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京都秘立魔術學院  作者: 花様月蝶
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壱話

 日本の古都、京都。美しい自然、華やかな装飾が施された寺院、それを目的とする観光客。京都は年がら年中人で溢れているといっても過言ではない。街並みの石畳が綺麗な道は勿論、「清水寺」や「金閣寺」などの有名観光地にもなれば人が進むのが遅くて億劫に感じる。何故早く進まないのか、苛立ちが募って暴れだしたくなるのを抑え、目的の神社に向かう。


 神郷しんごうゆかり、15歳。高校受験を迎える中学三年生、今は家族で京都に旅行に来ている。仕事で忙しい父がゴールデンウィークに最多と言われる10連休の休みとなり、家族そろって久々の遠出になった。京都に来るのは今回で15回目。一年に一回は訪れているほどの京都ツウ家族である。家族全員が京都ツウではないが特に父と一番上の弟が好きなのである。父方の祖父母が地元の小さなお寺の管理人の家系で、父は幼い頃から日本の神話についてよく聞かされていたようだ。天照大御神やら、大国主命やら、興味のない私にとっては何のことやら分からないのだがとても凄い神様だということは抑えている。とにかく神話物や神様が好きで父は神社や古くから伝承がある京都などが好きなのだ。一番上の弟、あいは根っからのおじいちゃんっこ。両親よりも祖父に懐き、夏休みなどは藍だけ家にいないこともあった。幼い頃から父と同じく神話を聞かされていた藍も京都好き。休日になれば京都に行きたいと言い出す始末。自身も父と同じく神話物などが好きで一番好きな神様が、大国主命。「大国主命って伊勢神宮では?」と祖父から延々と聞かされ続けたかすかな記憶がひっかかていた。しかしそれを言うと機嫌を損ねてしまいそうなので胸を内に顰めておいている。


 「全く…飽きないものねェ。どれもこれも知り尽くしたじゃない…」

はぁっ、と溜息をついたのは母であった。我が神郷家を支える大黒柱。世界的に有名な会社の社長代理として海外で働いている。家族旅行ということで久々に我が家に帰省してきた、そして母方の祖父母の家に帰省する、家は京都にある。私と二番目の弟、あかは母方の祖父母の方が好いている。母方の祖父母は厳格な家、作法などにも厳しい。母も祖父母に鍛えられ、学生時代ではそれなりに注目されていたらしい。母が務めている会社の三代目の社長である祖父と、その秘書であった祖母は私の性格に合っていた。多くを話さずそれ以外は黙っている。静かな空間を私は誰よりも好いていた。


 「ねぇ、お母さん」

 「何?」

 「会社の方は大丈夫なの?社長さんもいないんでしょ」

 「えぇ。何とかね、元を言えば社長あいつは休み無しなのよ…」

 「ははは、相変わらず自由奔放だね」

 紅は持ってきた本を静かに黙読していた、藍とは違い大人しいのはやはり、あの空間にこりもせず居たおかげなのかも知れない。私も本を持ってこれば良かった、まだまだ帰れそうにない。はぁ、と私も溜息を吐いた。




 「いらっしゃいませ、すっかり大人になりましたねぇ」

 「あら、咲世子さよこ!何十年ぶりなの!?あらまぁ、すっかり年をとっちゃって…」

 「あらやだ、お嬢様。私はまだ60代前半ですよぉ~!」

 新しいお手伝いさんでも頼んだのか。だが母と面識があるようなので前々に勤めていたのかもしれない。

 「お父さんはどこに?」

 「奥の部屋に居ます。案内致しますね」

  咲世子さんに案内されて部屋に入る。部屋にあるのは壁掛の絵と壺と花瓶にささっている質素さ飾りの花だけで他には何もない。相変わらず空間が多いなぁ、と毎回思ってしまう。毎年変わっていない。座布団に座っていた祖父、神郷しんごうさとる。顔にはしわが多いのだが眉間にしわを寄せてこちらをずっと睨んでいる、曲がっていない背筋を見るたびに、80歳とは思えない、詐欺だと訴えたくなる。

 「…………久しぶりね、父さん」

 母が小さく息を吸っていたのを見逃さない。いくら実の娘でも緊張するのだろう。いつでもこんな怖い顔なら誰だって緊張するに決まっている。父や藍に至っては前を見ようとはせず、しみ一つない畳に向かって一心に目線を注いでいる。紅と私は前を向いているが祖父のもう少し上にある柱の模様を見ている。模様がこちらを睨んでいる顔だと私たちの間では言われており、藍に至っては「おじいちゃんの顔が柱にもうつったんだ!」なんて泣きながら訴えていた。幼かった私もこっそりとそう考えていたのも今ではいい思い出。唯一堂々と祖父を見、堂々と話せるのは我が母しかいない。本当に尊敬する。

 「久しぶりだな。仕事の方はどうだ」

 久々に帰ってきた娘(飛行機で8時間、新幹線で約2時間、車に揺られて約5時間)の体など心配せず、仕事の成果を問う。この人の脳は仕事しかないのだろうか、折角娘と孫が遊びに来たっていうのに…。まぁこんなことを堂々と言えるのは誰もいないだろう。母も流石に言えないであろう。

 「何とかって感じ。日本人もフランス人も皆、手を取り合って働いているわ。あ、そうそう。実は私たち、あることを考えているの」

 祖父がッ口をはさむ暇も与えず母は喋る。

 「会社の方、海外進出もとっくに果たしているしその海外でも潤ってきている。日本でも株を投資してくれる人も増えてきている。それでその売上金を使って貧しい国にボランティアを……」

 「ダメだ」

 一刀両断、見事に真っ二つだ。

 「初代から代々集め続け、今では世界を代表する企業にもなった。我が社の製品ではない、世界に代表する企業になったのは富だ。我が社の商品は今の時代、どこにでもあるようなものだ。分かるだろう?今の立場に残るためには…巨額の富を誰にも渡してはならぬ。お前たちはそれだけを守ればよい、そもそも…」

 祖父は溜息を吐くと、冷たく冷酷な目で母を睨みつけた。

 「お前たちにはそもそも期待をしていないからな」

 ぐぅ…。母の手が力強く握られていたのを、私はただ見ることしか出来なかった。

 「話はそれだけだ、後は好き好きするがよいわ。ここが嫌な奴は出て行って泊まっても良いわ」

 ……父と藍のことだ。

 「部屋で好き勝手してもよい」

 …紅と母のことだ。

 「そして……紫は道場に来い」

 「……はい、師匠」

 私は頷き、自室に戻る。クローゼットを開け、袴を取り出す。一年に一回だけ袖を通す、祖父おさがりの袴。少し大きいが、動きに問題がないため気にならない。

 「……よし」

 気合を入れて自室を出る、さぁ稽古の始まりだ。

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