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鳴子たる森  作者: 花美輪 乃霧
第二章
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20 共轟

 男たちは硫黄臭い石床の洗い場で談笑の声を挙げていた。蛇口から垂れ流される温水泉は湯舞する蒸気を挙げ桐桶へと注がれる。桐桶に溜まった湯を男たちは首筋から勢い良く掛けた後、立ち上がり温泉浴槽へと歩むのであった。

 男湯は女湯と同様の脱衣所であるが、入浴場入り口の能面が般若の面となっている。また入浴場浴槽壁に立て2メートル大の臼の木を接木し作られた能面が太い麻縄で飾り付けられている。湧きでる温泉の白灯する湯煙と暗明朱な照明によって奇怪的様相を見せながらも不思議と癒光的な感覚になる。男たちは鈍動たる動きで足先から満体と身体を湯に浸していく。湯壁に飾られた大きな能面が細目を薄っすら開け見つめるのであった。

 

 雷が警鳴を挙げ、嵐吹く林道に一台の紅銀色の軽自動車が風と不整備な道に揺らされながら、走っている。分岐道の近くに一体の藁で出来たカカシを発見した運転手は車を止め、助手席、後部座席に座る仲間たちと共に車外へと降りたのである。乗車していたのは4人の若者で、三人が男、一人が女性で皆20代の学生のようだ。若い訪問者たちは安物の雨合羽を着ている。一人の耳ピアスの男がカカシに近寄りハンディーカメラでもってその奇妙な藁人形を撮影し始めた。女と痩系の長髪男は気味悪がる様子を見せている。小太りの短髪男が奇怪な藁人形に近づき、嘲笑しながらもカメラの前で素人的若言でリポートを始めた。そのリポートを簡素に終えると小太りの短髪男は藁人形を軽く小突いたのである。その矢瞬に閃光が高速に流れる雲空に轟音の如く走り、一瞬の稲光の後、藁人形の頭部と思われる楕円形に形勢された藁の集合体が、泥地へと転がり落ち泥飛沫を散飛させたのだった。若者たちはその様子に悪笑的興奮の心理状態で面白がっていた。その様子を運転手の若男がカメラに収めるのであった。


 裸体の男たちの入る温泉大浴場に雷の共轟が反響した。浴槽壁に鎮座する臼の能面がゆるりと、細目たる冥府なる瞳を一人の短髪男の頭頂部たる百会に傾け始めるのであった。



 

「共轟」 共に共有する轟音のことで、現在は恐らく使われていない。辞書にも載っていないと思われる。平安時代に使用されていたと考えられるが、詳細は不明。


 今回使用した「共轟」はある一つの音を共有するという意味で使わせてもらった。ドイツのハイデッカーの「存在と時間」からヒントを得たことをここに記しておく。 

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これは実際の呪術を使用して執筆された手記です。
精神疾患等の発病については著者は一切の責任をおいません

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