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転生した俺に神が与えてくれたスキルは瞬間移動だけだった  作者: 山み
第1部 異世界・闘技場編
8/22

各々の事情

途中で書き方変わってるのでお気をつけて。

 そこには様々な武器が入った大きな木箱が3つ置いてあった。まさに放置、といった感じで種類も長さも関係なく無造作に突っ込まれており、鎧騎士はそんな部屋の隅に槍を持って佇んでいた。


「あの、さっきは助けてくれてありがとうございました」

 お礼を言うと鎧騎士は無言で頷き、それっきり微動だにしなかったので俺はとりあえず頭を下げた。


 どうやら無口な人のようだ。

 お礼はこんなものでいい。早く武器を選ぼう。


 右端の木箱を覗き見ると、剣、槍、斧、弓といった様々な武器が中に入っており、俺はその中でもひときわ目立つ銀色の大剣の柄を掴んだ。選んだ理由は強いて言えばかっこいいからである。


「辞めとけ辞めとけ。お前じゃ持てない」

「いや、いけるいける」


 俺は案内人の声を無視して大剣を木箱から引っ張り出そうとした。だが大剣は想像以上に重たく、少し持ち上がっただけでそれ以上は引き出せなかった。


「ホラ見ろ。剣ってのは重いものなんだよ」

「だな」

 これを使ってたやつも重すぎるからここに置いていったんだろう。そうに違いないな。


 俺は大剣から手を離し、次に片手剣を手にとった。

 これは……普通に持てはするが重い事は重い。例えると国語辞典のような重さだ。


 振れば空気を切る音がするだろうかと思い振ってみると手の関節がポキッと鳴った。よし、聞かなかったことにしよう。


「これ、どうかな」

 俺は少し痛む右腕で片手剣を掲げた。勇者ってのはこんなものを常に持ってるのかと思うと感心する。


「殺したら失格のルールなんだぞ。お前、殺さない斬り方なんて分からないだろ。棍棒とかにしとけよ」

「ああ、そっか」


 俺は片手剣を木箱に戻した。

 棍棒か……ゲームじゃ基本的に序盤のザコが持ってるやつなんだよな。

 まあ俺にはそれぐらいが合ってるのかもしれない。ええと、棍棒棍棒……お、あったあった。


「ん?」

 木箱に深く手を突っ込んで棍棒を取り出した際に、ふと気配を感じたので横を見ると先ほどまで隅っこでジッとしていたはずの鎧騎士がすぐ隣に立っていた。


「うおっ……」

 いったい、いつからここに居たんだ。何の足音もしなかったぞ。


 鎧騎士が顔をこちらに向けた。だが兜を被っているために表情が全く見えない。喜んでるのか怒ってるのか哀しんでるのか楽しんでるのかサッパリ分からなかった。


「そうか、貴殿も私と同じか……いい耳、いや心をしているな」

「はい?」 

 意味のわからないスピリチュアルな言葉に目を丸くすると鎧騎士が馴れ馴れしく俺の肩に手を置いた。


「隠さなくてもよかろう。さっきから武器と囁くように話していたのが聞こえたぞ!」


 鎧騎士の口調が弾んでいた。どうやら兜の下の顔は喜んでいるようだが、この人は勘違いをしている。俺は武器となんて話していない。案内人と話していただけだ。誤解を解こうか。でも心の中にいる見えない案内人と話しているんですと言って信じてくれるだろうか。


 そんなこんなで黙っていると鎧騎士が機関銃の如く喋り出した。


「まあ私には分かるぞ。武器と話せるのを隠そうとするその気持ちが。私が武器の声を初めて聴いたのは15の時だった。私はその時24時間槍を突き続けるという修行をしていたのだが残り1時間というところで全身を強烈な痛みが襲った。私は最早これまでかと思った……だがその時! この槍が話しかけてくれたのだ。頑張れ、頑張れ、もう一息だと! 私は槍に励まされつつ最後の力を振り絞って修行を達成し、歓喜に打ち震えると同時に槍と心を通わせられた事にとても感動した。だが、その事を師匠や相弟子に報告すると皆そろって眉を潜めたものだ。師匠の元を離れるときも武器と話せるなどと誰にも言うなと口止めされ、私だけがおかしいのかと日々考えた。時には枕を濡らすこともあった……だが、見ろ師匠! 私だけではなかったのだ、武器と心を通わせられる人間は! 私は嬉しいぞ、貴殿と出会うことが出来て!」


「そっすか……俺もです!」


 俺は笑って頷いた。だって仕方ないだろう。こんなに身振り手振りをしながら、自分の昔話まで交えて話している人に勘違いですよ、なんて俺に言えるわけが無い。嘘をつくのは良くないが人を幸せにする嘘というものがあるのだ。


