ホームルーム
暁斎を慰め、暫くすると教室に先生が入って来た。
「お前ら、席に着け!」
その声でクラスに居た生徒が席に着く。
「今日からこのCクラスの担任をする事になった、速水 智恵だ。何か分からない事があれば聞いてくれ」
どうやら僕達の担任は試験の日に試験監督をしていた先生で実技試験の時に僕の相手をした人だ。
どういう異能を持っているかは分からないが、実技試験の時に常人では反応出来ない程のスピードで攻撃して来たので、身体能力強化や加速系の異能なのではないかと考えている。
「私の簡単な自己紹介が終わった所で、お前達に自己紹介をしてもらっても良いのだが、どうせ一度に自己紹介した所で覚える事は出来ないだろうからしなくて良いだろう。では今から具体的にこの学園で何をするのかについて説明する。まず知ってると思うが、この学園は異能を持った異能者を集め、魔獣と戦う術を学ぶ為の場所だ。従ってここでは普通の一般教養に加え、訓練の時間が儲けられる。具体的には午前に一般教養の授業があり、午後に訓練といった様な感じだ。ここまでで何か質問ある者はいるか?」
それに対し一人の女子生徒が手を上げる。
「先程、異能者に魔獣と戦う術を学ばせると言いましたが、中には、戦闘に全く向かない異能を持った人もいる筈ですが、そう言う者も魔獣と戦わらせられるのですか?」
確かに戦闘に向かない異能を持った者が、魔獣と戦うなど自殺行為以外のなににでもないだろう。
「それに関しては、戦闘に向かない異能を持っている者が魔獣と戦うのは、無謀だろう。なのでそういった者には、それぞれの異能にあった仕事をしてもらうか、魔獣と戦う者の後方支援をしてもらう事になる」
なるほど、当たり前かもしれないが、適材適所と言う事なのだろう。
「ありがとうございました」
「他に質問がある者は居るか?」
そして今度はこれに対して誰も手を上げない。
「では質問は無い様なので次にこの学園の敷地について説明する。まずこの学園の敷地は見た通りとても広い。そのため学園の敷地には沢山の施設があり、ある程度の生活必需品や武器なら学園の敷地内で買う事が可能になっている。まぁ、買うと言っても国から金が降りてくるから殆ど無償で手に入ると言っていい」
····それは凄いな。つまりこの学園には生活に必要な物が殆ど揃っていて、しかもそれが殆どただ同然で手に入ると言うのだ。···これは幾らなんでも待遇が良過ぎるのではないだろうか?
「黒霧の顔に出ているが、これは待遇がとても良い。つまり、強制的に戦わせられる異能者への報酬と言う事だ」
どうやら顔に出ていた様だ。それにしても報酬か···。それって言い回しは良いが、悪く言えば援助してやるから戦えと言っているのだろう。
まぁ、理由はどうあれどちらにしても戦う事になるのだからどうでも良いだろう。最悪の場合は姿をくらませて、また暗殺者として働けば良いのだ。
「では最後に寮について説明する。この学園の寮は男子寮と女子寮に分かれて居て、二人一組で1つの部屋を相部屋で使う事になっている。因みにまだ相部屋になる相手は決まっていない。なので今から少し時間を取る。その間に諸君らは相部屋で一緒になる相手を決めてもらう。もしペアが決まらなかった場合はこちらが勝手に余った者で相手を決める事にする。では相手が決まった者から私の所に言いに来てくれ」
どうやら学園の寮は相部屋になっている様だ。
つまり僕も相部屋の相手を決めなければならない訳だが、現時点での僕の男友達は1人だけだ。
「暁斎、一緒の部屋にならない?」
「お、良いぞ。丁度俺もそれを聞こうと思っていた所だ」
「助かったよ。まだ僕には男友達が暁斎しか居ないから断られたらどうしようと思っていたんだ」
どうやら暁斎も僕に相部屋を誘う気だったらしい。
まぁ、これで性格も分からない相手と相部屋になる事が、無くなったのでよかった。
「そうなのか?ん?よく考えたら俺もこのクラスには男友達は常夜しか居ないわ」
「そうなんだ。じゃあ、丁度良かったね。それと改めてよろしく」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
僕は相部屋の相手が決まったので周りを見ると、まだ他の人は相手が決まって無い様だ。
「暁斎、先に先生に言いに行こう」
「ん?ああ、良いぜ」
そして僕達、は報告の為に先生の所に向かった。
「先生、相部屋の相手が決まりました」
「ん?ずいぶんと早かったな。黒霧と堅木だったか。もっと時間が掛かると思っていたんだが、元々知り合いだったのか?」
「いえ、僕達は偶々試験の時に知り合いになりました。それと、他の人達はもう少し時間が掛かりそうです」
「そういえば、お前達は試験の時に一緒にいたな。それなら早いのも納得だな」
「では先生、相部屋の方はよろしくお願いします」
「ああ、了解した。お前達2人はCランクでも上位の強さを持っているからな、お前達には期待している」
「ありがとうございます」
僕はこれに返事を返すが、暁斎は何も言わない。
「暁斎?」
先程思っていたのだが、暁斎が妙に静かだ。何かあったのだろうか。
そう思い暁斎の方を見ると、暁斎が真剣な顔をしていた。
「先生、この前の試験では負けましたが、俺はいつか強くなって、絶対に勝ちます!」
すると暁斎が急にいつか勝ちます宣言をしだした。
「そうか、ではそれまで待っていよう」
「ありがとうございます」
そして暁斎はそう言うと離れて行った。
どうやら暁斎は試験の時に負けた事をずっと根に持っていたらしい。
