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鳴子たる森  作者: 花美輪 乃霧
第一章
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5 森の果てに

 暗く湿った木漏れ日たる林の中で、狂気に恐舞いし逃げ惑う者一人。


 男の息は上がる寸前である。しかし脚を止める訳にはいかない。あの忌々しい畏怖なる存在者が背後に迫っているからである。

 森林に木霊するカラスの鳴き声すら、その男を恐怖たる冥府なる精神状態へ誘い続けるのだ。


 顔も服は泥傷にまみれ、片方の靴は何処かで無くしてしまったらしい。男は靴のことなど考えられない状況なのだ。兎に角、走る、死に物狂いで走る事が彼の唯一の助かる道途なのだから。


 彼自身、何故このような状況に陥ったのか、理解できていないらしく、戸惑いと恐怖の形相でただ只管ひたすら、走り続けるだけだった。

 背後に迫る金切り声を発しながら猛進してくる、奇知なる存在に只々恐怖し、怯え、戸惑い、走脚運動を続けるだけなのだ。


 異形なる恐声を放つ者が、エンジン音を憤慨させ始めた。低音に回転していた主軸は高音の金属が擦れる音に猛変したのだ。その音は狂乱たる音響で、逃げ惑う男の中耳を恐震させたのは間違いないだろう。


 男の眼前に一つの希望が見えた。鬱蒼と生い茂る林の中に、木漏れ日なる木造建築の小屋を見つけたのだ。質素な小屋には簡易的な煙突があり、そこから煙が出ている。男は不定なる者が小屋に存在していると勘ぐり、助けを求め、残る体力を小屋へと向けたのである。


 男は林を掻き分け、足を滑らせながらも小屋に着到ちゃくとうするやいなや、渾身の力で木造扉を叩き、哀願たる叫びを上げたのだ。

 返答は無く、恐々たる顔相と発狂じみた叫びのもと、扉の取っ手を激しく回転させた。

 磨耗した蝶番が擦り減る怪音を鳴らし、小屋は彼を向かい入れたのだ。


 男の眼前に広がるは、腐臭広がる慄然たる光景であった。ここは鬼畜外道たる畏怖なる存在者の住処すみかだったのだ。


 気付いた時にはもう遅く、彼の脊髄は奇狂めいた廻転音と惨血たる激痛と共に、頭部が木漏れ日に散り森の果てに刹那と消えていったのだ。


 畏怖なる影は新鮮たるむくろを小屋に引きずり込み、異臭を放つ蚯蚓みみずめいた贓物ぞうぶつえぐりだしたのであった。

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これは実際の呪術を使用して執筆された手記です。
精神疾患等の発病については著者は一切の責任をおいません

※すでに心臓疾患・精神疾患のある方は絶対に読まないで下さい
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