9 咎めた思い
私たちは客室で一息ついて、静かで少々長路たる廊下にでた。廊下は相も変わらず、薄暗く感じる。
客室を通り過ると、陳列棚が並んでいた。私と彼女は寄り添いながら余所見せずに陳列されている形見の骨董品を拝観した。陳列棚には美術品と共に名札や説明書きがされている物もあった。
斑な瑠璃色の光沢を放つ染錦鉄仙花花瓶や光収たる肌を纏う越前おはぐろ壷、名称不明の赤鉄たる備前焼などが展示されている。刀も四振りほど飾られていた。一振りは錆びていて長たる刃は朽ち果てていたが、崇高なる刀掛けに展示されている。
これら刀は無名の物と思われるが、刀剣鑑定証と共に展示されていることから、本物であることが解る。
さらに仏像を拵えた日本画、琵琶の花が描かれた物などが、陳列棚上部のガラスケースに展示されている。
奇妙にも隕石や、渦を巻いた形状の化石なども存在していた。説明書きにはこの地域の地層で見つかった物らしい。亡くなった宿主人は幾分、畸人たる趣味を持っていたようだ。
通路受付部屋の近くには、御札集と書かれた飾棚があり、怪異を感じさせるような、海亀や鶏、犬、雉などの剥製と共に御札が剥製横に展示されている。それらは剥き出しの状態で埃を被っていた。
一枚の黄み色に褪せた御札が、今にも千切れそうになっている。札には朱色で文字が書かれているが、劣化と朱墨の掠れのため読めなかった。動物の剥製は義眼なる眼球や耳、毛などが欠落している物が殆どで、少々気味悪い印象であった。
私たちが、宿に到着した際は気にならなかったが、薄暗い照明の中、こうして篤と見物していると、やはり不気味なものである。彼女は気味悪そうに見やっていた。
私たちのような素人が、これらの美術品を見ても良さは判らないが、日本美術品がこの温泉宿の雰囲気に合っていると言う事だけは判る。奇知気色じみた剥製を除いては。
陳列棚の片隅に年季の入った赤茶けた厚い封筒が目に入った。封筒には黴と思われる染みがあり、手書きで『幻夢郷』と滲んだ呂色のインクで記述されている。
私は無性に中身が気になった。私は手に取ろうとした矢庭に、老婆の枯渇した声が廊下に轟いたのである。ついとの事であった為、私の心臓は狂振めいて身体が発震した。その条件反射によって身体がよろめき、私は腕でバランスを取ろうと陳列棚に手を当てた。
その拍子に、剥製棚に展示されていた千切れかけの御札が完全に二枚に破れ、私たちの足元にひらと落ちたのである。私と彼女は慌てて広い上げ、元の場所に戻した。
その一始終を見ていた老婆が私たちに近寄ってきたのだ。私たちは咎めた思いで謝罪した。
老婆は顔の皺を収縮させ、何事も無かったかのように夕食の準備が出来たと告げ、私たちを二階の食の間へと促したのであった。




