくない?

 いや、ヤバイでしょ。


 だったら、と次に思ったのは私みたいなモブ風情でも前世の記憶を持ってるんだから、もっと主要な、例えばサブメインの悪役とされるキャラクターにも同じ境遇の方々いるのでは?と言う事。

 確か前世でもそんな小説やらなんやらが流行ってた筈。

 きっとそのキャラがヒロインの代わりに攻略対象と仲良くなって世界を救ってくれるんだわ。

 それはそれで楽しみ!


 そう思って見てたけど。

 うん、あの子ら普通にまんま悪役でしたよ。

 実際目の当たりにすると普通に性格悪くてビックリですよ。


 えー、何で私だけこんな記憶持ちなの?

 もっと記憶持ってるべき人いるでしょう。

 このまま行くと王国滅びるよね。

 どうして、皆んなヤバイと思わないのかな……


 あ、皆んな王国滅びること知らないのか。


 え、じゃあ……


 私が世界救うしかない感じですか?



 流石にそれはモブにはちょっと荷が重過ぎやしませんか?

 だって攻略対象皆んなとてつもなく美形ですけど、私は極々平凡な令嬢ですよ?

 ゲームでみたヒロインめちゃくちゃ美人でしたよ?

 しかも私はサポキャラであるローランド様激推し何ですが。

 こんなんで攻略対象全員と逆ハーレム築けるのでしょうか?

 いや、それでも逆ハーレムしなきゃ王国が滅んでしまうわ!



 じゃあ、もういっそ腹を括りましょうか、ヒロインの代わりに死ぬ気で逆ハーするので、世界を救ったら推し(サポキャラ)と恋愛させてください!






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