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あたりまえ

作者: 3ヶ月

分からなかった。どうしてそんなにいつも笑顔なのか。

そいつはいつも笑顔だった。僕のそばにいる時はいつもだった。

僕が笑うと、そいつも笑顔になった。

僕が泣くと、そいつは笑顔で慰めてくれた。

僕が怒ると、そいつは笑顔で「ごめんね」と言った。

僕がそいつのことを馬鹿にしても、いつも笑顔だった。


僕には分らなかった。なんでこんなに笑顔でいれるのか。

そいつが泣いたところは一度も見たことがなかった。

そいつが怒ったところも一度も見たことがなかった。

そいつの笑顔以外、見たことがなかった。


そいつといる期間が1ヶ月、2ヶ月と増えるにつれて、

そいつが笑顔でいることになんら不思議はなくなった。

それが当たり前だったから。


ある日の事、僕がそいつの家に何も言わず、突然遊びに行った。

その時のそいつは驚いた顔をしつつも、いつもの笑顔を顔に浮かべて出迎えてくれた。

そして初めてそいつの部屋で過ごしている時に、僕は本棚の端に見てしまった。

大量の薬を。

ただ、そいつが元から体がそれほど強くないのは知っていたから、特に気には留めなかった。


それから数日後、そいつはいなくなった。

メールしても、電話をしても、家に行っても、そいつはいなかった。

そいつの友達に聞いてみても、皆首を横に振るだけ。

誰もそいつが今どこにいるのか知らなかった。


どれだけ探そうにも、そもそもそいつがいなくなるなんて予想してなかったから、

手段がなかった。

そいつが帰ってくるのを祈って待つしか僕には手段がなかった。


それから数週間後、そいつはふらっと帰ってきた。

ただ一言、(ごめんなさい)という連絡だけが来た。

僕はすぐにそいつの家に向かった。


インターホンを鳴らすと出てきたそいつの顔には笑顔がなかった。

初めて見た、無表情の顔

僕は何も聞けなかった。

普通が普通じゃなくなったのに気が付いた瞬間、怖くなって逃げだしてしまった。


それから数日後、そいつは死体で発見された。

死因は睡眠薬の大量摂取らしい。


涙も何も出なかった。

ただただ自分の無力さと馬鹿さに腹が立っていた。


そいつの部屋の遺品整理に立ち会った。

初めて部屋の中をゆっくり見た。

初めてこいつの家に来た時に見た薬は、鎮痛剤に睡眠薬。

それが大量にあった。

近くには血の付いた剃刀の刃があった。


僕は気づいてなかった。

いつもの笑顔は張り付けていただけ。

必死に自分と戦っているのを悟られないようにするためのフェイクに過ぎなかったのだ。


なにもわからなかった、当然と思って分かろうともしなかった。

知るのが怖かったから。


その時、近くに日記を見つけた。

開くと、そこにはきれいな字で、毎日のことが事細かに書かれていた。

僕と過ごした時間の事、

僕と笑いあった日の事、

僕に怒られた日の事、

僕が泣いていた日の事、

そしてそいつがいなくなった日の事。


そいつは、僕たちの前から姿を消した時、どうやら入院していたらしい。

病名は自律神経失調症


そいつの日記はそいつが死んだ日まであった。

「私が死んだとき、悲しんでくれる人が1人はいる、それだけで幸せな人生でした」

最後の方は濡れたのかにじんで読み取りにくかった。

僕はその場で座り込んでしまった。






















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