沈み始めた心と体
嫌なことがあった日には夜道を歩く。
僕の数少ない低効率のストレス発散法。
親にはいつも
「自販機行ってくる」
で、親の反応待たずに家を出る。
姉については無視、無視しなければやってられない。いちいち相手にしてると体がもたない。
「...」
無言で家をでる。
歩いて2分もしないところに自販機があるのだがいつも帰りは40分ぐらいかけたりする。
家の敷地を出て、道路に出る。
敷地から出ると一気に開放感を感じる。
家の敷地を出ただけでこんな開放感を感じるとなると自分がどれだけ家に居づらいかよくわかる。
敷地を出たところでイヤホンを携帯とつなげ耳につけ音楽を聴く。自分の世界に入るために。集中するために。少しでも忘れたり、家の認識を薄くするために。
右折して、少し進み信号を待つ。
信号が赤から青になると道路を横断し、自販機の前に立つ。そこにはこの季節にラインナップされているジュースやコーヒー、スポーツドリンクに水、そして受験生の味方栄養ドリンク。
ここの栄養ドリンクには高校受験の時にかなりお世話になったな、と思いつつ小銭入れを確認しいつも通りポイントカードと140円投入。迷わず大きめの缶コーヒーのボタンを押す。瞬間。
ガコン
いつも思うが結構早いと思う。ボタンを押してすぐに落ちてくる。
ピピピピピピピピピピピピッ...
並んだ数字は1112。この自販機はくじ付き。
数字が揃えば、選んだ飲み物以外でもう一本もらえるというが、当たったのは一回だけ。父は会社で一ヶ月に一回は必ず当たると言うが結構疑っている。
シューゥ
ポイントカードが返却された。溜まったポイントは41。最大100ポイント。最低50ポイントでポイントカードを送れば交換してもらえる。
ちなみに今使っている小銭入れは50ポイントでもらった粗品だ。実は結構気にっている。そんな小銭入れにポイントを入れ、缶コーヒーを取り出しすぐさま開けて一口含んでその場を立ち去る。もちろん家には帰らない。次の目的地は...
目的地に着いた。
小学校。僕の母校。ここにはまだ残っていた喜怒哀楽の思い出が詰まっている。
あのころはまだ、純粋だったなぁ。
正直苦い思い出が多い僕の人生なので思い出すことが嫌なことばかりである。
授業参観のすうが...算数の授業の発表で掛け算のばってんの書き順を間違えたこと
女子のおーいという掛け声が自分にかけられたわけでもないのに反応してしまったこと
女子のいじめっ子に砂をかけられたこと
図工で純粋に父のために作ったものをすぐに父に捨てられたこと
詩をなかなか覚えられずに冬休みの前日である終業式の日にやっと覚えて先生に言えたこと
男子のいたずらでズボンを降ろされたこと
スピーチで必ず泣いていたこと
卒業式の群読練習でなぜか何度もみんなの前で泣くまで練習させられたこと
...などなど思い出すだけで嫌になってくる。
だか、ここに来た理由は人がいないということ。なにせ田舎な町だから学校に残る先生はあまり多くない。一応セキュリティはあるが敷地内に入るぐらいは問題ない。校舎内に入らなければいい。あまり良くないが。まぁ、問題ないだろう。
門をくぐり抜け、滑り台、登り棒複合遊具、登り棒、ジャングルジムを通りいつものようにトイレの前に座り込む。ここまでくるのに缶コーヒーを飲んでいたが少し大きめのを買っているのでまだかなり残っていた。微糖なのでほのかに甘い。だけど苦い。まるで自分の人生のようなのであえて微糖を選んでいる。
座りながら考える。
これからの人生を。正直今僕の人生はゲーム的に考えると詰んでいる。
「どうしたもんかな」
もう口癖になっていた。
「ふぅ」
ため息をつく。
そういえば、小学生の頃ため息をついたぶんだけ幸せが逃げるって言われたな。うん。その通りな気がする。
あまり考え込むと良くないので空を見上げる。
夜空は少し曇っていて月が隠れているのが見て取れる。星は少し見えるが僕からすると星は見づらい。視力が悪いわけじゃないけど、見づらい。まぁ、眼科行ってもよくわからないでたらい回しにされてるからもう治る見込みもないけど。
そんなことを思いながらコーヒーを口に含む。
やっぱり苦いけどほのかに甘い。
「さて行くか」
トイレはグラウンドの北東の端にあるのでそのまま南に進めばグラウンドから道路へ出られる階段がある。そこに向かう。
「はぁ」
空を見上げるが相変わらず、月は見えない。
ここまま僕の人生はお先真っ暗かな
なんて思った矢先、嫌な匂いがした。
「何?臭い」
臭い、獣臭い、腐敗した匂いはしないが、ただ臭い。血の匂いはしなかった。ただ気になってしまう。好奇心が湧き出てくる。
匂いを頼りに足を運ぶ。
たどり着いた先は、倉庫の前だった。近くに池があるがいたって静かだ。
倉庫の前には何かがある。黒い何か。
月が雲から出て来た。
月明かりに照らされその黒い何かは姿を見せる。
「カラスか?カラスだなあれは」
カラスの死体。
外傷はなく、不自然なくらい綺麗な死体。羽さえ取れていない。
触る気にもなれないが、死因が気になってしまう。
「このカラスに何があったんだ?」
周りを見渡すが何も特に異常もない。
「まぁ、なんにせよ明日になれば学校の人がなんとかするだろう」
そう思い込む。
「...」
なんだか視線を感じる
怖くなった僕は、帰ることにした。
缶コーヒーは帰り道には飲みきり、新しく普通のよりカフェインの多い黒い炭酸飲料を買って飲みながら帰って来た、忌々しい家に。
帰りたくないが、家だから仕方ない。
「アニメでも見るかな」
さっきのカラスを忘れるための気晴らしだ。
嫌々玄関を開け家に入る。そして、玄関の鍵を閉め靴を脱ぎイヤホンを取る。当然こんな人たちに言う「ただいま」も無い。冷たいかもしれないが、基本家族では挨拶をしない。なので、問題ないのだ。そして子供部屋のドアは閉まっており音を立てずに帰ったために姉は気づかなかった。
キッチンで缶を缶のゴミ箱に捨て。リビングに行き。自分のパソコンの椅子に座る。すぐさまパソコンを立ち上げ、DVDを入れる。DVDの中身は地上波をダビングしDVDにしたもの。
今回見るのは、魔術を使うというファンタジーもののアニメだ。ファンタジーものは結構好きで現実を嫌う僕からすると羨ましい限りの世界。当然僕には魔術なんて使えるはずがない。だって、ここは現実。つらい現実。
なんて羨ましがっていると、アニメでカラスが出て来た。カラスを使い魔にしていた。そのことでさっきのカラスをまた思い出してしまった。
「うぅ」
気分が悪くなった。
直ちに視聴をやめ、パソコンをシャットダウンし歯を磨いて寝る。
今日は最悪だなぁ、明日には忘れていることを願おう。
イヤホンをまたつけ、今度は海の波の音を流す。寝付けられるように、忘れるように。
この日の月は綺麗であった。
結構説明多いですね今回。それなりに楽しんでいただけると幸いです。