「あっ、僕も失礼します」
そして僕もそう言って、先生の元を離れた。
「悪いな、ついお前を置いて1人でこっちに戻ってきちまった」
僕が暁斎の所に戻ると、暁斎がそう謝ってきた。
「別に謝る程の事でもないし、気にしなくていいよ」
「そうか、でも今度からは気を付ける様にするわ」
「うん、そうすると良いよ。····それにしても暁斎って意外と負けず嫌いだったんだね。まさか先生にいつか勝ちますって宣言するとは思ってなかったよ」
「うっ、別にそこまで負けず嫌いって訳ではないんだけど、このままの試験の時に俺の攻撃を全部いなすか避けるかして手も足もでなかったから、ちょっと悔しくてついな」
「なるほど、じゃあ強くならないといけないね」
「ああ、それに此処は強く魔獣と戦える様に、戦い方を教えてもらえる場所だから、強くなるには最高の環境だ」
「そうだね。じゃあ僕も暁斎において置かれない様に頑張るよ」
「おう、お互い頑張ろうぜ」
「うん」
そして僕達は会話が終わると、丁度周りの人達も相部屋の相手が決まったらしく先生に言いに行っている。
それから暫くして全員が相部屋の相手が決まった。
「全員ペアが決まったな。取り敢えずは、学園についてはこんな所だ。それと学園については、一様簡単な説明はしたけど、今から配る冊子は読んで置いてくれ。これには学園の地図や注意事項なども書いている。これで今日のホームルームは終わりだ。寮の部屋については、クラス事に使える部屋が決まっているので、寮の受付に聞けば分かるだろう。昼飯は食堂で無料で食べられるからそちらで食うと良い。では解散」
「常夜、今からどうする?」
ホームルームが終わると、暁斎がこれからどうするか聞いてきた。
「う〜ん、一度寮に行っても良いんだけど、ピークの時間に行くと絶対に混むと思うから、まだ少し早いけど昼飯に行かない?」
「そうだな、そうするか」
「じゃあ、まず食堂に行こう」
「おう、てか、食堂って何処だ?」
「学園の校舎に1つと、後は寮に1つの全部で2つだよ」
「え、常夜は何で知ってるんだ?学園の地図が乗ってる冊子って、さっき配られたばかりだよな?」
「ああ、それは試験の時に場所を教える地図が貼ってあったじゃん?それを覚えていたんだよ」
「覚えてたってまじかよ!流石9位だな」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいけど、煽てても何も出ないよ?それより食堂だけど、多分寮の方は混んでるかもしれないから、校舎の方の食堂に行こう」
「おっけー、じゃあ行くか」
「うん」
_______
食堂に着くと僕はその広さに圧倒された。
「凄いね、学校の食堂ってこんなに広いんなんて知らなかったよ」
「いや、流石に普通の学校はこんなに広くはないだろ」
「えっ?そうなの?」
「ああ、確かに学校の食堂は何処も広いけど、流石にここまで広いのは、多分学園くらいだな」
「へぇ〜、でもこんなに広いなら早く来る意味は余りなかったね」
「いや、そうでもないと思うぜ。確かに広いが、昼飯をもらう場所が混んでたら、結構時間掛かると思うぜ」
「なるほど、そこまで頭が回らなかったよ」
「因みに俺は日替わり定食の大盛りにするつもりだけど、常夜はどうする?」
そう言われて僕は壁に貼ってあるメニューを見る。
「う〜ん、じゃあ僕も日替わり定食で良いや」
「そうか、定食は一番手前の所みたいだな。流石に時間が早くからそこまで人は多くないけど、いない訳じゃないから急ごうぜ」
「うん、そうだね」
そして僕達は定食がもらえる場所に並んで料理をもらう。
因みに今日の定食はご飯に豚の生姜焼き、味噌汁やその他のおかずだった。
「美味しそうだね」
「ああ、これがただなんてびっくりだよな。早く食おうぜ」
そう言って暁斎は近くの空いている席に座ったので、僕もそれに続く。
「じゃあ食うか」
「うん」
「「いただきます」」
そして僕達は定食を食べ始めた。
「そういえば常夜、お前って事情があって学校に行ってないって言ってたけど、今まで何してたんだ?」
そして料理を食べていると、暁斎がそう聞いてきた。
「ん?ああ、生活費を稼ぐ為にアルバイトをしてたよ」
流石に暗殺でお金を稼いでいたとは言えないのでアルバイトと言って誤魔化す。
「生活費って、常夜は家族はいねーのか?」
「うん、家族と言える人はいないね」
「そ、そうなのか、何か悪いな」
「ううん、気にしなくて良いよ」
「そうか、でも親がいないなら、施設か何かに行けば良かったんじゃないか?そしたらアルバイトとかしなくて良いし」
「確かにそうだけど、そこも色々事情があったんだよ」
「そ、そうか。·····余り常夜の昔の事は聞かない方が良いな·····」
「ん、何か言った?」
「いや、なんでもないぜ」
「そう?」
そこで話が切れたので、僕達は食べる事に集中する。
「「ごちそうさまでした」」
暫くして僕達は定食を食べ終わった。
「暁斎って食べるの早いんだね。大盛り頼んでいたのに僕よりも早かったよ」
「そうか?常夜は口が小さい(女の子みたいに)からじゃねーか?」
「なんか今馬鹿にしなかった?」
「い、いや、してねーよ」
「そう?」
「ああ。ところでこれからどうする?」
「そうだね、僕は一度寮に行って、それから時間が余ると思うから学園の敷地内を見て回る事にするよ」
「お、楽しそうだな。それなら俺もいくぜ」
「じゃあ、寮に行こう」
「ああ」
そして僕達は寮に向かった。