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鳴子たる森  作者: 花美輪 乃霧
第一章
3/20

3 黄み色の白墨

 泥道たる車道は宿に向かう道が西に一つと、さらに林に続く道が北、北東、南西に三つ、私たちが南から走ってきた道合わせて、計五つである。


 建物に続く不整備たる酷道こくどう脇に宿の看板が設置されていた。看板には和とみやびを感じさせる宿やど名が、全くの赤ではない日本的な赤い文字で書かれていた。その色は、網膜の錐体すいたい細胞に直接刺激してくる感覚であった。

 私はハンドルを左に切り、西に位置する建物に通じる泥道にアクセルを踏んだ。

 

 泥道たる西の道路は建物手前で無くなっている。終着点という訳である。


 建物は生い茂る広大とも言える林地の中に存在していた。建物の周りは森林となっており、さらに深く進めば樹林のようで、迷い込めば神隠しにされそうな雰囲気である。地元の人間でない限り確実に迷うだろう。

 これまで走ってきた道もそうであるが、成長した林が太陽の光を遮り、泥道に木漏れ日を作っている。しかしながら、大半が木影となっているので日差しによる暑さは感じないが、道は水はけが悪いのか、常に湿っているようで湿気がまとわりついてくる。


 宿の基本構造は瓦屋根の木造建築なのだが、コンクリート増築によって北側向きに不自然に長くなっているようだ。木造建築は雨風によって少々劣化している様子が伺え、防腐剤や塗料で入り口付近や戸口、軒先などを修繕した跡が見られる。

 コンクリートで増築されている建物の外壁は雨や鳥糞で汚れているのか、暗い黄み色の白墨しらずみに染まっている。これだけ木があるのだから鳥の糞で汚れるのは理解できるが、少々不潔な印象であった。

 運転席から見た限りでは二階建てのようだ。林の影に覆われ、鳥糞が染みこんだ不自然なコンクリート増築部が異様さを感じさせる。

 私の知り合いの気違い画家なる怪奇小説家気取りが、狂喜乱舞しそうな建築物である。


 入り口の正面左側に砂利が敷かれた駐車場が、建物外壁に沿って北西方面に伸びていたが。二十台分の車両スペースがあり、番号が看板に手書きで記されている。

 駐車場には四台の車が間を開け止まっていた。私は、宿の入り口から近い7番の駐車スペースに止めることにしたのだ。もちろん一番近いスペースは止められていた。


 私がギアをバックに入れると歩行者警告音が車から発報し、それに驚いた鳥たちが北東方面に飛び去った。

 

 私と彼女は車から降り、改めて建物を見やった。妙な不思議さを感じる。というのも、やはり増築部の違和感は否定できなかった。コンクリート増築された建物は装飾が一切なく、無機質で何か工場の様な印象を受ける。さらに良く見ると、つたが屋根まで這っており、林で影になっていることもあって少々薄気味悪い。

 

 車が四台と少ないのは、この辺境の地を見れば察することができる。以前、私が家族と栃木の塩原温泉を回遊した際も、閑散かんさんとしていた。観光地であっても繁盛するシーズンというものがあるらしい。恐らくここもそうなのであろう。まだカエルが鳴く時期なのだから。


 さりとて、今晩のことを考えれば、そんなことはどうでも良いことなのだ。


 彼女は高く育った木々と建物を眺め、静かで良さそうな所と呟いていた。


 彼女が満足してくれれば、それで良いのだ。私は彼女の湿り気のある柔らかい手を握り宿の入り口へと向かった。

 ※酷道 造語で不整備の道路。主に通行困難、通行障害が多発する国道をさす。この手記では、漢字の持つ雰囲気と、整備されていない道という意味で使用している。



 ※白墨はくぼく または「しらずみ」。二つの読み方があり、この手記では「しらずみ」を使用した。

 「はくぼく」 チョークのことである。現在は石膏や白亜が原料である。


 「しらずみ」 聞きなれない読み方であるが古来日本では日本画に胡粉(貝)を磨り潰し、画材として使用されていた。


 カラスの糞を実際に観察したところ少々、色と粘度が膠で溶かした「しらずみ」に似ていたのでこちらを使用した。

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これは実際の呪術を使用して執筆された手記です。
精神疾患等の発病については著者は一切の責任をおいません

※すでに心臓疾患・精神疾患のある方は絶対に読まないで下さい
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