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案内人が幼女になりました

「ちょっ……お前。座れ、そこに」


 起き上がり、ティアの寝ていたベッドを指差すと幼女の姿になった案内人がくるりと向きを変え、そこに腰を下ろした。


「なんだよ」


 なんだよってこっちのセリフだ。睨むな。


「案内人なんだな?」


「さっきからそう言ってるだろ」


 うーむ。こうして見ると声と言葉遣いのギャップが酷い。声は完全に小さい無垢な女の子のそれなくせに口調は恐ろしいほど威圧的である。


 だが、問題はそんな事では無い。なぜ案内人が今、俺の目の前にいるのかという事だ。


 そもそも、俺と案内人は神の力で一心同体になっているから案内人は外へは出てこられないはずなのだ。現に昨日はずっと俺の中に居た。それなのに。


「何で出てこれたんだ?」


 質問すると案内人はベッドの上であぐらをかき、返答に迷っているのか黙って前後に揺れはじめた。やがて俺の顔をじっと真剣な表情で見据え、ゆっくりと口を開いた。


「……分からん」


「何だよそれ! 急に出てきて理由は知らんじゃ誰も納得しないぞ!」


 思わず大声を出すと、案内人がムッとした表情を見せた。


「うるさいな。何で外に出られたのか俺が知りたいよ。本来ならこんなこと有り得ないんだ。何せ俺とお前を一心同体にしやがったのは神だからな」


 そう言うと案内人はベッドにごろんと背を付けた。


 しかしこの状況、何も知らない奴が見たら俺はロリコンの誘拐犯扱いされるんじゃないか。キャミソールを着た4歳の女児と同じ部屋に居るんだぞ。


 よし、誰も来ないうちに早く現状を理解しよう。


「もしかして神が死んだんじゃ……」


「まさか、あいつは永遠に不滅だ、不老不死なんだ。胸糞の悪い事にな」


 案内人が吐き捨てるように言い頭を掻いた。そして天井に向けていた顔をこちらへと向ける。


「そうだな……あり得るとしたら神の縛りをお前が破ったって事だ」


「待てよ。それこそあり得るのか。それじゃ神の力を俺が上回ったって事になるぞ」


「いや、あいつはとんでもなく適当な奴だ。だから縛りも適当で効果が弱くなっていたのかもしれん」


 俺は首を傾げた。神がそんなヘマするのか? と。

 だけど俺に反論する権利はない。神がどんな奴か知らないし、会った事も無いんだから。


「でも俺が強くなったって、いつの話だ?」


 思い当たる出来事なんて何も無いぞ。

 寝てる間に秘密組織に改造でもされたか。


「お前、闘技場でハリスを倒しただろ? あれで経験値が入ってレベルアップしたんじゃないか」


 なるほど、確かにこの世界はゲームによく似ているし、それなら急に強くなったというのも納得がいく。


 だけどその割には昨日誰もレベルの話なんてしてなかったな。闘技場の待機部屋なんて、その話題で盛り上がってそうなものなのに。


「それ、本当か?」


「……それしか考えられんだろうが」


 案内人が俺から目を逸らした。

 もしかして適当に言ってんじゃないか、こいつ。


「んだよ、その目は。文句でもあるのか」


 案内人の顔が露骨に不機嫌になる。


「いや、もういい。じゃあ……その格好は何だ」


 俺は話を逸らした。これ以上、何で外に出てこられたのかについて聞くのは案内人との関係悪化を招くと思った。


「ああ、これか。涼しくていいぞ」


 案内人がキャミソールの襟を下にぐいと引っ張った。よし、それ一枚しか着ていないのはよーく分かった。しかし俺が聞きたいのはそういう事じゃない。


「服じゃなくて外見そのものだよ。お前喋り方からして男だろ。それが何で外に出たらそうなんだよ」


 さっきから目のやり場に困ってるんだ。

 恥じらいもなく足を開きやがって。


「仕方ないだろ、実体化にはこのサイズが精一杯だ」


「実体化ぁ? 何だそりゃ」


「魂から体を構築する事だよ」


「……? よく分からんが、何でそんな事するんだ。魂のまま外に出てればいいじゃないか」


 率直な意見をぶつけると案内人がやれやれ顔で両手を広げた。何も分かってないなとでも言いたげだ。


「何も知らん奴だなあ。魂がむき出しになると天国に逝くか、ゴーストになってこの世をさまようかの二択なんだよ。だからこんな小さい体でも無いと困るんだ」


 案内人がキャミソールの上から体のラインをなぞり出したが、わざわざそんな事しなくていいんだ。小さいなんて一目で分かる。


 まあとにかく魂から人に変身したって事か。ならその逆だって、きっとできるだろ。


「よし分かった、じゃあ俺の体に戻れ」


「やーだーね。そんな狭い所にずっと居られるかよ。たまにはリフレッシュさせろ」


 ベッド上の幼女が舌を出して、いたずらっぽく笑った。何だくそ、柄にもなく可愛子ぶりやがって。中は口の悪い男のくせに。


 だが落ち着け俺。俺は心の広いやつだ。ここは怒るよりお互いが妥協できる点を探すのが先決。


「じゃあせめて男になってくれよ。そんな姿で俺と一緒にいて周りに色々と誤解されたらどうする」


「無理だね! 男の体にはなれない。下の余計なものが実体化のキャパオーバーだ。その点女は……」


「ばっ、馬鹿。スカートをめくるな、アホか!」


 慌てて案内人に駆け寄り、露わになりかけた足の根元にスカートを被せる。こいつヤバイぞ。幼稚な痴女じゃねえか!  幼痴女だよ! 


「何だよ、お前に分かりやすく説明してやろうかと思ったのに。男の実体化がどれだけ難しいのかを」


「いや、もういい。充分だ。 早く証明書(ステータス)を発行しに行こう。な!」


 ああ、まるで子守だよ。


 俺はため息をついて、見た目だけ幼女の手を握り瞬間移動の準備をする。さーて証明書(ステータス)の発行する所は……


 あっ、知らねえや。

 町に移動した時みたいに適当でいいかな。


「おいおい、せっかく外に出たのに瞬間移動はつまらん。歩いていこう」


「はあ? あんた昨日、朝イチで行きたいって」


 俺が不服を述べると案内人がすぐさま俺の手をつねってきた。子供の力とはいえ痛い。


「こんな時間まで寝てて何が朝イチだ。さあ行くぞ」


 悔しい、悔しいが正論だ。


 俺は何も言い返せず、そのまま部屋を出て一階に降りることにした。案内人は後ろで楽しそうにしてるが俺は別だ。階段を一段一段降りるたびに知り合いと出会いたくないという憂鬱な思いが強くなる。


 ティアにもドラゴズバにもグレイトにも、ここのお婆さんとも出会いたくない。早く宿を出るに限る。


 だが俺の願いと反して、宿の出口まであと少しというところでお婆さんが現れた。というよりそこから入ってきたのだ。


「あら、お出かけですか? いってらっしゃ……まあ、可愛いお嬢ちゃん。どちらの子?」


「えーとですね。僕の姉の夫の妻の弟の子です」


 よし。お婆さんがポカンとしてるうちに早く外に出ようと俺は案内人の手を出口まで引いていった。


 さあ早く歩け一刻も早く……おいバカ。なんでそこで止まる! もう外に片足出かかってるのに!


「おばさん。あたし、この人知らな――」


「ウワァァーーーーー!!!」


 俺は嘘つきの人騒がせのクソ案内人を抱きかかえて一目散に逃げた。

1人のキャラを幼女にするために、こんなややこしい設定を付ける事になるとは……

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