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姉弟戦争  作者: 雪水 湧多
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沈みゆく心と体

また、同じ光景、体験を繰り返した。

僕は昨日と同じように缶コーヒーを買って小学校に行き同じように変な臭いを嗅いでいる。

目の前にあるのは昨日と全く変わらないカラスの変死体。

なぜ学校側はするべき処置をしないのか?

生徒が遊びで突いたりして傷が付いていることがあってもいいはず。なぜ、こんなに綺麗なまま残っているのか?

蟻さえ寄り付かない理由は?

本当にこいつは死んでいるのか?

ありえない、生きているのならこちらを睨むはず。じゃあ、なぜだ?

いくつもの疑問が頭をよぎっては消える。考えているうちに臭いには慣れ、光景にも慣れた。気分は最悪だが、それでも昨日よりはマシな方だ。

そのうち考えるのが馬鹿馬鹿しくなりその日は帰った。


次の日、今日も夕方になれば姉が僕にからかってくる。部活帰りの姉は汗を気にしていないのか汗臭い。これならカラスの変死体の臭いを嗅いでいるほうがマシだ。気分的にも。

「ねぇ、今日は学校、行った?」

「...行ってない」

痛いところを突いてくる。

「行けよ」

行ってられるか!あんな学校!

「...う、うん...」

もううんざりだ。

実は今、僕は学校を休学している。言わば高校生という肩書きのニート。そろそろ学校を変えるつもり。言葉では簡単だけれど、実際はそう簡単ではない。父から自分で学校を探すように言われているし、昼間は家事をしなければならない。しかも、ゲームやアニメなどの娯楽は夜限定。休学なのにストレスは溜まる一方だ。みんなと同じような生活ということで夜限定でしか娯楽はできない。

正直なところ、僕のストレスの原因は姉を主にした家族だ。

高校に進学したことで自分の環境の変化に日々ストレスが溜まっている自分が耐えきれなくなり休学している。それを親は分かっていない。ストレスの原因が学校と思い込んでいる。その事実を親に言えば僕は...ほんとどうなってしまうんだろ。

考えたくなかった。

「ねぇ、空」

「何?」

「ちょっとさ、支払い行ってきてくれない?」

「はっ?」

「フリマアプリの支払い、コンビニで」

「金は?」

「そこに私の財布あるでしょ?そこから必要なぶんだけ取って行って」

ピロン

携帯が鳴った。姉の支払いをするための詳細データが送られてきた。要は商品番号と金額。

「分かった、八時くらいでいい?」

「いいよ」

姉はリビングのソファに寝っ転がりながら携帯をいじりながら返事をする。

今は六時ちょっと過ぎ。お風呂には入っているので夕飯の準備と夕飯を済ませれば少し自分の時間ができつつ八時になるだろう。

このまま過ごしているとやがて心身ともに壊れるのではないかと思えてくる。今こうして姉と話せているのは自分を押し殺し、自分の意見を殺し、全て姉優先にしているからこそやっていけている。なので、感情を表に出すことができないため僕の声は淡白な返ししかできない。

もう嫌だ。


午後八時。見ているアニメがちょうど終わった。玄関へ向かいつつ黒いパーカーを羽織り。

靴を履く。

「支払い行ってくる」

「...」

母でさえこの対応。僕はもうこの家の奴隷なのか?

ドアを開け、家を出る。いつものようにイヤホンをしてコンビニへと足を向ける。

淡々と歩いているからかすぐに着いてしまった。

特に買うものも無く、ただの支払いを終わらせてコンビニを後にする。後は自由。なのでわざわざ自販機で缶コーヒーを買い、また小学校へ足を運んでいく。僕は人付き合いが苦手だ。

小学校に着くと、昨日、一昨日のようにカラスの変死体を見ることになった。

このカラスを見ていると将来の自分のように見えてくる。

誰からも救われなかった。

誰からも必要とされなかった。

誰からも無視され続けた。

誰からも奴隷として扱われた。

誰からも目をくれられずただ一人で死んでいく。後処理もされずに。腐っていく。

そんな自分に思えてきてしょうがなかった。

せめて自分が埋めてやろうと思う。

その行為は将来に対しての希望だ。自分もこうやって最後には慈悲でもいいから後処理されるように。

と。

埋める場所は裏庭でいいだろう。木のそばに埋めれば葉っぱやらなんやらであまり怪しまれないだろうから。

小学校のシャベルを持ってくる。場所なんて卒業生だから問題なく分かった。

木のそばに縦横深さ三十センチ程度の穴を掘る。そこへ、シャベルですくい上げてきたカラスの変死体を放り込む。雑かもしれないが自分にはこんなもんで十分だ。

穴を塞ぎ、上から葉っぱをかけて終了。

少し汗をかいたが問題無い。親には少し遠くまで歩いてきたとでも言っておこう。

「さて」

手を合わせ。合掌。

五秒ほど合掌をするとなんだか寂しさと虚しさを感じる。

「夜外に出たら来てやろう」

なんて、思えた。


家に帰ると

「どこまで行ってきたの?遅かったじゃん」

訳すと

『遅い、どこまで行ってきたんだ!早く家事やれ』

「少し遠くのコンビニに行ってきたんだ」

訳すと

『近くのコンビニで支払いと小学校でカラスを埋めてきたんだよ!』

なんて脳内変換する。数少ない僕のストレス発散。もちろん非効率的。どうせまた溜まるからね。

「おい!空」

父からだった

「来い」

「...?」

わけもわからず父について行く。

連れてこられたのはリビングのソファ。

「座れ」

「...」

「お前、少しは考えたのか?」

「何を?」

「ここから先のこと」

「まぁ、多少は」

もちろん嘘

「具体的に言えば?」

「とりあえず通信制に行きたいと思ってる、だけど色々あるし、ここら辺は少し遠くになるから朝大変だからとか考えた」

アドリブでやり過ごす。

「ふーん。で?今はどうすんの?」

意地悪な質問きたよ。

「とりあえず、今は...休みたい」

本音を混ぜる。どんな反応するか...予想はつくけど。

「家にいる以上家事はやってもらうし、通信制行ってもいいけど、今の高校に使ったお金を返せ。そのためにバイトしろ。家に居たって仕方ないんだから。嫌なら出で行け」

やってられない。少しでも休みたいのに。でも、わからなくも無い。休みたいなんてこの時期には叶えられないぐらい分かってる。目の前には夏休みがある。それまでほとんど休んできた。それでも心は、体は休まらなかったのに、そんな身体でバイトしろ?今度こそ壊れるわ!

少し前。

無理して追試を受けた。四日間だったが。結果的には二日間と半日しか行けなかった。三日目の午前中にストレスや緊張感でパニックになり意識を失って、午後から行ったが四日目でいろんな先生から、「午後から行くなんてどうなの」と声が上がってると担任に言われ、四日目は帰った。

それ以来学校に行くことすら嫌になっている。

「...」

「...」

僕はもう嫌だ。こんな人生。

「少し考えさせて」

おぼつかない足取りで洗面台に行き歯を磨き、トイレに行き。布団に入った。


延命処置で終わらせた。

いや、延命処置で精一杯だった。

この日、布団で泣いた。親が寝ているから、布団に包まって、すすり泣いた。バレないように。

泣いた。

全部理解できないかと思います、この先回想を何度も入れると思うのでよろしくお願いします。

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