道は違えど差は生じる。
「やっぱ、伊月じゃねぇか!久しぶりだな!。」
気づくや否や、口を滑らすその勢いに一瞬押し倒れそうになる。
新垣 良平。高校時代の同じ陸上部で高2の時はクラスも同じだった。
「...久しぶり、てか何でいるの?。」
「何でって、英語習いに来たんだよ、本場のな。」
したり顔をして彼は言う。
建築の専門学校に行った奴が何の気まぐれか。
「みんなの言う本場は、アメリカの方だと思うけどね。」
「は?!まじ?イギリスってイングリッシュだろ、あれ、ブリティッシュだっけ?。」
戸惑う良平を見て、頬が緩んだ。
そう言えばこういう奴だった。
「おーい、良平。はやくこっち来いよ。」
後ろからそんな声が聞こえる。
見ると、他に数人居るようだ、良平の友達なのだろう。
「あー、わりぃ、友達見つけた。こっちで行くわ!。」
手を振りながらそう言うと、そのメンバーは納得したのか、何処かへと行ってしまった。
「いいの?。」
「良いんだよ。一人の奴は見捨てれないタチでな。」
見透かされていたか。
そう言えばこういう奴でもあったか。
「....そりゃどうも。」
イギリスの街並みは、日本とは大分変わっている。
都市部にも中世じみた建物が至る所に立ち並び現代的な摩天楼が立ち並ぶ東京とは一線を画していた。
ここは有名な観光地らしい。
先程から世界史の資料で見たような建造物が度々眼に映る。
それに興味はあるものの、わざわざ近づこうとは今の気持ち的に思わない。
勉強してる時にいつかは見てみたいと思っていたがこれは機会を間違ったかもしれない。
「なんだよー、つまんなそうな顔して。」
良平が怪訝な顔をしていた。
「...いや、別に。」
ふーん、と流すように良平は言うと、
「そう言えばお前今何してんの?。」
旨のチクリとした。
「..何って語学研修だけど。」
「いやいや、そうじゃなくて。」
分かってる。ただ誤魔化したい少し後ろめたい気持ちが伊月にはあった。
「....浪人してる。」
しかし、その言葉に良平が察することなく、
「へぇ、どこ目指してんの?。」
「国立の医学部、今年も落ちたけど。」
「マジかよ、すげぇな。」
「いや、落ちたって。」
察しろ、マジで。
あー、と良平は相槌を打つ、そして、伊月の今の状況を理解したようで彼の口から言葉が途切れた。
しばし沈黙の中二人で歩く。
「...でも、凄えよ。」
ふと、良平がそんな言葉を漏らす。
「...いや、大したことないよ。落ちたら意味ないし。」
「でも、そのために毎日何時間も勉強すんだろ?俺には出来ねぇな。」
次になんて言えばいいか分からず言葉が詰まる。
「....でも、結果が出ないと意味なんてないよ。良平も知ってるだろ。」
呆れ混じりの笑いが出る。
高校の最後の試合、実力主義だった陸上部ではメンバーを決めるためのタイム付けが行われる。その四人の中に良平は選ばれなかった。4位との差は0.02秒。その神の気まぐれとも言える差で彼は引退試合を逃した。
一番、あの時練習していたのは間違いなく良平だった。
「引退試合のこと言ってるなら意味ないとは思ってないぞ。」
「え?。」
思ってもなかった言葉に間の抜けた声が出る。
「いや、だって、杉浦って今、全国大会まで行ったんだぜ。そいつをあそこまで追い込めたなんて一生もんだろ。」
それに、ベストは尽くした。最後にそう付け加えた。
その声に偽りはないように聞こえた。
自分にそのくらい言えるものがあったか。
それが人としての差なのかもしれない。
その差はこの一年でどれだけ広がってしまったのか。
もう伊月の知っている高校時代の良平とはきっと違う。
そう思うと、少し前を歩く男の姿がさらに遠のいた気がした。