魔王「その剣、ちょーだい」-3-
「ねぇねぇ」
「なに、どうしたの?」
「その剣、ちょーだい」
「やだよ」
幼女が私の背中に巻き付いている。私は剣の特訓をしている。
「なんで、やなの?」
「今丁度それ使って、魔王様を倒す為の特訓してるから」
「そんなの意味ないよ、どうせ私には、勝てないんだから」
「そんなの分からないでしょうよ。だって、魔王様はご飯食べて寝てるだけですから、きっと弱くなってますし」
幼女は私の背中に巻き付くのを辞めると、がさごそとおもちゃ箱を漁りだした。
「ふっふっふ……さてと、そろそろ私もいつもの”とっくん”を、はじめるとするかな」
「あれ、そんなおもちゃの剣持ってたっけ?」
「無礼者。これは私がはるか昔に、きさまらの同胞からうばいとった、”でんせつのつるぎ”なのだ」
「なんだ、魔王様もちゃんとした剣をお持ちじゃないですか。それなら、私のものは必要ないですね」
“それとこれとは別だけど”と幼女は、さらっと私の発言を受け流した。
「だぁ!せやっ!」
「おー……魔王様、流石にいい太刀筋ですね」
「ふっふっふー。これくらい、わたしには、”昼食前”なのだ」
「それを言うなら、”朝飯前”ね」
ぶんぶんと楽しそうに剣を振り回していた幼女が、急に思い立ったらしい。私に向かって剣を構えた。
「……やる?」
「…………いいの?」
「わたしが勝ったら、その剣ちょーだいね」
「…………いいですよ、……もちろん」
機会とは突然やって来るものだ。私と幼女がここにいる理由は本来”これ”だったのだから。
「……やっぱりやーめた」
「……あら、残念」
「まだ、遊び足りないし…あと、どうせ勝っちゃうからつまんないし……」
「……それは、そうかもしれませんね」
幼女は剣を放り出すと、”といれ、といれー”と言いながら部屋を飛び出していった。
幼女が放り出した剣を手に取り見てみると、それは確かに伝説の勇者が持っていたと言われる短剣であった。
私はそれを幼女がおもちゃ箱と呼んでいる箱にしまうと、震えの止まらない左手を優しく宥めた。
魔王「その剣、ちょーだい」-3- -終-