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鳴子たる森  作者: 花美輪 乃霧
第一章
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2 林道

 私は左手でラジオを切った。この蒸し暑い時期になると急に、ホラー話が蔓延するものなのだ。テレビやラジオでも取り上げられ、特集まで組まれる。私自身、そういう話は嫌いではないが、やはり懐疑的に見てしまう。

 この科学が発展した現代においては当たり前な話だ。殺人鬼はまだしも、幽霊や祟りなど本気で信じてしまったら、それこそ精神病院送りだろう。しかし、世の中の人間は恐怖を望んでいるようである。本屋には幽霊や怪奇現象を扱った小説の類は山ほどあり、レンタルビデオ屋にはホラー専用の棚があるのだ。数年前に井戸から幽霊が這い上がってくる映画がヒットした。やはり人気なジャンルでもあることは否定できない。

 ホラーと怪奇は少々違う意味合いがあると私は感じる時があるが、説明するのはどうにも難しい。感覚的な問題なのだろうか。


 前方50メートルに急カーブの道路標識が見えてきた。私はブレーキを踏み速度を落とす。カーブは林崖になっているようで、私は慎重になった。30キロ近くまで速度を落とす。雨風にさらされて、錆び色で斑になっている白いガードレールが見えてきた。

 この林道は明かりもなく、人通りも無いようだ。こんな辺鄙へんぴな所に本当に温泉宿があるのだろうか。と思いながら、カーナビを見た。かれこれ一時間以上はこの曲がりくねった林道を走っている。

 まだ明るいが、夜になれば暗闇に包まれるだろう。


 今日は特別な夜になるので待ち遠しい。早く温泉宿に到着したいものだと私は考えていた。

 隣から聞こえる、色気のある寝息を聞き、今晩の営みを想像しながらハンドルを左に切った。車体に妙な遠心力が加わり、体が横に引っ張られる感覚だ。

 カーナビを見る限り、そろそろ温泉宿のようである。到着予定時刻は十六時二十一分となっている。あと十分もすれば到着する。しかし、宿に近づいているのにも関わらず、看板も無く、道はアスファルトから泥道になりはじめ、この林道に温泉宿が本当にあるのかと不安になってきた。


 しばらく進むと、前方右側になにやら人影が見えた。良く見ると人ではなく藁で作られた、一体のカカシだった。このような畑もなく、ただ雑草と林が生い茂る場所にカカシとは、なんとも不思議である。私はそのカカシを横目に目的地を目指した。


 助手席から女のあくびが聞こえ、大きく胸を反らせ背伸びをしているようだ。

 この女は私より二歳年上で、私と同様フリーターである。見た目は決して美人では無い。鼻は少々上向きで、唇は厚く、眼は離れ垂れ気味、顔は所謂いわゆる醜悪しこめと言われる部類だろう。しかし、声や体つきは色っぽい。

 バイト先で知り合って、先月から付き合い始めたのだ。

 今日は彼女と二人きり、誰にも邪魔されず、静かな温泉宿で愛し合うのだ。そのためにこの辺鄙な宿を予約したのである。


 情報化社会とはなんとも便利なものである。インターネットで「静か」で「安い」「温泉宿」と検索すれば一発で教えてくれる。まことに便利な世の中である。私が小学生の時はまだポケベルで情報通信に限界があったが、今ではパーソナルコンピューターやスマートフォンなるもので世界中の情報を瞬時に調べることが出来てしまう。驚異的な発展である。


 彼女のあくびが終わると同時に、カーナビから目的地を知らせる音声が車内に響き、眼の前に古びた建物が見えてきた。

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これは実際の呪術を使用して執筆された手記です。
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