「……ありがとう」

 鎧騎士が握手を求めてきたので、俺はそれに応じた。ほら、嘘ついたけど誰も損してない。


「おっと、そういえば、貴殿の名前を聞いていなかった」

「ああ、俺はですね……」

 もうヤマでいいよな。山木雄介なんて名前はこの世界じゃ浮くし。


「はは、その仰々しい言葉遣いはやめるといい。私たちは友だ」

「そう……か。じゃあ、俺はヤマ」

「ドラゴズバ・ザックザクだ」


「あっ、はあ……」

 何とも面白い名前である。なんで名前に擬音が入っているんだ。


「お前、名前聞いてそんな顔するなんてドラゴズバ・ザックザクに失礼だぞ」

 案内人め。わざわざフルネームで言うなんて、どう見ても名前の事イジッてるだろ。


 ……ん。足音が聞こえてきたぞ。誰か入ってくる。まさか鎖男とその一味じゃ無いだろうな。


「ああ、ヤマ! もう武器決まったの? そろそろ試合始まるわよ!」

 なんだティアかと少し安心する。


「む、もうそんな時間か。では友よ、戦場で会おう!」

 ドラゴズバが俺に親指を立てて部屋を出て行った。こんな短時間でここまで親しくなるとは驚きである。


「何あの人、友達?」

「うん」

 他愛ない話が終わると、ティアが俺の持つ棍棒に目をやった。


「それにするの?」

「まあ、うん」

 答えるとティアが小部屋をぐるりと見渡し、俺が到底持ち上げられなかった大剣に向かって歩き出した。


「こっちの方が強そうじゃない?」

 ティアが大剣の柄を握る。

「チッ、なんだこの女。俺の選択にケチつける気か」


 まただ。どうも案内人はティアに対する風当たりが強い。俺が同じ事を言ったら丁寧に教えてくれるだろうに、どうしてなのか。まあ今考えなきゃならない事じゃないけど。


「ああ、それ……重くて持てなくてさ」

 俺は耳の辺りを爪で掻いた。情けない話である。

「ふーん」


 ティアが首を傾げ、片手で大剣を軽々と引き抜いた。


「なーんだ、軽いじゃない」 マジかよ。


 俺が度肝を抜かれているとティアが大剣を振り回し始めた。剣が俺の眼前を通り過ぎるたびに部屋の中を風がビュンビュン唸る。


「ま、ヤマがそれを気に入ったんならそれでいいか。行きましょ」

 ティアは笑顔で大剣を木箱に戻し小部屋を出て行った。俺が口をポカンと開けていたのには一切気づいていないようだった。


「あいつ当てつけか?」

「いや……わからん」

 俺は棍棒を一瞬見て、ティアの後に続いた。





 ヤマとティアが小部屋を後にした頃、闘技場の外では中に入りきれなかった観客たちが闘技場運営者のスキル『映像中継』により作られた中継会場の前で試合の開始を今か今かと待ちわびていた。


 このような立ち見客も運営にとっては大事な収入源であり、彼らに金を落としてもらおうと様々な屋台が外に出店されている。闘技場の白熱する試合を見た観客はつい財布の紐も緩くなるため、この手法により運営は巨額の金を手に入れているのだった。


 1つ問題があるとすれば、その緩くなった財布のおこぼれに預かろうとスリや物乞いといった得体の知れない連中まで集まってしまう事だが、そんな光景は観客にとっては日常茶飯事だった。そのため全身を黒いローブで纏った男が闘技場の外壁にもたれて座っていても、誰ひとりその顔を確認しようとはしなかった。


「ここに居たんですね、ハリスさん」

 1人の男が黒ローブに話しかけた。通りすがりの者はモノクルを付けた、やけに身なりの良い男が物乞いらしき男を名前で呼んだので驚いたことだろう。


「……俺を苗字で呼ぶのはお前ぐらいだ」

 黒ローブが冷ややかに言った。


「闘技場、エントリーしたんでしょ? 中で待機してなくて良いんですか?」

 苗字をハリスと言うらしい、黒ローブの男は自分がもたれている外壁をコンコンと叩いた。


「俺は、あんな狭い部屋に押し込まれたくない」

「ははは。それを貴方が言いますか、面白いなぁ」

 身なりのいい男が笑うとハリスは不機嫌そうに彼を一瞥した。


「そうだ。面白いといえば見ましたか、先日発表されたギルドランク」

 ハリスは、知らんと一言呟いて首を振った。


「『ウィンドスター』のランクがまた上がって今は4位になってました。設立から2ヶ月で4位は新記録だそうですよ」

「そうか。俺はランクなんぞに興味はないがお前は面白くないんだろ」


 ハリスがそう言って立ち上がると、身なりのいい男がうっすら微笑んだ。


「最近、町で噂になってるんですよ。『ウィンドスター』はいずれランク1位になるって。つまり僕たちのギルドより『ウィンドスター』の方が実力は上だと思ってる奴らが増えてきてるんです」


「だから俺に闘技場へ出ろと?」


 身なりのいい男が頷き、中継会場に集まった人々を細目で見た。


「ハリスさんが闘技場で、他の敵を完膚なきまでに叩き潰してやれば聴衆も目を覚ますでしょう。これがランク1位の団員の強さなのか。これじゃ『ウィンドスター』だって敵わないってね」


「……まあ、とりあえず勝てばいいんだろ」

 ハリスは首を鳴らし、闘技場の入口に向かって歩き出した。もうすぐ試合も始まるしこれ以上こいつの話を聞くのは面倒だと思った。


「最後の5人になるまでは戦わないでくださいね。残った強者どもをハリスさんが一瞬で一網打尽にすれば、よりインパクトがありますから」

「ああ」

 ハリスは生返事をした。いちいち注文のうるさいやつだ。


「おっと、最後に1つ!」


「んだよ」

 ハリスがうんざりしたように言葉を吐き捨てる。


「くれぐれも負けるなんて事は無いように」

 身なりのいい男が無表情で言った。


 だがハリスはそれに返事もせず歩みを進めた。勝つのが当たり前の彼にとって、その言葉はプライドを傷つけられたようで苛々するのだ。彼はこの憤りを闘技場で発散する事に決めた。

ね、変わってたでしょ?

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