理解できない状況
俺は平凡な高校生だろう。目立つこともせず卒業する目標だ。そんな情熱のない毎日を送るつもりだった…。
第1章 始まり
「ここは…」
俺は目を覚ますと、部屋にいた。広くもないが狭くもない部屋。普段冷静な俺もこの状況を理解するのには時間がかかりそうだと思った。
「さっきまで…学校だったか…いや…」
うる覚えの記憶を辿ったが、無意味なことだと思い直し、考えるのをやめた。どうしたらよいか分からず周りを見渡すと、俺の他に3人が横たわっていた。同じクラスの子だと認識できた。さらに疑問が増えた。どうする事もできず、しばらく待っていると
「ドゥゥッゥン!」
どこからか大きな音がした。その音に反応し、他の3人が目を覚ました。目覚めてすぐ異変に気付いた1人の少女が口を開く
「なによここ!どこなのっ!てかなんで大輔君と、琴音ちゃんと…太郎君?がいるの?」
「俺は裕太だ」
まぁ太郎でもよかったが、一様訂正しておいた。
目覚めてすぐ声を荒あげて見事に王道な焦り方をしたのは工藤彩乃だった。
「ここはいったいなんだ…」
「………」
工藤とは違い、他の2人はまだ状況を理解できずに言葉を詰まらせているようだ。クラスのリーダ的存在の吉本大輔でもこの焦り具合だ、俺と同じで大人しく過ごしていた鈴木琴音なら言葉もでないは当然の反応なのか。
「てかさっきまでどこにいたっけ?全然思い出せないだけど。大輔君は思い出せる?」
「んん…申し訳ないけど、工藤さんの力にはなれないかな。僕も全く思い出せないんだ…」
俺と鈴木は黙ってそのやりとりを聞いていた。2人の会話に入ろうとすれば、工藤から理不尽な言葉が飛んでくるのは目に見えているからだ。とはいえ、俺も不安なのには変わりない。ならなおさら女性の鈴木はかなりの不安を感じているだろう。
「鈴木、どこか痛いところはあるか?なければいいんだが」
「…大丈夫だよ。少し頭は重いけど、体は平気そう。藤ヶ谷くんこそ大丈夫?」
「俺は大丈夫だ。仮にも男子だからな」
「男子の割には、いっつも教室の端で元気なさそうに1人でご飯食べてるけどねっ」
「それは席替えで教室の端になったからだ」
俺と鈴木の話に割って入ってきた工藤はどうやらデリカシーがないらしい。たしかに1人なのは認めるが、自ら教室の端に行っているわけではないことをここで主張しておく。
「みんな、怪我はなさそうだね。一安心だよ。それより、所持品が何もないことは気がついたかい?どうやらここに連れてこられた時に没収されたようだね」
「連れてこられたって言ったな、吉本。なぜそんなことが分かるんだ?」
俺はすぐさま質問を投げかけた。この反応次第で吉本がこの状況に関する情報を持っているかどうか分かるからだ。
吉本は焦ることなくこう答えた
「よく見て欲しい。窓もなく、密閉されているこの部屋には一つだけドアがある。これから推測すると、誰かが俺たちをここに閉じ込めていると考えるのが普通だと思うんだ。」
「そうよ!太郎!変なことを言って、大輔くんを困らせないでよねっ!」
工藤からの鋭いツッコミを受けた太郎はしばらく黙っておくことにした。この際もう名前を太郎にしようかと思う。
「誰がこんなことをしているのか…そして何が目的なのか…。この場合は監禁している側からのなんらかの指示があると思う。しばらく待ってみようか」
吉本が言うことはかなり的を射ていた。吉本はクラスでもトップの成績と運動能力を保持している。学年でみても、かなり上位の成績と運動能力だ。さらにサッカー部に所属している。文武両道とは吉本のことを指すものだろう。
しかし、とっさに考えついた推測にしては、出来過ぎたものがあると感じた。普通の人はこの状況に恐怖を感じ、思考能力が低下するはずだからだ。まぁ俺は幸い小さい頃から冷静だった、というのとみんなよりも目覚めるのが少し早かったことで、ある程度状況を考える時間はあった。だから今、合理的な分析を可能としている。
それはさておき、どうするか…
「皆さん、どうもごきげんよう。私はバイザー。これからみなさんにルールを説明します。説明するのは一度だけですし、追加ルールはございません。もちろん、みなさんの質問に答えることもありませんので、よく耳をすませて聞いてくださいね」