よくやったよ!俺
お待たせしました。第2部開演です!
「……ろ、……ろ、おい」
うーん……なんだ、この声は……
「起きろ……起きろ……」
ああ、案内人か……それにしてもこのやり取り、なんか前にもあったよな。確かあの時は俺がこの世界に来たばっかりで……
「起きろ……目を開けるんだ」
今回は立て、とは言わないのか……。あれ? こんな事言われてるって事は俺また意識無くしたのか? えっ何で?
「んが……」
俺はうっすら目を開けた。黄土色の天井が見える。天井が見えるという事は仰向けになってるって事だ……それに地面が柔らかい。ああ、俺はベッドに寝かされているのか。
「ようやくお目覚めか」
「……ここは?」
後頭部を枕につけながら周りを見た。ここは……病院の大部屋か? 部屋の中に俺が寝ているのと同じベッドが3つ置かれている。隣のベッドはカーテンのようなもので仕切られているけど誰かが寝ているのか、人の気配がする。
「闘技場の医務室だよ」
そうだろうな。聞かなくてもよかった。
「何でここに居るんだ? 俺」
「なんだ、覚えてないのか……お前、ハリスを倒した後、魂が抜けたみたいに気絶したんだよ。それからここに運ばれて……5時間ぐらい寝てたぜ」
ああ、そうか。最後までカッコつかないな、俺ってやつは……うん。でもまあそのぐらいが丁度いいか。いや俺にしては良くやった方だろ。自分で自分を追い詰めてどうするよ。逆に褒めてやりたいわ。足から血ドロドロ流しながらも勝ったんだぞ。
「そうだ、足……痛っ」
ふと足を動かそうとすると、誰かにつねられたような軽い痛みが走った。どうなってんだと手だけ伸ばして触ると、包帯の硬い感触がした。
「ああ、足な。まあ心配すんな。一応、回復魔法で穴は塞がってるとさ。痛みもそのうち消えるらしい」
「へえ……ところで……」
なんで気絶は回復魔法で治らないんだと聞こうとしたその時、医務室の入り口から見覚えのない男の顔がひょっこり現れた。
「おおー! 目を覚ましたか!」
誰だコイツ!? 全然知らねえ!
こんなしょうゆ顔のやつ、闘技場に居たか!?
「我が友よ!」
あっなんだ、ドラゴズバか……こいつ、鎧脱いだらこんな顔してんだ。性格からして、もっと癖のある顔してると思ってたのに。
「なになに? ヤマ、起きたの?」
ドラゴズバの後に続いてティアも医務室へと入ってきた。この2人、俺が目を覚ますまで待っていてくれたのか……いいなあ、こういうの。めちゃくちゃいい奴らじゃないか。
「まずは優勝おめでとう!」
ドラゴズバが満面の笑みで俺の眼前に右手を突き出してきた。どうやら俺と握手したいようだ。じゃあ寝たままってのは駄目だよな。
「ああ……ありがと」
俺は上半身を起こして、ドラゴズバの手を握って後悔した。ドラゴズバの握力が異常に強かったからだ。小指が折れたかもしれない。
「それにしてもさあ、まさかヤマが優勝するなんてね。あたしびっくりしちゃった」
「まったくだ。しかも相手は『エターナル』のバリアール・ハリスだぞ? 彼に勝ってしまうとはな」
「ねー! 闘技場中、凄い騒ぎだったわよ、もうドッカーンッ! って。みんなすっごく喜んでた」
『エターナル』か。確かギルドランク1位って実況が言ってたな。2人の反応を見るにだいぶ有名らしいな。俺は全然知らないけど! まあもともとこの世界の人間じゃないから当たり前か。
そうだ、ちょうど話題に上がったしこの際聞いてみるか。聞かぬは一時の恥、知らぬは一生の恥って言うしな。
「ああ、『エターナル』ね。ところで、そこってどれぐらい凄いの? 俺よく知らなくて……」
俺が苦笑いしながら質問すると、2人が俺のことを「こいつ人間だと思ってたらゴリラだった」というような目で見た。
「『エターナル』知らないの!?」
ティアがベッドを両手で叩き、顔をグッと近づけてきたので俺は思わず目をそらした。だって草食男子だからさ。
「我々をからかってるんだろう……? 二足歩行で言葉を話せるのに『エターナル』を知らないなんて、そんな……」
「ほんとに知らないの……? 嘘でしょ……」
マジか。1位とは言え、そこまで有名なギルドだったとは。もっと気軽に教えてくれるもんだと思ってたのに、ティアもドラゴズバもドン引きの一歩手前まで引いてるじゃないか。
そうだ、聞くならこの2人じゃなくて後で案内人に聞けば良かったんだ。案内人だけだよ。俺の事情を知ってるのは……
「褒めても何も出ないぞ」
あれ、なに? 案内人さん、俺の心読めるようになったの? いやそんな事よりこの場をやり過ごさなければ!
「ハハハ、いやジョークだよジョーク! アメリカンジョークだよハハハ」
必死に取り繕ったところで重大な間違いに気づいた。
アメリカンジョークって何だ? この世界にアメリカなんて名前の国あるわけないのに。
「なーんだ。やっぱり冗談だったのね!」
「まったく人を驚かせるのが得意な男だ。ははは!」
アメリカあるのか……この世界にも……いやよく分からん単語をスルーしただけだよな。俺も前の世界で良くスルーしたわ。レガシーとかそういう単語を。
「もう、ヤマったら……あっ、そうそう! これ運営の人から渡しておいてくれって頼まれた賞金。100万ゴールド!」
ティアが懐から一枚の金貨を取り出し、俺に渡してきた。なるほど、確かに「100万」と書いてある。分かりやすくていいな。
「ほう、清廉潔白だな! 他の出場者なら持ち逃げしても何もおかしくないというのに!」
「やだ。そんな泥棒みたいな真似しないわよ。あら、もしかして貴方ならそうしてたの?」
「やるわけない! はははは!」
ほんと闘技場出て良かったよな俺。こんな良い奴らと出会うわ、賞金100万ゲットするわで。一石二鳥じゃないか。
しかし100万か……大卒の初任給5ヶ月分を1日で稼いだわけだ。証明書発行しても99万6500のお釣りが来るぞ。こりゃいいや。働かなくても、半年は暮らせる。
俺がニヤニヤしていると、何やら優しげな曲が耳に入ってきた。
「む、おい2人とも。もう午後の5時だぞ」
ああ、そういうやつか。
「そうね。どう? ちょっと早いけど3人で夕食でも」
「そうだな、私は構わんが我が友よ、どうだ」
断る理由が見当たらない。俺はすぐに頷いた。
「決まりね。それじゃ行きましょ!」
俺はベッドから足を出し、地面に立ち上がる。
もう痛みは消えていた。