18 落舞いした札
二人の現代的アベックは、藺草香る二階の自室にて時折り点雷する音響の中、濃厚たる接吻に舞いしていた。若い男は鮮やかな女の金髪を指隙に絡めている。一通りの吻誓の儀式が終わると、二人は洗面用具を腕に抱え自室を去った。
金髪の女と短髪の若い男は、薄明に照らされた廊下に影を落とし一階の温泉浴場へと足を進めたのである。
二人が階段に差し掛かると、後方から鈍音が響いた。背後の廊下突き当たりに飾られていた能面が床に落ちたのだ。二人のアベックは能面に振り返りはしたものの嘲笑の表情を作り、落ちた能面を尻目に階段を下った。
能面は冥府なる瞳を見開き天井を見つめるだけだった。
アベックが一階に足を下ろすと、四十代の夫婦が剥製を眺め、慌てた様子でアベックの方を向いた。夫婦の足元には黄ばんだ破紙が落ちていた。白髪の男は急いで拾い上げ、苦笑いを浮かべながら元の場所へと戻したのである。
アベックが夫婦に近づくと四十代の夫婦は展示されていた破れかけの御札が千切れ落舞いしたことを説明するのであった。また御札が落ちたとき背後に足音が聞こえたので狂震してしまったとアベックに説訳したのである。
その様子を影なる者が地下階段から不適な笑みを浮かべ見つめていた。
四人は雷響を背に温泉浴場に通じる廊下を進むのであった。
四人の影が浴場へと消えたと同時に地下に潜んでいた影が陳列棚の前に歩を進め、落舞いした札に鋭視を向けた。
千切れた御札には「口」と記されていたのであった。




